第十六話 犯人
「こうも、あからさまに命を狙われていては戦えません、罪を着せられて裁かれる恐れもあります」
「あ……」
「どうしましたかな? 姫様」
「いや、なんでもないなんでもない」
どうやら、三人になったところに復帰したみたいだ。
もう、やり直すことはできない。
慎重にいかないと……。
「とにかく、暗黒竜との戦いは、国に帰ってからでもできます」
「姉上? どうしたの? 王子様に求愛されて熱が出た?」
「ち、違います! ちょっと疲れただけです!」
「ふーん」
ミーノが、怪しそうな目でわたしを見てくる。
今は、色恋よりも命の方が大切です。
集中しないと。
「では、明日、撤退も含めて皆様と相談しましょう」
「わかりました」
「では、姉上、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
部屋の前で警護をしていると、ふたりが巻き込まれてしまうかな?
「今日は、ワタクシが見張りに立ちましょう」
「では、ボクは先に休みます、途中で変わるから」
「はい、そうしてください」
ふたりで警護の相談をしながら、部屋を出て行った。
ジルベルトなら、誰に襲われても平気だろう。
不意打ちだとしても、ジルベルトを倒せるのは覚醒したフォルトナート様くらいのはずだ。
「さて、ここからだね」
鎧は着たままの方がいいだろう。
どうせ寝ないのだし。
明かりを点けたまま、目を瞑って寝たふりをする。
殺されたときも、明かりは点いたままだっただろうから、再現した方がいいだろう。
ちょっと無駄遣いだけど、命に関する確率だから、少しでも上げておいた方がいい。
「…………」
うっかり寝ないように気をつけないと。
まぁ、無意識に反射できるなら、寝ても大丈夫なはずだけれど。
「…………」
どれくらい時間が経っただろうか?
ジッと待っているというのは、案外辛い。
寝返りを打ちたいけど、鎧が邪魔で簡単に寝返りを打てなかった。
「…………?」
部屋の中に物音がしたような気がした。
扉の方からは音がしない。
でも……誰かが来たんだ。
どうやって!? 扉以外から入ってくることができるの!?
警護のふたりが気が付かないはずだ。
「…………」
そして、空気を引き裂くような、キンという音が聞こえた。
「誰っ!?」
わたしは目を開けてベッドから飛び起きる。
するとそこには……氷漬けになったジルベルトがいた。
「え!?」
なぜ? どうしてジルベルトが凍っているの?
そう思うのと同時に、違う考えも並行して進んでいく。
王女を氷で殺したのはジルベルトなんだ。
その氷のスキルが、リフレクションで反射されて氷漬けになっている。
壁の、ラクシアの伝承が描かれた大きなタペストリーが揺れていた。
そちらは、ジルベルトの部屋だ。
覗いてみると……タペストリーの裏が穴になっていた。
ここから中に入ってきたようだ。
「……………」
ジルベルトは死んでいるんだろうか?
いやわからない、凍っている今のうちにミーノを呼ぼう。
わたしは部屋を出て、ミーノの部屋の扉を大きく叩く。
「ミーノ! 起きてっ! 大変なの!」
すると、すぐにミーノが部屋から出てくる。
「どうしました、姉上!」
「王女を殺したのは、ジルベルトだったの! わたしの部屋にいるわ!」
何かが起きていると察したのか、ミーノがわたしの部屋を見る。
「誰も……いませんよ?」
「え……?」
たった今、氷漬けになっていたのに。
どれくらい時間が経っただろうか?
ミーノを呼びに行くまで十秒くらい?
壁のタペストリーが大きく揺れている。
「ジルベルトは隣の部屋よ! 注意して!」
ミーノがジルベルトの部屋の扉を慎重に開ける。
罠を警戒していたみたいだけど、それはなかったようだ。
でも、部屋の中にジルベルトがいたら危険だ。
わたしも戦わないと。
剣を抜いて、ミーノの後ろに立つ。
「中には……誰もいません」
そんなことある?
わたしは、慌てて自分の部屋を見た。
さっきと様子は変わりない。
じゃあ、ジルベルトはどこへ……?
「姉上! 来て下さい!」
わたしは、ジルベルトの部屋に入る。
「隠し通路です」
ジルベルトの部屋にもタペストリーがあり、その裏に通路が覗いていた。
「中を見ましょう」
わたしが、先頭になって中に入っていく。
「姉上、危険です、ボクが前に行きます!」
「シッ! 聞かれてしまう」
「…………」
いざというときに、リフレクションがあるわたしが先頭の方がいいだろう。
暗い通路を進んでいくと……そこには、三つ叉に別れた通路が見えていた。
「隠し部屋だ……」
ここを通って、ジルベルトは色々なところに出入りできたのかも知れない。
「皆さんが危ないんじゃないですか? 早く知らせましょう」
「そうね、これ以上はもう追えないわ」
ふたりで中央広場まで行く。
わたしは息を吸い込むと、大きな声を上げた。
「みなさん起きて下さい! ジルベルトが犯人ですっ!」




