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少女と竜は今日も旅をする。  作者: 白浜ましろ
Episode 4.紡がれゆく時にて繋がりの結びとなる
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少女達と竜は今日も仲良し


 切り立った峰々が高くそびえ、その山群へと伸びる轍道にティシェ達の姿はあった。

 麓の草原に続くその轍道は、この先の村で暮らす人々が日常的に使っているのだろう。遠目に地竜が引く荷車が見えた。

 山群を背にした麓の村。緑の草原と背後の岩壁の対比が目を見張る。


「のどかな場所だな」


 頭巾(フード)を被ったティシェが、少しだけそれを持ち上げて視線を上げた。岩壁の照り返しに目を細める。

 畑が段々になった段々畑も見ることのできる草原は、まさにのどかと感ずる風景だ。

 遠くからはカウベルの音も聴こえ、牛がどこかで放牧されているのだろうか。

 隣を歩くトールもまた、被った外套から風景を眺める。


「本当だね。山から吹き降りてくる風も涼しいし、麓の村で宿がみつかるといいけど」


 そう言って、彼は空を仰ぐ。凪の静かな空気が頬を撫でる。

 遮るものもなく、雲もまばらに晴れ渡った空は気持ちいいが、夏をまとい始めた陽射しはじりじりと強い。

 日除けにそれぞれ頭巾と外套を被るも、頬や背にたらりと伝う汗の存在には気付いている。

 けれども、時折山から吹き降りてくる冷やされた風が、その不快感を少しばかり和らげてくれていた。

 点在する背の高い木々の梢の音を耳にしながら、しばしその心地に感じ入った。

 ここが谷に位置する場なため、風の通り道でもあるのかもしれない。


「もういっそ、取ってしまうか」


 ティシェが頭から頭巾を取る。

 やっと息継ぎができた言わんばかりに、ぷはっ、と小さな吐息が彼女からもれた。

 隣でトールが息を引く。なんか、かわいいかも、と思うと同時に、トールは胸奥が疼いた気がして、思わず手で胸元をさすってしまう。

 そして、すぐにはっとする。


「……いやいや、何が疼いたのさ。ちょっと冷やそう、何かを」


 トールも被っていた外套を取る。頃合いよく風が吹き降り、身にまとう外套をはためかせた。


「トール? どうかしたのか」


「ううん。なんでもないよ、ティ……シェ」


 少しだけもごついたトールの顔をティシェが覗き込み、その蒼の瞳をぱちくりと瞬かせる。そして、ゆっくりとその瞳を細めて笑った。


「いいよ、ティシェで」


「う、うん……じゃあ、ティシェ、で……」


 お願い、します。とトールはティシェから目を逸らす。

 ティシェはそんなトールを気にする様子もなく、彼の先を歩く。けれども、その彼女の足取りがいつもよりも少しだけ軽やかな気がして、機嫌がよさそうにも見えた。

 些細な違い。でも、それが判るようになった自分にも、トールは正直に驚く。

 確実に起こった自分の内面の変化。戸惑いがあるのもわかってはいるが、嫌じゃない。それだけ解っていれば、今はいいような気がした。

 と。遠目に見えていた荷車が近付いていることに気付く。


「ティシェ、端に寄ろう」


 先を歩いていたティシェの手を引いて道の端に寄ると、トールは彼女の反対側に位置取る。

 太い四肢ゆえか、どすと重さある地竜特有の足音が響き、その合間をからからと荷車の車輪の音が絡まる。

 地竜が引く荷車には鍬や堆肥などが積まれており、地竜の背に麦わら帽を被った農夫の姿があった。


「お前さん、少し停まろうか」


 農夫がべちべちと地竜のおうとつある鱗を叩く。

 わりと強い音がしたが、これくらい強く叩かなければ地竜は気付かないのだ。

 んー、とゆっくりとした動作で地竜が農夫を振り返り、んーしょ、と声が聞こえてきそうな緩慢さで足を止めた。

 ふぅー、と地竜の鼻息で側の草が揺れた。

 農夫が麦わら帽を取って会釈する。白髪交じりの髪が風に揺れた。


「やあ、旅人さん」


「こちらこそ。麓の村の方ですか?」


 トールがティシェの前に出、にこりと笑顔を浮かべて会釈を返した。

 ティシェもトールの後ろで小さく会釈する。ここはこういった場に慣れているトールが適任だろうと、ティシェは少しだけ離れた。


「ああ、そうだよ。こんな麓に旅人さんが来るのも珍しいからね、ついつい足を止めてしまったよ」


 朗らかに笑う農夫の空気と、のどかな麓の風景はどこか同じように感じられた。


「旅人さんはどこから来たんだい? 山越えをするにも、人の足で越えるのは難しかろうに」


「僕達は空越えで少しずつ」


「ん、空越え……?」


 聞き馴染みのない言葉に農夫が首を傾げた時、空から二つの影が彼らの上に落ちた。

 ばさり、ばさり。被膜と翼の羽ばたく音。農夫が空を仰いで目をまん丸にした。

 ぬぼぉとしていた地竜が顔を上げ、トルルゥと同胞を歓迎する声を上げた。

 ピルルゥ、フルゥ、とそれぞれの応えの声と共に、グローシャとアーリィが空から舞い降りる。

 そして、最後にすいっと余分に旋回をして、ラッフィルがトールの肩に留まった。

 心なしか、胸を張っているように見えるのは気のせいだろうか。

 ちなみにカロンはティシェの影から顕現すると、彼の存在に気付いた地竜から、鼻先を押し付ける挨拶をされていた。


「はぁあー……これは驚いたね」


 まあるくした目に、口を開けていた農夫は、やがてくしゃと笑うと、あはっと声を上げて笑う。


「空の旅人さんだったのかい。いや、竜が並ぶと壮観だ。……なるほど、自然竜かぁ」


 納得げにうんうんと頷く農夫に、ちょっと退屈な様子のアーリィはトールの頭に顎を乗せた。

 のし、と重さをかける彼女に、トールは農夫に向けた笑みはそのままに小さく呻く。

 一方のグローシャは農夫と地竜に向け、ピルッ、と挨拶をしっかりとし、アーリィへ社交性を見せ付けていた。

 カロンはカロンで、きちんと地竜に挨拶を返せたようで満足げな様子だ。


「ははっ、仲が良さそうだね」


「仲は悪くないと思います」


 トールは重さをかけるアーリィを手で押し退けながら、けれどもアーリィが抵抗する中で「ところで」と話を切り替える。


「麓の村に宿はありますか?」


「宿かい? そうだねぇ、あまり旅人さんも訪れないような村だから、ないといえばないかな」


「……そうですか。わか――」


 りました、とトールが言葉を返す前に、農夫が話を切り込んできた。


「けど、お願いを聞いてくれたら、泊まるところの提供はできるかもしれないかな?」


 トールは瞳を瞬かせる。彼の反応を敏感に察知したアーリィも抵抗を止めた。

 トールが窺うように後ろのティシェを振り返る。

 振り返られたティシェも話の行方が見えなく、首を左右に振った。そして、二人して農夫を見やる。

 二人の視線を受けた農夫は、楽しそうでありながらも、朗らかに笑うのだった。

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