第80話 その頃の魔王軍
ラッシュたちが後始末を始めた同じ頃。
大森林を抜ける異形の集団がそこにいた。
魔王軍である。
「全員無事であったのは嬉しい僥倖でした」
大森林に入る前に予め決めていた合流場所に辿り着いたガルドフとレヴィアは撤退を開始した。
「……良かったのか?」
「何がでしょうか?」
ふと後ろに続いていたレヴィアがガルドフに訪ねた。
「久方ぶりの姉との再会。もう少し話しても良かったのだぞ」
愛憎抱いた姉であるヴェロニカとの邂逅。
一時はどうなるかと思ったが、共に共闘していた限り、わだかまりも解けたかのように見えた。
「なんであれ、あの女は勇者ラッシュと行動しています。あの時は優先順位から共闘しましたが、いまだに敵であることに変わりはありません」
「……そうか」
いつもの鉄面皮で話しているつもりだろうが、その端々には様々な感情が見え隠れしているのを、ガルドフは見逃さなかった。
なんともまあ、意固地というか、融通の利かぬことだ。
もっとも、自分も人のことを言えた義理ではないかもしれないが。
「むしろ勇者ラッシュをあのまま放置して良かったのでしょうか?」
「構わぬ。彼らと泥沼の戦いに発展するより、確実な収穫を持ち帰ることが優先だ」
ガルドフが目をやると、そこには今回の収穫……氷漬けになったジャクムが運ばれていた。
仮死状態ではあるが、完全に死んではいない。
この男には他にも色々と聞きたい事がある。
普通に拷問して聞き出してしまってもいい。なんなら、いっそ殺した後にでも、メアの死霊術で従属させれば、ほぼ確実に情報を抜き出せるだろう。
「……そちらは向こうについてから決めるか」
「しかし、まさか勇者が大人しく引き渡すとは思いませんでした」
あの時、ジャクムの急所を外したラッシュ。
彼は結局ジャクムにトドメを刺すことができなかった。
ガルドフはそんな彼を嘲りも罵ったりせず、一言『我らが引き取ろう』と申し出た。
彼も馬鹿ではない。
自分らが本来は敵対関係である事を理解していたはずである。
『そうだね。君たちの方がよっぽど有効に使えると思うから』
ラッシュはそう言って素直に頷いたのだ。
(……信用でもされたか? 馬鹿な)
思わずガルドフは苦笑してしまい、横のレヴィアは首を傾げるが、気を取り直したように言葉を続ける。
「既に我らの道は分かたれました。次こそは奴らをこの手で葬ってみます」
「……そうか。ならばいずれはまた交差する時もこよう。共に楽しみにしていようではないか」
「べ、別に楽しみになんてしておりません――!」
他意なく武人として相対する日を心待ちにしようという意味で言ったのだが、なぜだか珍しくムキになるレヴィア。
今度はガルドフは首を傾げながらも、一つだけ訂正しておく。
「それとレヴィア。奴はもう勇者ではない。名はラッシュだ」
「? は、はあ。彼の本名は把握しておりますが……」
「それならば良い」
いまいちわからずに、他の魔王軍たちも顔を見合わせるのみだった。
「はたして、次に彼らと会う時は今度こそ敵として相まみえるか、それとも再び共闘するか」
「……」
レヴィアも否定しない。
二人はなぜだかその時が待ち遠しかった。




