第3話 曲決め
また今日も俺はスタジオへ向かう。だが最近は、
バンドの練習をする、と言うよりか
凛月に会いにいく、という気持ちの方が強い。
出来るだけこの2つの感情を丁度いいバランスに
保たないといけないのはわかっているが、昨日みたいに凛月にいい所を見せて、良い感じにならない
かなと、電車に揺られながら思った。
スタジオへ着いた。今日は俺よりも早く2人がいた。
「ちょっと輝三田遅いぞ〜?」
凛月が煽り気に言ってきた。ちょっとムカッと
きたが、この可愛い面を見ると怒る気も失せる。
はいはいと受け流し、ギターの準備をしようとしたら、
「透、今日は楽器の準備しなくていいよ。」
と俊に言われた。頭にハテナマークが浮かんだが、
とりあえず、椅子に座った。
「じゃあ今日は次のライブでやる曲決めしよっか。」
そう言われてハッとした。そうだった、3ヶ月後
ライブだったんだ。というバンドマン失格な事を
思ってしまった。
「今回の俺らの出演時間は僅か5分ちょっとだ。」
と俊が衝撃的な事を言った。
「そんなん1曲ぐらいしか出来ねぇじゃん!」
と思わず口にしてしまった。凛月も俊の方を向いて
頷いている。
「そう、だからその1曲で俺らの最高の演奏をする
しかない。」
その俊の言葉から3人で本気で悩んだ。
パンク?グランジ?メタル?いろんな意見が出たが、
あまり納得いく曲が見つからないまま、日が
暮れてしまった。全員が悩んでいる中、俺は自分が
心の底から思っていた事を口にしていた。
「俺はやっぱ、凛月の声が一番映える曲がいいと
思う。」
凛月がビクリと反応した。
「確かにバンドって、楽器の演奏者一つ一つに個性があるけど、一番違いが出るのってやっぱボーカルなんだと思うんだ。」
とまるでオタクが推しについて語るような言い方で
言ってしまった。2人がきょとんとした顔でこちらを見ている。
「わ…悪い…つい口走って…。」
その時凛月が声を張り上げた。
「いや…むしろありがとう。お陰でなんか…自信
ついたよ…!」
「そうだな、透の言う通りだよ。やっぱりうちの
フロントマンは凛月だもんな!」
と俊らしくなく元気な声でそう言った。場の空気を乱してしまったと焦ったが、2人の意見を聞いて
ほっとした。
「じゃあ今回歌う曲は凛月1人で決めてもらおうか。」
その意見に俺も賛同した。凛月もにっこりし、スタジオの中は暖かい雰囲気になった。もう夜遅いので、
2人を駅まで見送らせるのも嫌なので、その日は
スタジオから一人で駅へ行く事にした。
暗い道、電灯の明かりしかない所で、俺はなにか気配を感じた。嫌な予感がして、ふと後ろを振り向いたら、なんと凛月の元カノが居たのだ。今日は凛月も
居ないし、何が目的かは分からなかったが、すぐに
でもそいつと距離を置きたい俺は、昨日と同じく
路地裏から駅へ向かうことにした。
路地裏に入ると、そいつも着いてきた。本当に何が
狙いなんだと思いヤツを見ると、手にはメモ帳と
ペンを持っていた。本当に何かしたいんだと思い
ながら歩いているといつの間にか駅に着いた。
路地裏から出るとそいつは出口の所で止まり、
不敵な笑みを浮かべながら路地裏へまた入って
いった。マジで変なヤツだなと思いながら、
電車に乗った。