12.魔道具の可能性
魔力を貯められる石、ということで、まずわたしが魔鉱石に期待したのは、懐炉としての利用法。石鉢を火鉢のように使って暖を取っているけど、換気のために窓を開けているから、風の強い日は火を炊けないのよね。これからもっと寒くなったら、火を焚かずに窓を閉めた方が暖かいこともあるだろうし。
というわけで早速、もらった魔鉱石に魔力を貯めてみる。
「ふわ、吸い込まれるみたい」
実際のところは、身体からの魔力の放出を止めれば蓄積も止まるし、周りに魔力を漂わせても、吸い込むようなことはない。でも、なんだか魔力周りの空間の魔力は薄いままなのに、魔鉱石の魔力がどんどん濃密になっていく感じ。
でも、ある程度以上には濃くならない。これが、魔鉱石の魔力蓄積量の限界ってことかな。わたしからすると、なるほど、大した魔力量ではないけれど、わたしの十分の一くらいならともかく、百分の一しかない人にとっては、これは大きいかも。
魔力量の個人差の話は置いといて、この、魔力を貯めた魔鉱石を懐炉として使えないか、よね。確かに魔鉱石にはあたしの魔力が貯まっていて、そこにあることを知覚できるし、魔力を操作して魔鉱石の外に出したりまた入れたりできる。
ついでに、魔力が少しだけ外に滲み出ていて、というより、石の外にも少しだけ魔力が貯まるみたい。厚みにして二ミリちょっと、えっと、二テリンくらいかな。発散していかないのは多分、魔鉱石自体は魔力を生成しないからだと思う。
魔鉱石の魔力に意識を集中して、少しだけ熱に変えてみる。温かい。熱への変換をやめる。冷えた。
「……ってこれじゃ、普通に魔術を使うのと同じじゃないっ」
これをやるなら、魔鉱石いらないよっ。寝た後も熱への変換が継続してくれないと。うーん、うーん、どうすればいいか解らない。とりあえず、なんでもやってみよう。
魔鉱石を机に置き、少し離れて魔力操作。リモートでも問題ないね。
今度はそれを、熱……だと判らないので、光に変換。うん、光った。でも、魔術の行使を止めると消えてしまう。魔鉱石に魔力は残っているのに。
「うーん、何とかならないかな。うーん、うーん」
今までの魔力の使い方を一つ一つ思い出してみる。何かヒントがあるかも知れない。いや、あるはず。
最初に、魔術とは、魔力とは何かを教えてもらって、魔力の操作練習に励んで……。
数日、わたしは悩むことになる。
数日間、これまで習ってきた魔術について考えに考え、考え尽くしたところで魔術を習い始める前にまで遡ったところで、ヒントを掴んだ。と思う。
それは、かつて夜中にソルシエールがわたしを村の外へ連れ出した時の出来事。
あの時、襲って来たクマを、ソルシエールは二種類の魔術で防ぎ、撃退した。力に変換した魔力でクマの突進を防ぎ、さらに電気に変えた魔力で感電させた。ヒントは前者の、クマを防いだ魔術にある。
魔術を教えてもらってしばらくした後、わたしはソルシエールにその時のことを聞いた。クマを防いだのは、クマの手前に展開した魔力を力に変えたんだよね、と。
そのわたしの予想は、半分は合っていたけど、半分は間違っていた。ソルシエールは言ったものだ。『いちいち相手に合わせて魔力を力に変えるのは面倒でしょう。一匹ならいいけど、獣の群れに襲われでもしたら、対応しきれないわよ』と。
それならどうしたのかと聞いたら、『物に触れたら力に変わる』ように魔力に『命じ』ておいたのだとか。つまり、手動発動型ではなく自動発動型の魔術ってところね。周りの魔力をそうしておけば、バリアになる。あの時のクマはソルシエールのバリアに防がれた、と。ソルシエールは『バリア』ではなく『物理障壁』と呼んでいた。
その、物理障壁を応用すれば、魔鉱石を懐炉にできるんじゃないかな。まずは光らせる、懐中電灯からやってみよう。石が光っているだけじゃ、電灯って気はしないけど。
ソルシエールの使った物理障壁は、『物に触れたら力に変わる』ように『命じ』ておいた、と言っていた。『物』というのは要するに、固体のことだよね。液体も含んでいるかも知れない。
そして、魔鉱石は周りにも魔力が滲み出ている。滲み出るというより纏っているって感じもするけど。
それなら、『気体に触れたら光に変わる』ように『命じ』ておけば、懐中電灯というか、光る魔鉱石ができるんじゃないかな?
魔力に『命じ』るというのが良く解らなかったけど、取り敢えず魔鉱石に魔力を貯めつつ、「気体に触れたら光にな~れ」と念を込める。そのうち、魔鉱石の周囲が光り出した。
「やったっ、成功っ?」
いやいや、喜ぶのはまだ早い。念を込めつつ、魔鉱石に最大量まで魔力を貯め込んだところで、様子を見る。
魔鉱石の光はみるみるうちに暗くなって……消えた。魔鉱石の中を探ると、まだ魔力は残っている。少し濃度が薄くなっているかな?
「ってことは、魔鉱石の周りの魔力は、纏っているんじゃなくて滲み出ているって方が正しいのかな。正しいと言うか現実に合致していると言うか。で、えーっと、これだと大して役に立たないから……どうしよう」
魔鉱石の外に魔力が滲み出るのは、魔鉱石の魔力濃度が高い場合、と考えられる。違っていたら訂正すればいいことなので、取り敢えずそう仮定して。
魔鉱石から魔力が滲み出ても、魔鉱石内の魔力濃度を保つには。
……コップに入った食塩水の中の食塩を下半分に移動させれば、コップの上半分は真水に、下半分は元の倍の濃度の食塩水になる。実際に食塩水でそれをやるのは無理だけど、魔力ならどうかな?
魔鉱石の魔力をいったん取り出して、魔力を空にする。あ、外に出した途端に光になって消えちゃった。さっき『命じ』たことがそのまま残っているんだから、当たり前だった。魔力を無駄にしたことになるけど、まあいいや。まだまだいっぱいあるし。
再び魔力を魔鉱石に込めつつ、『魔鉱石の表面に向かって移動する』ように念を込める。濃度的に半分くらいかな?というところで魔力の蓄積をやめて、少し時間を置き、魔力を伸ばして魔鉱石の様子を見る。
「あ、上手くいってるっ」
魔鉱石の中央付近には魔力がないのに、周囲は最高濃度の魔力が満ちている。濃度が魔鉱石の限度以上になって外にどんどん押し出しちゃうかな、と心配もあったけど、どうやらそうはなっていないみたい。どうも、『魔鉱石の表面に向かって移動する』と『命じ』たことが、魔鉱石から滲み出た魔力にも残っていて、外側からも魔鉱石を目指して、外からの力と内からの力が上手い具合に拮抗している、ように見える。
「ここまでできれば、っと」
魔鉱石から魔力を取り出……そうとして、上手くいかないことに気付く。『命じ』たことが残っていて、魔鉱石の表面から離れたがらない。仕方がないので『今の命令は取り消し』と『命じ』て、無事に魔鉱石を空にできた。命令の取り消しもできるのね。できないと、変な命令を持った魔力がその辺をずっと漂ってそう。……あ、それはないのか。漂っていたら霧散して消えちゃうから。
それは置いといて、っと。今度が本番。
三度魔鉱石に魔力を貯める。今度はもちろん、『魔鉱石の表面に向かって移動し、気体に触れたら光にな~れ』と『命じ』る。いっぱいになったところで蓄積を止めると、魔鉱石は光を放っていた。さっきよりも長い間、光っている。
「大丈夫ね。あとはこれが、どれくらい光っているか……」
わたしはさらに、実験を繰り返した。
「ルリ、最近は寝る時、火を焚いていないみたいね」
朝食の席で、ソルシエールが言った。
「うん。最近はめっきり寒くなったからね。窓を開けておくと少しくらいの火があっても寒いから」
「ガス中毒が怖いから焚いてないのね。えーと、ルリの言っていた〈一酸化炭素〉中毒だっけ?」
「うん、それ」
「その割には、朝、そんなに寒そうにしているように見えないけれど」
「あ、気付いた? えっと、まだ未完成だからもう少し後にしたかったんだけど、聞きたい?」
「ええ」
「じゃ、教えるね。前にソルシエールからもらった魔鉱石を懐炉の代わりにしてるの」
「懐炉に? 温めて布に入れておくとか?」
「ちょっと違うよ。えっとね……」
わたしは、ソルシエールの物理障壁を参考にして、魔鉱石に貯めた魔力に命令を与えることで、発熱を可能にしたことを伝えた。あの後さらに命令を『魔鉱石の表面に向かって移動し、気体に触れたら濃度の三〇パーセントだけ熱にな~れ』と変えて、長時間の発熱を可能にし、なおかつ熱くなりすぎないように調整した。
「なるほど。魔鉱石にそんな使い方ができるなんてね。でも、それで完成じゃないの?」
ソルシエールは首を傾げた。
「うん、まだ。今のわたしの使い方だと、魔力に命令を『命じ』られる人しか使えないでしょ?」
「そうね」
「それで、魔力に『命じ』られる人は多くない」
「ええ。ルリが簡単にそれをやったのには驚いたわよ」
「わたしは、『誰でも魔力を貯めれば同じ魔術を使える』魔鉱石、そうね、魔道具を作りたいの」
「魔道具?」
「うん。今は、わたしの魔術なんてまだまだだけど、魔術を極めていけば、いつかは元の世界に帰る手段も見つかるかも知れない。ううん、見つける。その手段を魔道具にしておけば、元の世界に帰っても、またソルシエールに会いに来られるでしょ? ソルシエールだってわたしの世界に遊びに来れるし」
ソルシエールは呆気に取られたような表情でわたしを見た。
「そんなことまで考えていたの?」
「考えてたっていうか、今、思いついた」
なんか“魔道具”って言葉を口にした途端、頭の中から自然に次の言葉が湧き出して来た感じ。
「そう。ルリの行動って、思い付きが多いわよね」
呆れられちゃったかな?
「だって、目的を達成するための正解が解らないんだもん。思い付いたことを何でもやったみるしかないでしょ」
「そうね。頑張りなさい。応援しているから」
「ありがとう。ソルシエールに応援してもらうと、なんか出来そうな気がするよ」
ソルシエールも応援してくれているし、頑張って元の世界に帰らなくちゃ。




