第十三話 暗黒竜の事情
「ん……?」
気が付くと、そこは真っ暗な世界だった。
微かに漂う腐臭に、上から感じる視線……。
また、ここにやってきてしまったみたいだ。
「これで二度目だな」
「二度目なら、セーフなんですよね?」
四度目で、暗黒竜のものになると言っていた。
二度目なら、ペナルティいはないと思いたいけど。
「我の眷属になりつつはあるが、問題はあるまい」
いや、眷属ってなんですか。
響がおどろおどろしいんですけど。
「さて、デウスエクスマキーナでは防げなかったようだな、更なる強さ、リフレクションを授けよう」
「リフレクション?」
今度は、どんな効果なんだろうか?
待ち伏せの上位バージョンがデウスエクスマキーナだったから、似た系統になると思うけど。
「相手の攻撃を反射できるスキルだ。不意打ちを受けても、反射することができるだろう」
「なるほど……」
レアルコの攻撃は、完全な不意打ちだった。
どこかに針を飛ばす装置を仕掛けてあったんだろう。
そして、毒を塗った針をわたしに……。
「…………」
リフレクションなら防げそうだ。
ていうか、基本、わたしは専守防衛なんだな。
攻撃的なスキルがない。
「そういえば、暗黒竜の軍勢が攻めてきましたよ、人間をいじめるのはやめて下さいよ」
「我はそんなに暇ではない」
不本意だと言いたげな声だった。
どういうことだろう?
「でも、闇の軍勢とか、聖域にいないと暗黒竜に呪われるとか……」
「アレは我であって我ではない」
ん? どういうことだろう?
「別人なんですか?」
「我はもっと俯瞰した位置から世界を見ている」
復活した暗黒竜は、本物ではないらしい。
ゲームも、裏モードとかに入れば真ラスボスと戦えたんだろうか?
「それに、人間がどうなろうとも我は興味がない」
「そうなんですか」
超越した存在なんだな。
だから、人の生き死にくらい簡単に介入できるんだ。
「しかし、そなたは別だぞ、我よりも俯瞰した位置にいる異世界人よ」
「うっ……」
暗黒竜は、ここがゲーム世界だって、わかってるのかな。
そもそもどういうものなのか、わたしが良くわかってないけど……。
「そなたを手に入れたいという欲求はある」
「いえ……遠慮しておきます……」
手に入れてどうするの?
怖い想像しかできないんだけど……。
「まぁ、何にせよ、後二回だ、嫌が応もなくな」
「あっ……」
もっとヒントがもらえないかと思ったのだけど、暗闇が押し寄せるように意識を奪っていった。
「ここは、フォルトナート様に相談してみましょう、何か掴めるチャンスではありますので」
「え? あっ……」
復帰したみたいだ。
今は……レアルコ様に手紙をもらった後かな?
フォルトナート様に事情を説明するところか。
「どうかしましたか? 姫様」
「いえ、なんでもありません、では、相談に行きましょう」
わたし達は三人で、フォルトナート様の部屋に向かった。
「ラファエラです、少しお話をいいでしょうか?」
部屋をノックすると、すぐにフォルトナート様が出て来る。
「どうしましたか?」
「レアルコ様から、これを受け取ったのですが……」
さて、どうしよう。
リフレクションで、針は反射できるんだろうけど、それでレアルコ様を殺してしまったりはしないのかな?
できれば、そうならないようにしたいんだけど。
「わたしが一緒に行きましょう、レアルコに聞きたいことが色々とあります」
「この、隠し部屋というのはなんですかな?」
「聖域には、色々と隠し部屋などがあります。先代の勇者達が暗黒竜と戦うための聖域でしたから、必要だったのでしょう」
隠し扉の前まで行き、フォルトナート様とわたしで中に入っていく。
なぜ、レアルコ様はわたしを狙うんだろう?
特別に、恨みを買ったりはしていないと思うんだけど。
しかも、フォルトナート様が同席している場でわたしを殺すなんて不可解だ。
まるで、バレても良いみたいじゃないか。
「フォルトナート様、レアルコ様は毒針を仕込んだ装置でわたしを殺そうとしています。毒針は上手く防ぎますので、レアルコ様を捕らえて下さい」
「……君は、何者なんだ? どうしてそんなことがわかる?」
不思議そうな目でわたしを見てくる。
説明のしようがない。
「その……夢で見ました」
そう言うしかない。
怪しまれるだろうか?
「本当に変わったな、いつも見ていた君ではないようだ」
こんなときなのに、フォルトナート様が優しく微笑む。
「わたしは、何も変わっておりません」
君なんて呼ばれると、ちょっと打ち解けてきたのか感がある。
素直に嬉しい。
「いや、とても変わったよ、なんというか……面白くなった」
「えぇ……」
面白くなったって……女性が喜ぶワードじゃない。
王子様は箱入り過ぎて、ちょっと変わっているようだ。
「わかった、レアルコは任せてくれ」
「お願いします」
そして、扉をノックする。
「レアルコ様、ラファエラです」
「どうぞ、お入り下さい」
目で合図した後、ふたりで中に入っていく。
フォルトナート様を見たレアルコ様は、不満そうな顔をした。
「ワタシはひとりでと書いたはずですが?」
「偶然、私が手紙を見てしまってな、同席した」
「そうですか、仕方がありませんね」
さて、こちらの手がばれないように、剣で弾き返すような素振りを見せよう。
毒針が、どこにリフレクションされるのかわからないけど。
「実は、一連の殺人を犯した犯人が見つかりました」
「何故、会議のときに言わなかった?」
「あそこで言えば、取り逃がしてしまうからです」
もうすぐ、もうちょっと……。
「取り逃がす? 何故ラファエラ様を呼んだんだ?」
少し強い口調でフォルトナート様が問い詰める。
「ラファエラ様を呼んだのはもちろん、犯人がその人だからですよ!」
ここっ!!
身体が覚えている通りに、最速で剣を抜いた。
キンと音が聞こえた気がする。
リフレクションで弾けたようだ。
「毒針です!」
「なにっ!?」
レアルコ様が驚いている。
「レアルコ! そこに直れ!」
力のない文系のレアルコ様は、たちどころに押さえ込まれてしまう。
今回は、乗り切ったかな。
どんどん暗黒竜に借りを作っているような不気味さがあるけど。
「なぜラファエラ様を狙った!?」
「くっ、王子……貴方にも、いずれわかりますよ」
「どういう意味だ! 答えろ!」
でも、レアルコ様は、それ以上のことを吐かなかった。




