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転移者ルリは故郷を想う ~できるわけないと高を括っていた魔法陣での異世界転移! 見知らぬ異世界で帰還手段を模索する~  作者: 夢乃


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11.魔鉱石

 魔術を習い始めてから二季が過ぎた。わたしがこの世界に来てから五季と言うことになる。

 この世界では、一年が八季で一季が四八日だから、一年は三八四日、異世界転移からは二四〇日と言うことになる。一日の長さも地球よりちょっと……結構長い気がするから、元の世界では一年くらい経っているんだろうか。ここの一日が元の世界の何日に当たるのか良く判らないので、想像するしかないけど。


 この世界ではこれから冬になるらしく、最近は寒い。フィメーネさんに厚手の服をいただいて、ありがたく使わせてもらっているけど、朝晩の寒さは身に染みる。この辺りの土地は、夏はあまり気温も上がらず過ごし易いけど、冬はかなり冷えるみたい。

 寝室の寒さが堪えるので、台所に置きっ放しだった種火用の石鉢を部屋に持ち込んで、木炭を焚べておくようにした。魔術を覚えて調理用の種火が不要になったからね。換気をしないとヤバいから、窓を開けて空気が循環するようにはしているけど、火を使わずに締め切っているよりもいい感じ。


 そんな(しば)れる冬なのに、ソルシエールは今までと変わらない服装で震えることなく過ごしている。気温に対して鈍感なのかな。

「ああ、私、無意識のうちに余剰魔力を熱や冷気に変えているのよ」

 不思議に思って聞いてみれば、そんな言葉が返って来た。

「余剰魔力?」

「そう。体内に留めておけない魔力は体外に放出されて、意識して留めておかないと発散して消える、このことは覚えているわよね」

「もちろん」

 ソルシエールが魔術の講義の最初の方で教えてくれたことだ。

「その消えていく魔力を、私は熱に変えているのよ。自分でも意識していないけれどね」

「へえ。でも、村のみんなも厚着してるってことは、ソルシエールだけなのよね」


 わたしはまたもソルシエールの人並み外れた能力に感心した。魔力量も人並み外れているし、魔術を行使する速度と精度もとんでもないレベルであることも何度も見ている。わたしの怪我を診てくれたことからも判るけど、医学にも堪能だし。って言うか彼女、『魔術医』という資格を持っている、まさに医師でもあるそうだけど。

 わたしの思い付きの魔術も、すぐにモノにしちゃったし、こと魔術に関する限り、世界一なんじゃなかろうか。わたしがこの世界で知っているのは、この村と隣の町だけだけど、わたしでも判るくらいに魔力量に差があるんだもん。

 それを言うと、ソルシエールは『そんなことはない。私以上の魔術師はごろごろいる』と答えたけど、謙遜だと思う。世界一ではなくても、世界で十指には入るんじゃないのかな。




 そんな天才美少女魔術師ソルシエールが、自宅の自分の部屋の机に向かって何かやっている。ひと抱えほどある岩塊から、黒い碁石よりは少し大きい平べったい丸い石を切り出している。これ、瞬間移動でやっているのよね。最初はどうやっているのかさっぱり解らなかったけど。

 ソルシエールは、一旬に二回の魔術の授業と、怪我人が出た時の手当ての他に、この碁石っぽい物を作ることを仕事にしているみたいなのよね。何に使うのか知らないんだけど、たまに作って村の人に渡している。って言うか、依頼があった時に作っているのかな。


 わたしも、魔力の炎・光・電気・熱・冷気・力(運動エネルギー)への変換ができるようになり、さらにそれらと毛色の違う魔術として、念話と瞬間移動を習った。

 念話は人の思考で揺らぐ魔力を言葉として感じ取り、あるいは相手の魔力を震わせて思考を伝える魔術。感じ取るのはともかく、相手に伝えるのが難しかった。互いに念話を使える者同士なら、読み取り合うだけで済むんだけど。

 瞬間移動は、自分の魔力を二箇所に展開し、その中身を入れ替える魔術。あまり使える人はいないし、使えても、数十テール(数メートル)程度しか魔力を伸ばせないと、使う意味がない。ソルシエールは数テック(数キロメートル)も魔力を広げられるから、使い所が色々あるみたいね。わたしも頑張っているけど、まだ一テックにも満たない。

 で、この念話と瞬間移動なんだけど、基本的に魔力を消費しないのよね。使ったあとでちゃんと回収すれば。広げた魔力を維持するには集中しないといけないから、集中力が途切れるとみるみる内に霧散しちゃうけど。

 他にも、運動エネルギーへの変換の応用として、身体や物の汚れを浄化する方法も教えてもらった。ソルシエールがあまり身体を清めないのに臭わないし身奇麗なのは、これが理由ね。わたしはまだ上手く使えないので、練習中。それでも、お風呂は恋しいけど。


 閑話休題。

 作業をしているソルシエールが手を止めたところで、わたしは話しかけた。ちょうど、お茶の用意をしたことでもあるし。

「ねえ。たまにそれ作ってるけど、何なの?」

「これ? 《魔鉱石》よ」

 ソルシエールは、わたしから受け取ったハーブティーを一口飲んでから答えた。

「《魔鉱石》?」

「そう。これにはね、魔力を貯めることができるのよ。貯めた魔力は自分の魔力として使うことができる」

「へぇ。でも何に使うの?」

 魔力は身体の中で常に作られているなら、貯めておく必要もないような。


「私やルリならいいけれどね、ほとんどの人は、体内に蓄積できる魔力量は微々たるものなのよ。魔術を使う必要がない時に魔鉱石に魔力を貯めておけば、いざという時に自分に蓄積している以上の魔術を使えるのよ」

「そっか。わたしって魔力量がとんでもないんだっけ」

 近くにいるソルシエールがわたし以上の魔力を持っているから、つい他の人との差を忘れてしまう。

 つまり魔鉱石とは、魔力を貯めておく蓄電池みたいなものってことね。


「その、魔鉱石を削り取った残りはどうするの? それと、その割れた魔鉱石も」

 机の上に、割れた魔鉱石もいくつか置いてある。もともとは碁石に似た形だったんだろう。

「これは溶かして塊にして、再利用するわよ。魔鉱石はそこそこ貴重なものだから、無駄にはできないわよ」

「これ、溶けるの?」

 黒い硬い石にしか見えないそれは、とても溶けるようには見えない。超高温にすれば大抵のものは溶けるだろうけど、ここにそんな設備はないし。あ、ソルシエールなら設備がなくても魔術で溶かしちゃうか。


 けれど、わたしの想像は半分間違っていた。

「特殊な油を使って温めると、溶けるのよ。それを型に入れて冷まして固める」

「へえ。温めるのは火で?」

「それだと温度が足りないから、魔術で直接温めるのよ」

 やっぱり、高温にするのは魔術だった。でも、それだけじゃ無理ってことね。

「それで再生した魔鉱石は、元の魔鉱石に比べて魔力の蓄積量が少し落ちるけれどね。元の魔鉱石の八五パーセントくらいになっちゃうのかな。それでも、魔力を貯めておくことは村の人にとっては有効なのよ」

 魔術が使えなくなると不便だもんね。火も起こせなくなるし。でも、魔力を大量に持っているソルシエールやわたしには無用の長物か。うーん。


「ソルシエール、それ、一つわたしにくれないかな? できれば、少し大きめにして」

 頭の中でまだ形にはなっていないけど、魔鉱石を単なる魔力の蓄電池にしておくのはもったいない気がした。

「いいけれど……どうするの? さっきも言ったように、わたしやルリが持っていても使い道のないものよ?」

「まだ判らないけど、何かできそうな気がする」

 勝算はまったくないんだけど、わたしは自信ありげに言い切った。

「そう? まあ、ルリには色々と驚かされているしね。いいわよ」

 ソルシエールがそう言うと、わたしの目の前の空中に三個の石が現れた。


「わっ」

 慌てて両手で掴もうとし、けれどハーブティーがまだ入っているカップを持っていたので、さらに慌てて魔力を展開、三個の魔鉱石を空中で支えてから、左手で受け止めた。

「もう、いきなり危ないでしょっ」

 わたしはソルシエールを睨みつける。

「きちんと受け止めたじゃないの。ちょっと危なっかしかったけれど、及第点かしらね」

 ソルシエールは涼しい顔で、わたしをいなした。

「今の、テストだったのっ? 突然は酷いよ」

「突然のことにも対応できるようにならないと、魔術を極めたことにはならないから」

 別に、魔術を極めようとは思ってないんだけどな。いや、でも魔術の一つも極めないと、異世界転移なんて無理かも知れない。


「もう、スパルタなんだから」スパルタってほどでもないんだけどね。「とにかくありがとう。これ、もらってくね」

「ええ。要らなくなったら返してね」

「うん、解った」

 そこそこ貴重って言ってたもんね。壊さないように、慎重に扱おう。


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