14.故郷の世界に帰るために
それからわたしは、忙しくなった。魔道具の評判が良くて、村の人たちが欲しがるので。ソルシエールも作れるだろうに、手伝ってくれないし。まあ、彼女には彼女の仕事があるし、魔鉱石の仕入れはしてくれるけどね。
「魔力灯は便利ですね。冷却石も、これから欠かせなくなりそうです」
村で会ったフィメーネさんにも感謝された。
「いいんですよ。この村の人たちには命を救ってもらった恩がありますし」
真珠子の魔法陣でいきなり転移させられて、オオカミの群れに襲われて死にそうになっていたところを、助けてもらったんだから。
「でも、本当に出て行ってしまうのですか? 魔道具もまだまだ足りませんし」
フィメーネさんが表情を曇らせる。あと一旬で、わたしが転移してから一年になる。それを機に旅に出ることを村の人たちには伝えてあって、旅支度も着々と整えている。
「すみません、わたしも家に帰らないと、待っている人がいるので」
『異世界から来たなんて言わない方が無難よ』とソルシエールに言われているので、村の人たちには『旅の途中で一人だけはぐれて彷徨っているうちに、たまたまこの村に辿り着いた』ということにしてある。みんなそれを信じているかどうかは謎だけど、深く突っ込まないでくれるのは有難い。
「でも、場所が解らないのでしょう?」
「取り敢えずは、大きな街に出て情報を集めてみます。無事に帰ったら、また来ますから、それまで待っていてください」
「ええ。必ず来てくださいね」
すぐにもお別れみたいな雰囲気になっちゃったけど、それは一旬ばかり先なのよね。まあ、いっか。
一旬は瞬く間に過ぎ去り、わたしの旅立ちの日が来た。麦を近くの町へ売りに行く村の荷馬車に同乗して、村を出た。あの、布を巻いた杖を持っソルシエールも付き添ってくれた。町で買い物でもあるんだろう。魔鉱石とか。
これから一人で見知らぬ大地へと踏み出すことなになる。最初にこの世界に転移して来た時に続いて二度目のこと。二度目とはいえ、ちょっと心細い。元の世界では一人旅なんてしたことなかったし。
でも、ソルシエールに魔術をしっかりと習ってきたし、魔道具というこの世界でも新しい力を手に入れた。これで何とかなるだろう。って言うか、何とかしなくちゃ。家族の元へ帰る手段を見つけるために。
「お嬢ちゃんがいなくなると寂しくなるなぁ」
馬車を御してきた小父さんが、荷馬車を降りたわたしに言った。
「これまでお世話になりました。機会があれば、またお邪魔させていただきます」
荷物を両手に下げたわたしも、別れの挨拶をして頭を下げた。
「ソルシエールもいなくなるなんて、寂しさも二倍だな」
御者台の小父さんの隣に座っている、お兄さんが言った。ってか、今なんて言った?
「何、阿呆面してるの? 行くわよ」
杖を持って荷馬車から降りたソルシエールは、麦の袋の陰に隠されていた荷物を降ろした。
「へ? え? ソルシエール、一緒に来てくれる、の?」
「当たり前でしょ。魔術を覚えたてで言葉も通じないような遠くから来た子を、一人でほっぽり出せるわけないでしょ」
ソルシエールが異世界云々の言葉を使わないのは、小父さんとお兄さんがいるからだよね。異世界のことはソルシエールにしか話していないから。この世界の遠くならともかく、この世界の常識とか知らないから放っておけなかったんだろう。
「ありがとう。実は一人旅が不安だったんだ」
「お礼はいらないわよ。ルリの知識や考えることは面白いし」
あれ? もしかしてそっちが本音? そういえば前に、わたしが元の世界に戻る手伝いはするつもりない、とか言っていたような。……そんなわけないね。ただの照れ隠しだよね、うん。
「でも本当にいいの? 村が困るんじゃ」
「大丈夫よ。医術に関してはフィメーネや他の何人かにも教えて来たし、魔術の教育は私でなくてもいいし。それに、前に言ったでしょ。私は元々根無し草で、村にはたまたま流れ着いただけだって。ま、居心地は良かったから、いつか戻るつもりだけれど」
「そっか。それなら、これからもよろしくお願いします」
わたしはソルシエールに頭を下げた。
「こちらこそ、これからもよろしく」
ソルシエールも優しく微笑んだ。
わたしたちは荷馬車の二人に別れを告げ、荷物を背負って街の中へと歩き出した。
「これからどうするのかしら?」
ソルシエールが聞いた。
「まずは、この国の首都を目指そう。そこまで行けば、色々な書籍があるんでしょ?」
「そうね。大きな図書館があるし、人も集まるから情報はこの国でも有数ね」
「じゃ、それで。途中の街でも情報収集しながら行こう」
わたしは異世界に転移して来てから一年を経て、新たなる一歩を踏み出した。
~to be Continued……?~
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