第七話 王の死
「アレッシオ様、そのまま、そのまま落ち着いてください」
ファウスト様がそう声を掛ける。
その冷静な声は、みんなの動揺を少しだけ落ち着かせた。
「部屋の中にアミュレットは落ちていますか?」
「……ある! アミュレットが落ちているぞ!」
「ほう、ありましたか」
ファウスト様は、面白いものを見るようにわたしを見た。
これでも、犯人扱いされるんだろうか。
どう見ても、一番怪しいのは、わたしだけど……。
「では、みなさん、一旦中央広場に戻りましょう」
「そんな悠長なことをしている場合かっ! 犯人はこの女に決まっているだろう!」
騎士団長の息子のブルーノ様が、わたしに指を突きつけてくる。
「確かに、ラファエラ様は、まるで自分が犯人ではないと証明するように、わたし達を呼び寄せたように見えてしまいます」
うっ……そう見えますか。
そう思ってはいたけれど……。
「しかし、逆に言えば、今は、ラファエラ様を犯人だとは言えない状況にあるとも言えます」
どうも、ファウスト様が探偵役になるみたいだ。
適任……なんだろうか?
「ち、父上が……こんなときに……」
「アレッシオ、上を向くんだ、これからは私たちが皆を率いていくのだから」
王子様達には、大変な状況だろう。
フォルトナート様が、次の王になるわけだし……。
「ラクシアの皆様においては、ご愁傷様ですと言うしかありません。しかし、犯人を捜さなければ、次の犠牲者が出てしまうかも知れません」
「ファウスト様は、ラファエラ様が犯人ではないと、そう考えておいでなのですか?」
宰相の息子のレアルコ様も、青い顔をしている。
「違うと言うよりも、不可能だと言った方が正しいでしょうか」
「何故そう言えるのですか?」
ファウスト様は、ピエロの帽子を少しずらしてかぶり直す。
考えている仕草なんだろうか?
「ナルミヤの皆様が聖域に到着したのは、ラファエラ様が声を上げる十分ほど前です」
「時間がなかったと? しかしながら、十分もあれば可能なのではありませんか?」
「いえ、ラファエラ様は、王がどの部屋にいるのかを知らなかったでしょう? 誰か、ラファエラ様に王の部屋を聞かれた者はいますか?」
誰も何も言わない。
それはそうだ、わたしは聞いていないんだから。
「聖域の情報は、外には漏れていません、アーシア様、間違いありませんね?」
「間違いありません、聖域の情報はあたし達しか知り得ないのです。それに、こんなあからさまな証拠は不自然です」
あからさまな証拠とは、アミュレットのことか。
わたしは、どこでアミュレットを盗まれたんだろうか?
聖域に入ってから会った人物は、ジルベルト、ミーノ、フォルトナート様、アレッシオ様、この四人だけだけど……。
相手からアイテムを盗むスキル強奪や、スティールの魔法もある。
遠くから、いつの間にか盗まれていても不思議ではない。
わたしが中央広場から声を掛けたときに、スティールで盗んで、王の部屋にアミュレットを置く、それから広場に顔を出すことだってできるのだ。
「王を殺した犯人は、ラファエラ様に罪をなすりつけようとした、そして今、ここで深刻そうな顔をしていると言うことです」
「おかしいぜお前達……こんなのこの女が犯人に決まっているだろうが!」
ブルーノ様が声を張り上げる。
ジルベルトが、守るようにわたしの前に立ってくれた。
「話を聞いていましたか? 今のところは、わたくしを含めて全員が容疑者だといったところでしょうか」
「夢を見ただと!? そんな夢物語が通用するか! ラファエラが殺したからそのことを知っていた、それ以上どんな理屈があるって言うんだ!」
でも、時間をかけると益々わたしが犯人だってことになってしまう。
あの場で、すぐに行動に移したのはきっと正解だったはずだ。
「あるんじゃないですか、予知夢なんて珍しくもない」
ミーノがそう言い捨てる。
基本的に、冷めている子だからな……。
「くっ、親父……無念は必ず、オレが晴らします」
ブルーノ様は、怖い顔をしてわたしを睨み付ける。
とにかく、わたしはアリアナ様とふたりきりにならないことが重要だ。
他にもグルが居ると考えるなら、そもそも個室は避けた方がいいだろう。
皆で、中央広場に戻っていく。
「王の部屋はわたくしが調べます、異論のある方はいますか?」
「そうですね、ファウスト様が調べてください」
フォルトナート様がそう指示する。
もう、この国の王になったも同然なのだから。
「それでは、そのように」
「王と宰相、騎士団長の死はしばらく伏せることにする、皆も口外無用に願う」
暗黒の軍勢が迫っているときに、兵の士気が落ちるようなことは避けたいんだろう。
この中に王を殺した犯人が居て、アリアナ王女は、少なくともわたしを殺したがっている。
普通に考えれば、一番怪しいのはアリアナ王女なんだけど……。
第二王子派の三人は、何か言いたそうにしながら中央広場を去っていった。
ファウスト様も、王の部屋を調べに行くみたいだ。
フォルトナート様とアリアナ王女は、何か話し合っている。
これからのことで、色々と話し合っておかねばならないのだろう。
「お姉様、急なことであたしはびっくりしてしまいましたよ」
「ごめんね、アーシア、でも緊急事態だったから」
「いえ、神に愛された者はたまに予知夢を見ます、何もおかしなことではありませんよ」
そうか、ゲームには出てこなかったけど、予知夢は割とあることなのか。
一応覚えておこう。
それよりも……おかしなことに気が付いた。
どうして、主人公がいないのだろうか?
もちろん、ゲームの主人公だ。
これでは、暗黒竜は倒せないはずだけど……。
「ジルベルト、外に出ることがあったら聖女様について調べてもらえませんか?」
「聖女……ですか?」
不思議そうな顔をしている。
いきなり聖女なんて変な話かも知れない。
「はい、暗黒竜を倒すのに必要な方なのです」
「それも、夢でお知りになったのですか?」
ジルベルトが真面目な顔をしている。
疑われるのかな……?
「それは……上手く説明できないのですが……」
あまり嘘に嘘を重ねたくない。
誤魔化すと怪しいと思われるけど、ジルベルトになら大丈夫だろう。
「ルエナ村のアンミリスという名前です」
「承知しました、調べておきます」
うやうやしく頭を下げてきた。
わたしが生まれたときから見てきているんだから、今のわたしを見て、おかしいと思っているのは間違いないだろう。
「姉上、ブルーノがおかしいので、見張りをしておきます」
「でも、ミーノも疲れているでしょう?」
「大丈夫ですよ、寝るときはちゃんと寝ますから、鍵は掛けてくださいね」
鍵にどれほどの意味があるかはわからないけど、わたしは頷いた。




