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やさしい家族ごっこ  作者: Mariko
しゃっくり
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2

「ご褒美は決まったか?」

 体操着に着替えるために隣の教室に向かう私を追いかけて、健吾が訊いてくる。

「うるさい。付いてこないで」

「トイレ行くんだよ。お前の着替えなんか覗くか」

「そこまで言ってないし」

「何だよ。飼い主様が着替えんの手伝ってやろうか?」

 体操着の入った巾着袋をぶつけようとしたけど、ひらりとかわされてしまった。

 ムカつく。


「ほんとに仲良いよね」

 教室に入ると、石川美緒(みお)に話しかけられた。

 ちゃんと話すのは初めてのはずだ。去年も別のクラスだった。今年から、2クラス合同で行われる体育の授業で一緒になって、先週やっと顔と名前が一致した。


 おしゃれで可愛い女の子。その第一印象は、今日に至るまで変わらない。

 つまり、私とは縁のない人間だ。


「付き合ってるの公言してるのって、いいよね。羨ましい」

 話しかけられたことにびっくりして、否定が遅れた。

「付き合ってないし、仲良くもないよ。あいつが変な悪ノリしてるだけで」

「そうなんだ」

「え?」

 信じてもらえたのが意外すぎて、思わず聞き返してしまった。

「あはは、何でびっくりしてるの?」

「いや、信じてもらえると思わなくて……」

「何でよ。本人が言ってるんだからそうなんでしょ」

 そう言って、石川さんはケラケラと笑った。

 なんて良い子なんだ。可愛いだけの子かと思っていた自分を殴りたい。


「でもさ、」

 逆接の言葉を口にした石川さんは、私の横でのんびりとシャツのボタンを外している。

「清水くんって、結構イケてるよね。いい感じに筋肉ついてるし、顔もシュッとしてるし」

 耳を疑った。

「え、石川さん、あんなのが好きなの?」

 あんな幼稚な男、絶対やめた方がいい。

「やだ。私、彼氏いるし」

「ああ、なんだ。良かった」

 心底安心して、ため息をつく。

「えー、その反応、やっぱ健吾くんのこと好きなのぉ?」

「違うよ。健吾なんか石川さんと釣り合わないと思って」

 弁解しながら、先ほどの石川さんの『付き合ってるの公言してて羨ましい』発言を思い出した。

「石川さんは、付き合ってるのみんなに知られたいの?」

 周りから冷やかされたりして、面倒くさいだけだと思うけど。

「うん。だって、内緒にする必要なくない?」

 逆に問い返されてしまった。

「そう……かな」

 本当に付き合ってたら、気にならないものなのだろうか。


「うちの彼氏、学校で話すのもすごい嫌がるんだよ」

 石川さんがスカートを脱ぐと、ブラジャーとお揃いのラグジュアリーな下着が現れた。

 私のとはえらい違いだ。恥ずかしい。

「何をそんなに警戒してんのって、意味不明だし」

 下着姿でぶつぶつと文句を言っている。

「同じ高校なんだ?」

 目のやり場に困りながらそう確認した。

 私は人よりも着替えるのが早いみたいで、とっくに着替え終わっている。

「うん。澄麗ちゃんと同じクラスだよ」

 あ、名前呼びだ。

 石川さんって呼んじゃったけど、私も名前で呼んだ方がいいだろうか。

 ……じゃなくて。


「えー、そうなの?誰誰?」

 訊いてほしそうな気がして尋ねたら、

「遠藤明。知ってる?」

と、石川さんはあっさりと答えた。

 知ってるも何も、私の前の席の男だ。健吾との仲をしょっちゅうからかってくる奴だ。

 まあでも、健吾よりはよっぽどマシか。


「幼馴染でさ」

 ジャージのスラックスに足を通しながら、石川さんが続ける。

「だから照れてるだけなのかもしんないけど、それにしてもって感じ。本気じゃないのかなとか、時々思っちゃって。なんか悲しくなっちゃって」

 結構悩んでいるようだ。

 何も知らない私が、そんなことないよと否定したところで、何の気休めにもならない。

 遠藤め。こんな可愛い彼女を悲しませやがって。


「なんて。あはは。そんな同情した顔しないで。一回ちゃんと痛い目に遭わせてやるんだから」

「……え?」

 急に怖いことを言い出すから、ギョッとした。

 何をする気だろうか。

「これから仲良くしよ。よろしくね、澄麗ちゃん」

 動揺する私をよそに、石川さんはにっこりと笑って、その話題を終わらせた。

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