第71話 反撃
現れた新たな闖入者たち。
動きを封じられた白装束たちや守られているラスタたちも困惑する。
そんな彼らの心境など無視して、シスカはヴェロニカの方へと向き直る。
「……それでヴェロニカ。ラッシュはどこですか?」
「うむ? ああ、あいつならはぐれたぞ」
「……何ですって」
ヴェロニカの言葉にシスカは愕然とする。
「そんな……それでは何のために、このトカゲ女を助けたのでしょうか。……これならば、彼女がやられた後にそちらのエルフの方々を助けるべきでした」
「言いたい放題だな、聖女様」
ビキビキと額に青筋を立てながら、立ち上がるヴェロニカ。
ギャアギャアと言い合いを始める二人に、長はなんとか絡みつく糸を振りほどこうとするが、その瞬間に糸はさらに締まる。
「ぐぅ……。貴様ぁ……!」
「ですから無駄な抵抗はやめてください。無理に動こうとするとズンバラリといきますよ?」
「……今さらだが、お前本当に聖女か?」
駄目押しとばかりに、さらに男たちを雁字搦めにするシスカ。
さすがのヴェロニカも引き気味に尋ねる。
「ええい。ワシもいい年なんじゃぞ! 突っ走るでないわ!」
「……すげえな。こんな道があったなんて。これ歴史的大発見じゃね?」
「ってあれ? 戦闘中!? どういう状況だよ、これ」
するとそこへ冒険者たちも遅れてゾロゾロやってきて、騒ぎ始めている。
魔物相手に無双するシスカやガンズが頼もし過ぎたせいか。
彼らの出番はほとんどなく、ほとんど観光状態となっていた。
「おい、ヴェロニカ。大丈夫か?」
「なんとかな。しかし、随分と騒がしくなったなあ」
「オヌシ、なんでボロボロなのにそんな余裕なんじゃ。……しかし、あんたは混ざらんのか。同じ種族っぽいのがおるが、アレは知り合いとかじゃないのか?」
「同じ種族? ……レヴィア!? お前どうしてそいつらと一緒にいるんだ⁉」
ヴェロニカの言葉にシスカはレヴィアを見る。
やはり彼女らは知り合いだったらしい。
「……い、いえ。赤の他人です」
当のレヴィアは汗だくになりながら、明後日の方向に目を向ける。
いまだに認めるつもりはないらしい。
(これはまずい。非常にまずい。このままでは自分の素性がばれてしまいます。どうにか誤魔化さねば――)
汗だくになって考え込むレヴィアをガンズとシスカは冷ややかに見ていた。
(まだバレてないと思ってるんだろうなあ……)
むしろ、まだ誤魔化せると思っている彼女の方が驚きであった。
「ヴェロニカ、彼女とはどういうご関係ですか?」
「おう。あいつは私の妹だ」
「なるほど。道理で似ているわけです」
秒で解決してしまい、向こうの方でレヴィアは頭を抱えてアーッと奇声のような悲鳴を上げていた。
「あなた方はさておいて、とりあえず、そこの白装束の方々、色々と事情を聞かせてもらいます。さもなくば……」
「――さもなくば、なんだ?」
突如、聖糸を解き自由となった男が、シスカに向けて何かを飛ばした。
「えっ――!」
余りにも突然でシスカは対応しきれずに、そのまま長が投げた何かに顔面を貫かれる――寸前、ヴェロニカがソレを素手で握り止めた。
「ほう。面白い剣だな」
握った手から血が滴り落ちている。
それは節ごとに外れて伸びた刃だった。
しかも、ヴェロニカに止められてもなお、鞭……いや蛇のごとく自在に動いている。
「……我等は、我等はここで終わるわけにはいかんのだ!」
叫ぶとともに、ヴェロニカが握っていた刃節が外れる。
男は剣を鞭のようにしならせ、今度はガンズに向けてそれを飛ばす。
しかし、ガンズは大剣で器用に弾く。
「長殿……!」
しかし、それはブラフ。
彼が弾いた刃はそのまま軌道を描いて、部下の白装束たちも拘束していた糸を切り裂く。
「征け、貴様ら!」
「「「はっ!」」」
解放された白装束は武器を構えて、冒険者たちも応戦しようと戦闘態勢になる。
あわや泥沼の戦いになりかけたその時。
「レヴィアッ!」
妹の名を叫ぶながら、ヴェロニカが走る。
冒険者でも、白装束たちでもない。
彼女はたやすくレヴィアの所まで駆け寄り、彼女の手錠……魔力を制限していた錠を破壊した。
「私と戦いたいならいつでも相手をしてやる。今はわかっているな?」
「――!」
言われたレヴィアは全力で冷気を放出。辺り一面を一気に凍らせた。
見境なしの無差別攻撃……ではない。
白装束の連中だけが、氷によって再び動きを封じられる。
冒険者やエルフの二人は無事。敵以外は一切影響を受けていない。
とはいえ、土壇場の一瞬のものだ。
ましてや、薄い氷の拘束などすぐに破壊してしまう。
しかし、その一瞬で十分だった。
「おい。俺たちを無視するなよ!」
「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」
ガンズが背負った大盾や剣の鞘で彼らを殴りつけて気絶させていく。
「み、皆さん、これで片付けました」
無害アピールのつもりか、レヴィアがシスカたちへと改めて報告する。
ヴェロニカの方には目も合わせようとしなかった。
「おいレヴィア。さっきの私はファインプレーだったよな!」
「……」
「ええ……。無視するなよ……」
いまだに無視されるヴェロニカは少しばかりショックを受けたような顔をしている。
「おのれ……!」
凍結を逃れた長は同じように無事だった部下を集める。
人質も奪い返された上に敵が増えた。
状況は悪くなる一方だ。
(どうする? このまま戦っても敗北は目に見えている。クソッ。ジャクムの奴と連絡を取って……いや、間に合わん。いっそアレを起動させて……論外だ。そうなれば全てがご破算になりかねん!)
そこへ大きな揺れが、そこにいる者ら全てを襲う。
さっきの地響きとは桁が違う。
この遺跡ダンジョンそのものが大きく揺れているのだ。
長は何かに気付いたように呟く。
「まさか……ジャクムの奴め。まさかアレを起動させたのか⁉」




