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転移者ルリは故郷を想う ~できるわけないと高を括っていた魔法陣での異世界転移! 見知らぬ異世界で帰還手段を模索する~  作者: 夢乃


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10.新しい魔術の使い方

 魔力を光らせる練習を始めてから一旬(=八日≒一週間)が経った。

「それじゃ、この一旬の成果を見せてくれるかしら」

「もちろん、そのつもり」

 あたしは自信を持って不敵な笑みを浮かべると、身体から周囲に魔力を放出し、半径一メートルほどの光の円を作り出した。それを上下に分けて、足元と頭上へと動かし、逆に移動させて腰あたりの高さで一つにする。今度は光の円を分裂させずに、身体の周りをクルクルと縦に回転させる。回転させつつ新たな光の輪を縦に出し、こっちは横回転。

 しばらく回転させたところで光の輪を分離、無数の光の球体を身体の周りで回転させてから光を一つずつ消してゆく。


「えへへ、どうかな?」

 すべての光を消したところで、わたしはソルシエールに聞いた。

「驚いた。たった一旬で良くこれだけ複雑な動きで光らせられるわね」

「魔力の操作ができれば、あとは光に変えるだけだからね。でも、本番はこれからだよ」

「はい?」

 ソルシエールが首を傾げた。これ以上のことは言われてないもんね。でも、言われていたことだけをやっていたら、駄目だと思うんだ。わたしが最終的にやろうとしているのは、この世界でまだ誰もやったことのないらしい、異世界転移なんだから。


 わたしは身体の周りに魔力球を複数作った。それぞれの球体を、それぞれ別の色の光に変えていく。球体だけでは芸がないので、直方体、正四面体、金平糖のような形、と形も変える。動物や虫は無理。わたしに芸術的センスを求めてはいけない。

 少しして、光を消した。

「どうだった?」

「……驚いた。光の色を変えるなんて考えたこともなかった。どうやったの?」

 ソルシエールは素直に驚いたことを認め、わたしに方法を聞いた。ちょっといい気分。


 わたしはソルシエールを促して椅子に座った。言葉だけで説明しきれるほど完璧には理解していないからね。

「まず、ソルシエールは“光”って何だと思う?」

「何って……光は光でしょ?」

「知らないと、そうとしか言えないよね。えっと、これはわたしが元々住んでた世界でのことだから、この世界ではもしかしたら少し違うかも知れないから、そのつもりで聞いてね。

 えっとね、光っていうのは〈電磁波〉と言って、波の一種なの」

「“デンジハ”? って何? 波って、水面に起きる波のこと? 光が波ってどういうこと??」

 はわわ、なんかソルシエールのスイッチが入っちゃった?


「落ち着いて。説明するから。それと、わたしも専門家じゃなくてただの〈学生〉、あー、えっと、素人だから、少し違っているかも知れないよ。えーっと、まず……」

 ……と前置きして、波の説明から始め、そして電磁波の説明、光の色は波長が異なること、などをつっかえながら説明した。そんな、スラスラなんて説明できないよっ。ただの女子高校生に何を期待してるのっ。


「でね、魔法で光を出す時って、可視光線の全体の波長が混じった電磁波に変わっているんじゃないかと思ったんだ。紫外線や赤外線も混じってるかも。つまり、幅広い光、電磁波になっているわけね。

 その、波長の幅を狭くすれば、いろんな色に変えられるわけ」

「ふうん……理解した、とは言えないけれど、何となくは解った」

「それでいいと思う。わたしだってなんとなくしか解ってないから」

「専門家でもなければ、そんなものよね。さて」

 ソルシエールは掌を上にして右手を差し出すと、そこに光の柱を立てた。微動だにせずに発光する光の棒。さすがだなぁ、と感心する。わたしじゃユラユラ揺れちゃうもんね。練習を始めてまだ一週間強なんだから、ソルシエールのようにできないのは当たり前なんだけど。


 やがて、光の色が徐々に変わって来る。白い色から黄色へと。えーっとつまり、波長を中央辺りに集めたから、黄色くなっているんだよね。虹の七色で数えると黄色は中央じゃないけど、スペクトルでは真ん中辺りだった、はず。えっと、“スペクトル”ってこういう意味で使う言葉だっけ? まあ、いいや。

 ソルシエールの光は、黄色から緑色、青色、藍色、紫色と変わり、見えなくなる。紫外線にまでなったのかな。

 消えた光はまた紫色となり、さっきの逆順に変わっていき、黄色を通りすぎて橙色、赤色と変わってまた消えた。


「ふう、これ、難しいわね」

「いやいやいやいや、わたしの適当な説明をちょっと聞いただけで再現しちゃうなんて、すごいよ」

「魔術をずっと使って来たっていう下地があったからよ。ルリの方こそ、魔力を光に変えてあれだけ操った挙句、誰にも教えられらことなく光の色を変えるなんて、良くできたわね」

「それは、わたしに元の世界で習った知識があったからだよ」

「魔術に元々知っていた知識を組み合わせたわけね。ルリは素人だって言っていたけれど、ルリの世界では素人でもそういうことを知っていたの?」

「知っていたって言うか、〈学校〉……学び舎で習うんだよ。この村でも四年間、子供たちにいろいろなことを教えているんでしょ? それと同じような感じで、もっと濃密度に、九年間かけていろいろなことを習うから。さらにその後も三年から七年、上級の学び舎に行く人も多いよ。わたしも、上級の学び舎に進んで一年と少し経ったところだったし」

「手厚い教育体制が敷かれているのね。その上、文明も進んでいる。ルリ、あなたの世界のこと、あなたの知識、もっと教えてくれないかしら」

「え……いいけど、大したことは教えられないよ。何かの専門家ってわけでもないし、何しろ九年間で詰め込まれた知識も上っ面しか覚えてないし」

「それでも、私たちからすれば値千金の知識よ。それは置いておくにしても、私が知りたいの。ルリの世界のことを。その世界の文明と知識を」


 ソルシエールは瞳を好奇心に輝かせて言った。いつも、どこかしら物憂げに見える態度の彼女の、初めて見る真剣な表情。まあ、わたしの知っていることを教えて喜んでもらえるなら、それでいいのかな。

「ソルシエールが言うなら、うん、わかった、教えるよ。わたし、教師でもないから、体系立てて教えるとかはできないけど」

 と言うわけで、ソルシエールからは魔術を習い、わたしが彼女に元の世界の小中学校の授業で覚えた内容を教えることになった。この世界の科学の発展を歪めてしまうことになるのかなな?と異世界に転移・転生した小説の主人公みたいなことをふと考えたけど、悩まないことにした。たかだか平凡な女子高校生一人の知識で、歴史が歪むようなことは、そうそうないよ。漫画じゃないんだから。


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