第十七話 逃亡の果てに
「起きてーっ! 起きて下さい! 大変危険です!」
ミーノも大声を上げてくれた。
さすが、戦時中の武人なだけあって、王子様ふたりは剣を持って駆けつけてくれる。
「どうしましたか、ラファエラ様!?」
「王女を殺したのはジルベルトでした! 今は、隠し通路を通って逃走しています!」
「なんだと! そんな証拠がどこにある!」
アレッシオ様は、取りあえずおいておこう。
ここで問答をしていても時間を失うだけだ。
「ミーノ、アーシアを助けてあげて」
「はい、姉上、ここに連れてきます」
ミーノがアーシアの部屋に行く。
アーシアでは、ジルベルトと戦えないから呼びに行った方がいい。
「ジルベルト殿は強者です、全員で固まって行動しましょう」
「はい」
「兄上! 簡単に信じすぎです!」
どうして、アレッシオ様が部屋から出てきているんだろう?
他のふたりみたいに、軟禁されているわけではないみたいだ。
「お姉様、何事ですか?」
「アーシア、説明は後よ、聖域の出入りはできないわよね?」
ジルベルトが取る行動として、最もあり得るのが聖域からの逃亡だ。
ひとりでも多く道連れにするために暴れるというのは、ジルベルトらしくない気がする。
「あたしの許可がなければ、入ることも出ることもできません」
「ということは、まだジルベルトは聖域の中にいる」
そこに、少し眠たげなファウスト様が現れた。
昼間と同じピエロっぽい衣装だけど、寝間着だと思う。
「夜中に大騒ぎですね、どうしましたか?」
「ジルベルトが裏切りました、王女を殺したのはジルベルトで間違いありません」
「おやおや、そのジルベルトさんはどこに?」
「聖域の中に必ずいます、あたしが許可しない限り、出入りはできません」
ジルベルトも、そのルールは知っていただろう。
それとも、他に出入り口があるんだろうか?
「ジルベルト爺が使っていた隠し通路があります、そこから追いかけましょう」
「隠し通路ですか……まだわかっていない隠し部屋がたくさんあるということですね」
「隠し通路は、三叉路になっていました、追いかけましょう」
全員でジルベルトの部屋に行き、そこから三叉路まで進む。
「王を殺した武器は剣でした、ジルベルト様は、この通路を通って王の部屋まで行き来したのですね」
そうかも知れない。
どの部屋に王がいるのかは、隠し通路があれば調べられたんだろう。
「方角的に、右の通路は王の部屋の方に行きます、左の通路はアレッシオ様達の部屋の方に行くようですね、では、真ん中の通路は?」
中央広場?
いや、隠し部屋があるのかも知れない。
「では、真ん中の通路を追ってみましょう」
フォルトナート様が先頭で進み始める。
わたしが先頭の方がいいんだけど、危険だと思われるだろう。
「部屋だ」
ミーノが前に出て、扉を調べ始める。
「罠も鍵もないと思うよ」
「行くぞ、気を引き締めろ」
フォルトナート様が扉を開けた。
でも、部屋の中には誰もいない。
他に扉もないようだった。
「外れか」
アレッシオ様が舌打ちする。
「甘いですわよ!」
すると、突然アーシアが鋭い声を上げた。
天井付近にある穴……通気口から、ネズミが落ちてくる。
そして、そのネズミは鎧姿のジルベルトになった。
「…………!」
「ネズミに変身して聖域を出ようと思ったんですのね、でも、通気口からも出ることはできませんわ」
「太古の昔、この聖域にはネズミがいたらしいのですがな、アーシア・ウェルデン、貴女の力がいにしえの英雄よりも強力だったということですよ」
ファウスト様が、ジルベルトに近づいていく。
剣を一閃するジルベルト。
でも、その剣はフォルトナート様に受け止められていた。
「不用心ですぞ、賢者殿!」
「いやいや、聞きたいことが山ほどあります、大人しく縛について下さいよ」
小さな指揮棒のような杖を一振りする。
すると、光のロープが現れてジルベルトの身体に巻き付いていった。
捕縛魔法か!?
「さらばです、姫様! わたしの見立ては間違っていた! 王に気をつけて下さい!」
「ジルベルト!?」
暗黒の霧のようなものがジルベルトを包み込んでいく。
そして、ファウスト様の捕縛魔法が捕らえるよりも早く、その身体が弾け飛んだ。
辺りには、血が飛び散っている。
ジルベルトは……自害していた。
「ラファエラ様、ジルベルトと剣を合わせたときに暗黒竜の力を感じました、おそらくは操られていたのかと……」
「自害されてしまうとは! 話を聞きたかった!」
ファウスト様は、どこかずれたことを言っている。
記憶はないけれど、わたしを小さな頃から育ててくれた教育係だ。
もの悲しい気持ちになる。
アミュレットは、ジルベルトに盗まれていたんだろう。
つまり、王を殺したのもジルベルトだということだ。
どこで暗黒竜に魅入られたのか。
出会ったときにはもう、そうだったのかも知れない。
わたしは、自分の剣を鞘にしまうと、ジルベルトの遺品である剣を拾い上げた。




