第二話 ラファエラ
「はっ!?」
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
「わたし、確か、バイクに轢かれて……」
「え? ばいくってなんですか姉上」
「え?」
わたしが寝ているベッドの隣には、もうひとつベッドがあって、そこにはものすごい美少女が寝そべっていた。
年の頃は、中学生くらいだろうか?
でも、なんというか変な服を着ている。
「姉上? ですか? わたし?」
わたしにはかわいい妹が居るけれども、そういうレベルではないほどの美少女に姉上と呼ばれていた。
「…………!?」
なんか、部屋の感じがおかしい。
古い……というか、壁紙も使われていないような、土壁? みたいな部屋だ。
「もう、朝ですからご飯にしましょう」
美少女が起き上がって、服を着替え始める。
誰……?
そこに、ドアをノックする音が聞こえた。
「ラファエラ様、ミーノ様、おはようございます」
「おはよう、ジルベルト爺、入って良いよ」
「失礼します」
部屋の中に入ってきたのは、鎧を着た六十代くらいの初老の男性だった。
え? ジルベルト?
鎧を着たおじいちゃん!?
「!?」
わたしは、ハッとベッドを起き上がると、部屋の隅にある鏡の前に立った。
そこには……。
「これ……これが、わたし……?」
そこには……追放婚約破棄される悪役令嬢、ラファエラの姿があった。
「姉上、食欲がありませんね?」
「どうかされたのですかな?」
「い、いえ……なんでもないんです、心配掛けちゃってごめんなさい」
「!!」
「!?」
ふたりが、びっくりしたような顔をしている。
ああ、ラファエラはもっとトゲトゲした、嫌な感じにしゃべる人だったか。
でも……頭の整理が追いつかない。
ラファエラのモノマネをする精神状態には、到底なれなかった。
ここは……妹にやらされていたゲームの中。
『終末の聖戦』の舞台に違いなかった。
「ジルベルト……さん、暗黒竜に関して何か情報はありましたっけ?」
「いえ、昨日から新たに入った情報はありませぬ。それと、ワタクシをさん付けで呼ぶのはおやめください、姫様」
やっぱり……暗黒竜が居て、このおじいちゃんがジルベルト。
「部隊のみんなは、ちゃんと食事をしていますか?」
「もちろんです、姫様。全て滞りなく」
そう、このおじいちゃんは、若い頃は英雄とまで言われた完璧超人で、ラファエラの教育係をしている人だった。
ジルベルトの人生で唯一の汚点とか言われているのが、わたしなのだ。
「姉上……なにか、悪い物でも食べたんじゃないですか?」
そしてこっちの美少女……に見えるのは、女装している弟、ミーノだった。
小さな頃から暗殺技術をたたき込まれ、今では凄腕のアサシンになっている、とんでもない弟だ。
でも、姉思いのいい子で、ラファエラと一緒に追放されると、暗黒竜側に寝返ってまで着いてきてくる。
「…………」
そしてわたしは……仲間の関係を引っかき回して追放される、悪役令嬢のラファエラだった。
死にたい……どうせなら、主人公に転生してくれれば良かったのに……。
まぁ、元のわたしとは、比べものにならないくらい美人になってはいるんだけど……。
確か、スキルは『待ち伏せ』を持っていて、相手に攻撃されたときでも、わたしから先に攻撃できるという強みがあるんだった。
「姫様、そろそろ時間ですぞ」
「あ、はい、食事はもう十分です」
考え事をしていて、あまり味はわからなかったけれど、十分においしい食事だったと思う。
「姉上、お着替えを」
「着替え、ですか?」
「はい、いつ敵に襲われるかわかりませんから、武装をしなければ」
武装……そうだ、ここは暗黒竜という敵と戦っているファンタジー世界なんだった。
ミーノに手伝ってもらいながら、なんとか鎧を着ていく。
重い……でも、仕方ないか。
街の中にある高級そうな宿屋から出ると、街の外で待っている兵達のところへ行く。
どのくらいいるんだろうか、一万人とか、それくらいはいそうだった。
「姫様、馬にお乗りください」
兵達が数人がかりで馬を宥めている。
そうだ……ラファエラは、馬に嫌われていて、乗るのが一々大変という、謎の設定があるキャラなんだった……。
馬なんて、小さい頃にポニーに乗ったきりだ。
でも、何故か……身体が覚えているように、颯爽と馬にまたがっていく。
「おおおっ」
「今日は馬が暴れないぞ」
「どうしたことなんだ」
どういうわけなのか、馬は嫌がることもなく、わたしを乗せてくれた。
中身が変わっていることをわかっているんだろうか?
「みなさん、ありがとうございます、もう大丈夫ですから、持ち場に戻ってください」
「…………!?」
「え……」
「ど、どういう……」
兵の人達が、困惑しながら下がっていった。
ラファエラは、ここでもトゲトゲとヒステリーを起こしていたのかも知れない。
「姫様は、変わられましたな」
ジルベルトが、なんだか慈しみの微笑みを向けてくる。
「でも、あたしは、今の姉上の方がいいな」
ミーノも、笑顔が完璧な美少女だった。
「そ、そうでしょうか……?」
こんなに周りから優しくされたことがないわたしとしては、くすぐったい感じもする。
「では、出発するぞ! 今日中に王都ラクシアまで進む!」
王都ラクシア……それが、このゲームの主な舞台となる場所だった。




