第四話 事件の始まり
聖域の中央広場に集まって、ジルベルトとミーノの三人で話をしていると、後ろからいきなり抱きつかれた。
この容赦ない感じはわかっている。
「お姉様~、お久しぶりでございます~」
「アーシア、お久しぶりです……」
位の高そうな神官衣をまとった小さな女の子。
と言っても、ミーノと同い年だから子供ではない。
「姉上から離れろ! 聖職者は異常者が多いから気をつけてください!」
「異常者じゃないわよ! アンタこそ、そんな格好をして、よっぽど異常者じゃない!」
「まぁまぁ、ふたりとも……」
アーシアは、この世界の90%を占めている宗教組織の長の孫娘だ。
いわゆる法皇的な人の孫娘なんだけど、実際に神様がいるこの世界で、その発言力は王をもしのぐと言われていた。
「アーシアも来ていたんですね」
「この聖域を用意したのはあたしなんですよ、お姉様~」
抱きついたまま、グリグリと顔を押しつけて匂いを嗅がれる。
お風呂に入っていないから、それは恥ずかしい。
「離れろっ! 異常者!」
ミーノがアーシアを引きはがしてくれる。
ちょっとホッとしたけど、なんだか、アーシアはラファエラが好きなようだった。
これは、ゲームと同じだ。
「アーシア様、この聖域を用意されたということですが……」
ジルベルトはそこが気になったようだ。
ゲームでは、ここが本拠地みたいになってたから、成り立ちまでは知らなかった。
「暗黒竜が目覚めたときに、神から啓示があったんです、ラクシアの城の地下に聖域を作れと」
「ほう、そうでしたか」
「どうも、前に暗黒竜が目覚めたときにも、時の勇者達がここに集まっていたらしいんですよ」
なんか、そんな設定もあったような気がする。
序盤の情報だから、何回も繰り返すうちにスルーしてしまっていたけど。
「おやおや、みなさん楽しそうですねぇ」
そこに、ピエロみたいな格好をした人がやってきた。
ラファエラは初対面だけど、わたしは知っている。
魔法評議会の最高顧問で、賢者と呼ばれる放浪の要人だ。
「ファウスト様、相変わらずその格好なんですね」
アーシアは既に会っているらしい。
この聖域に招かれている人は多くないから、主人公を除けば、わたし達が最後の要人だ。
「ピエロが賢者とは、おかしなことでしょう? この格好の方が、子供たちにも好かれますしねぇ」
「こちらが、ナルミヤ王国の第一王女ラファエラ様、そして六英雄の一人ジルベルト様、それとヘンタイ女装オスガキのミーノです」
「初対面の人に性別をいうのはやめて!」
ミーノが抗議しているけど、突っ込むのはそこなのか……。
「ミーノ様には、わたくしに近しいものを感じますねぇ」
ちょっと、オカマっぽいしゃべり方の人で、賢者という感じではないけれど、ものすごい魔法の使い手だ。
頭も良くて、凄腕の軍師的な存在になる。
「おや、貴女は……」
ファウスト様が、わたしのことをマジマジと見る。
ラファエラとファウストは、特に接点がなかったと思うけど……。
「ふむ、まぁ、いいでしょう」
「ファウスト様、お姉様になにかありましたか?」
「いえ、貴女お名前はなんというのですか?」
「え? いえ……」
さっき説明したばかりじゃないか。
呆けているわけでも無さそうだし……まさか、とは思うけど、本当の名前の方を聞かれているの?
「ピエロの格好をしているから呆けてしまったんじゃありませんか? ラファエラ様だと紹介したばかりでしょう?」
アーシアはそう言っているけれど、ジルベルトから何か視線を感じる……。
あ、怪しまれてないよね?
「ナルミヤ王国のラファエラです、賢者様もご機嫌うるわしく……」
「そうですか、わたくしはファウストと申します、よしなに」
そう言って何処かに行ってしまう。
「なんですか、あの人は、無礼ですね」
ミーノが怒っているけど、わたしはなんか怖かった。
転生がバレているっぽい?
まさかね。
でも、もしかしたら、なにか知っているのかも知れないけど……。
そこに、物々しい、急いだ足音が聞こえてきた。
これから、戦が始まるみたいな……。
「居たぞッ! ラファエラだっ!」
「アレッシオ様……?」
広間に姿を現したのは、婚約者であるアレッシオ様と、ふたりの男性だった。
ひとりは剣の柄に指を掛けている。
ジルベルトが間に立つように、わたしを守ってくれた。
「どけっ! ジルベルト!」
「アレッシオ様、これは何事ですかな?」
「王である父上と宰相、騎士団長の三人が遺体で発見された! 犯人はラファエラで間違いない!」
「ええええええっ!?」
わたしは変な声を上げてしまった。
ゲームの中で、殺人事件が起きることなんて無かった。
王は、魔導王と言われるほどの魔法の達人で、わたしが殺せるはずが無い。
「証拠もあがっているぞ! 事件現場にこのアミュレットが落ちていた! これは、ラファエラの持っていたアミュレットだろう!」
そんな馬鹿な!
わたしは、慌てて荷物を調べる。
でも……荷物の中に、アミュレットはなかった。




