第二十二話 過去を断ち切って
「……はっ」
気が付くと自分の部屋のベッドの上にいた。
記憶が曖昧になっている。
王が、タイムリープした?
何度か死んでいるみたいだったから、ジルベルトが殺していたんだろう。
ファウスト様が王の死体を見たということは、初めて死んだときは、普通に生き返っただけなのかも知れない。
そして、暗黒竜の力を借りて、もっと都合良くタイムリープできるようになったんだろう。
この記憶の曖昧さに不安を覚える。
わたしは、すぐに中央広場に行ってみた。
「あらぁ、ラファエラ様ではありませんか」
「なんで……」
そこには、殺されたはずのアリアナ王女がいた。
あの転生者が、なにか状況を弄ったに違いない。
「アリアナ様、誰か、誰か死んではいませんか?」
「おつらいでしょうね、兄上達だけではなく、ジルベルト様とミーノ様、アーシア様まで死んでしまわれて……」
「…………」
そんな……どこをどう弄ったの?
そんなことになっているなんて。
これではどうしようもない。
わたしは、その足で王の部屋に行った。
「くっ……」
扉は魔力で閉まっている。
こんなのリフレクションしてやる!
扉に手をかけると、魔力を弾き返した。
ドアの鍵が開く。
そして、遠慮無く中に入った。
「ら、ラファエラ……!」
中には、憔悴している王がいた。
もしかしたら、わたしも殺した気になっていたのかも知れない。
「あなたは誰!? 転生者でしょう!?」
「あ、暗黒竜は……願いを聞いてくれると約束した」
「何回やり直したの? 四回で終わりなんでしょ?」
どこか話し方がたどたどしい。
本当に、ショックを受けている人の声だ。
「さ、三回やり直しただけ……だから大丈夫」
「騙されないで! ゲームのバッドエンドを見たことがないの!? この世界全てが闇に包まれ、破壊されるのよ!?」
「知らないよ! バッドエンドなんて見たこと無いモン! 全部お姉ちゃんにやってもらっていたから!」
「え……?」
姉にやってもらっていたって……。
わたしは、その状況を聞いた事がある。
いや、よく知っていた。
「あなたまさか……えれな?」
「え……お姉ちゃん? お姉ちゃんなの!」
えれな……えれなは、確かにわたしの妹だった。
かわいくて、みんなに愛されていて、わたしとは正反対の……。
それが、こんな四十歳くらいのおじさんに転生していたんだ。
やりきれないだろう。
「えれな、もう、ここで生きていくしかないんだよ?」
「いやよ! こんなところ! お姉ちゃんだって帰りたいでしょ!?」
方法はあるのかも知れないけれど、わからない。
「諦めるしかないのよ?」
「い、嫌だ! こんな世界まっぴらよ!」
「駄目っ!」
えれなが魔法で攻撃してきた。
強そうな光の魔法だ。
でも、それはわたしに当たる前に……リフレクションで反射されていた。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!」
馬鹿! 四回目は……。
わたしの意識が感じたのは、そこまでだった。
「ここは……?」
どこまでもつづく真っ暗な世界、何者かの威圧感……。
暗黒竜の世界だ。
私は死んでいないのに?
「我の花嫁が決まったようだな」
「ひっ! ひいいぃぃぃっ!」
「えれなっ!?」
真っ暗な世界に、えれながいるのがわかった。
中年の王の姿ではなく、よく知っている、かわいいえれなだ。
わたしもジャージ姿の元の姿に戻っている。
「は、花嫁とはなんですか?」
暗黒竜にそう聞いてみる。
「我のものになってもらうと、そう約束していたであろう」
すると、今までよく見えなかった暗黒竜の姿が露わになる。
そこには……醜いドラゴンがいた。
身体や皮膚がねじくれていて、所々腐ってウジがわいている。
気持ち悪かった。
「いや、お姉ちゃん、助けて!」
「ど、どうにかならないんですか?」
助けてあげたい。
えれなだって、必死だったんだろうから……。
「お前が代わりになるなら、それでもよいぞ」
「か、代わって、お姉ちゃん、お願い、なんでも言うこと聞いてくれたよね?」
「…………」
でも、わたしは、さっきのことが気になっていた。
それを確かめる。
「えれな、さっきわたしだってわかってたのに、どうして攻撃してきたの?」
えれなの顔が引きつる。
さっき、リフレクションした攻撃は殺すつもりで放たれたものだった。
だから、それを反射されたえれなは死んだのだ。
「お、怒ってるの? 怒らないで。少し混乱してただけなの」
「ここで生き残っても、あのおじさんの姿のままだよ?」
「い、いい、大丈夫、それで我慢するから」
「…………」
そのときだけ良ければいい……。
ああ……この子は、本当にえれななんだ……。
「そうだ、私がラファエラになれば良いんだわ、それも出来るかしら?」
「姉がいいと言うなら構わんぞ」
えれなは、心底、ホッとしたような顔をする。
わたしが……前の人生でずっとそうだったように、言うことを聞くと思っているんだろう。
「良かった、お姉ちゃん、じゃあ、わたしと代わって?」
「えっ……」
そのとき、わたしの腰に下がっていた持ち物……アミュレットが光を放つ。
「むっ! この光は!」
どうして? フォルトナート様が死んでいるなら、アミュレットも壊れているはず。
でも、そこに……フォルトナート様が復活していた。
わたし達を見渡し、暗黒竜に向き直ると、白い鞘から剣を抜く。
「お前が暗黒竜か」
「…………」
わたしは、手で身体を押さえてフォルトナート様に見られないようにした。
元の自分の冴えない姿を見られないように……。
「お、王子様、暗黒竜を倒して下さい!」
えれなが喜んでそう言う。
「…………」
わたしは何も言えずに、うつむいているだけだ。
でも、フォルトナート様はえれなを無視するように、わたしの方へ来た。
「だめ、来ないで下さい」
「ラファエラ……君だね」
ばれている。
ラファエラとは似ても似つかぬ容姿なのに……。
「すみません、こんな姿で……これが、わたしの本当の姿なんです……」
でも……フォルトナート様は、わたしをそっと抱き締めると……その頬に、やわらかなキスをしてくれた。
「一目見て、君だとわかった」
「ど、どうして……」
涙が出そうになる。
普通なら、かわいいえれなの方が、ラファエラに似ているのに……。
「愛する人を間違うはずが無いじゃありませんか」
「…………」
わたしの気持ちは……憧れのようなものから、好きに変わった。
愛に変わったと言ってもいい。
「い、今は、それどころじゃなくて、暗黒竜を倒して下さい!」
えれながそう叫ぶ。
そうだ、今は大変なときだ。
「あれは誰ですか?」
フォルトナート様が、えれなを見て言う。
「わたしの妹で……王になっていた人です」
「そうか……だから、王は狂われたのか……」
落胆するような声だった。
まるで、見放すというような……。
「ち、違う、違うの、私は……」
「暗黒竜よ、今の貴様に邪悪なものは感じない」
フォルトナート様は、剣を鞘にしまう。
戦うつもりがないように。
「人間の倫理で邪悪なぞ決められても迷惑な話だ」
暗黒竜は、ずっとこの調子だ。
人のことなんて、どうでもいいと。
「貴様は、暗黒竜であって暗黒竜ではないな?」
「知らぬ、人の世界に興味はない」
「では、帰らせてもらう、ラファエラ様、一緒に」
「あ……」
フォルトナート様が光り始める。
なんだか、この世界から消えていくように……。
「え、で、でも、妹が暗黒竜の花嫁に……」
「暗黒竜に選ばれたのです、どうしようもない」
「待って! お姉ちゃん! 私を見捨てるの!?」
「え、えれな……!」
嫌な妹だった。
でも、子供の頃の楽しい思い出もある。
「代わってよ! 私と代わって!」
えれなが、消えようとするわたし達に掴みかかってくる。
「させない、ラファエラは私が連れて帰る」
「あっ……」
光が増していく。
えれなの姿も、段々と見えなくなって……。
「いやぁぁぁぁっ! お姉ちゃん助けて! こんなのいやぁぁぁっ!」
「えれなっ!」
「では、決まりだな」
暗黒竜が妹に手をさしのべていく。
節くれ立ち、奇妙にねじ曲がった醜い手を。
「お姉ちゃぁぁぁぁぁん!」
「あっ……」
気が付くと聖域の中だった。
「…………」
わたしは泣いていた。
涙が止めどなくを流れ落ちる。
戻った世界は、王とアリアナ王女が死に、ブルーノ様とレアルコ様も死んでいる世界だった。
聖女……主人公は、わたしが知っている主人公、アンミリスに代わっている。
本人が言っていた通り、あの聖女は偽物だったのだ。
どこでどう代わったのかはわからないけれども。
えれなかジルベルトか……なにかされたんだろうと思う。
そして、王子と聖女の力で長い戦いを勝ち抜き、暗黒竜の軍勢を退けた。
この辺りは、うまくゲーム通りにわたしが操作したこともある。
そして今日は、わたしと王子の結婚式。
戦勝の祝いと同時に、結婚式が挙げられる。
「お姉様、おきれいですよ」
「ありがとう、アーシア」
「お顔が優れないですね、姉上、マリッジブルーですか?」
「あなたは! もっとデリカシーを持ちなさい!」
「うるさいなぁ、ボクは不機嫌なのに」
なんだかんだと仲の良いミーノとアーシアは、案外、気が合うのかも知れない。
ふたりが付き合うことになったとしても、驚きはなかった。
「…………」
あれから、えれながどうなったのかは、わからない。
強い子だから、どんなところでも、したたかに生きていける。
そう信じることくらいしか、わたしにはできなかった。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!
初めて、ミステリー風らしきものを書いたのですが、それを楽しみに読まれた方には、ちょっと物足りなかったかなと思います。
ごめんなさい。
やってみようと思ったのは、色々な要素をたくさん混ぜてみることだったのですが……あまり詰め込めませんでした。
ネガティブなことばかりでもなんですので、書いていて楽しかったと付け加えておきます。
それでは、またお会いできる日を楽しみに!




