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やさしい家族ごっこ  作者: Mariko
爪切り
5/90

5

 健吾の家は、駅を跨いで数分ほど歩いたところにある。

 健吾の家に行くのは、2年前に泊めてもらった時以来だ。震える私の手を繋ぐ、健吾のひんやりとした手が心地よかったのを、朧げに覚えている。


「あら、澄麗ちゃん」

 健吾のお母さんがキッチンで出迎えて言った。

「もう健吾と仲良くしてくれてないのかと思ってたわ」

 心なしか、言葉に棘がある気がする。

 相変わらず私に対する心証があまり良くないようだ。

「母ちゃん、いいから」

 リビングに鞄を置いてきた健吾が、ぶっきらぼうにいなして、冷蔵庫からお茶の入ったポットを取り出している。

「あの、陽介がいつも図々しくお世話になってすみません」

 最近は夕飯まで食べて帰ってくるようになった。

「いいのよ。陽介くんは、うちの方が居心地がいいみたいだから」

 なぜか、陽介のことは昔から気に入ってくれているのだ。明里ちゃんと付き合いはじめた時も、早すぎるのではと心配したのは私だけで、健吾のお母さんはすぐに受け入れた。

「それで、今日は?おうちでまた何かあったの?」

「母ちゃん」

 健吾は、少し不機嫌な声を出して、私の肩を押しのけた。

「もう挨拶済んだだろ。明里にも会ってくか?」

 私に向かってそう言って、コップのお茶を飲み干した。


 

「お姉ちゃん!」

 明里ちゃんの部屋に行くと、陽介と勉強していた明里ちゃんが弾んだ声をあげた。

 家族ごっこを続行しているのは健吾だけではない。明里ちゃんも、私のことをずっと『お姉ちゃん』と呼んでくる。

 ただし、明里ちゃんにそう呼ばれるのは全然嫌ではない。むしろ嬉しい。明里ちゃんみたいな可愛い妹は大歓迎だ。


「何の用?」

 陽介がオレンジジュースの入ったコップを手に訊いてくる。

 我が家のようにくつろいでいて、確かにうちにいる時よりも居心地が良さそうだ。

「あー、ちょっとおばちゃんに挨拶を……」

 健吾を帰しにきた、と正直に言うのは明里ちゃんの手前憚られて、適当に誤魔化した。

「姉ちゃんがそんなことする必要ないよ」

「そうはいかないでしょ。あんた夕飯まで食べさせてもらって」

「あ、今日も食べて帰るから」

 陽介が当たり前のように言うのを、

「今日はもう姉ちゃんと一緒に帰れ」

と、健吾が一蹴した。

「えー、おばちゃん唐揚げ作ってくれるって言ってたのに」

 陽介が文句を言う。

 そんな駄々っ子みたいな顔、うちでは見せないのに。

「悪いな。唐揚げは俺が食うわ。義信さんの飯も割と美味いだろ」

 健吾がそう言い聞かせている。

 陽介がここで夕飯を食べる日は、代わりに健吾が私の家で食べる。そんな取り決めが、私の知らないところで交わされているようだ。


「やだ、まだ一緒にいたい」

 素直に片付け始めた陽介の服の裾をつかんで、明里ちゃんが可愛く駄々をこねる。

「ごめんな。帰ったら電話するよ」

 陽介が立ち上がり際に、明里ちゃんの頬にキスをした。

 姉の前でよくやる。中学生のくせに。

「やめろ、俺の前で」

 健吾が陽介の足を軽く蹴る。

 シスコンは健在なようだ。

「うっざ」

 対する明里ちゃんは塩対応だ。

「そんなぁ。明里ぃ」

「近寄らないで」

 健吾が妹の頬にキスしようとして、思いっきり蹴られている。

 まったく、見てられない。

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