第十一話 不在証明
ご遺体の安置が終わると、アリアナ様殺害の話が再開される。
ファウスト様が王女の部屋で防腐魔法を掛けて安置していた。
「さて、もう皆知っていると思うが、改めて説明させて頂く」
フォルトナート様が、集まっている皆に説明を始める。
「暗黒竜の軍勢との戦いがあったが、こちらが勝利した、引き続き、皆の奮起を期待したい」
戦場に出なかったのは、アーシアと宰相の息子レアルコだけだ。
戦いのできるものは、全員出陣している。
「だが……その戦いの最中に、ブルーノが乱心し、ラファエラ様を襲った。大勢の騎士団員が確認しており、本人は自室にて謹慎中だ」
「扉に魔法を掛けておりますので、食事を運ぶ時以外は連絡が取れません」
ファウスト様から、そう説明がある。
まぁ、いざとなったら扉を壊してでも出て来るだろうけど。
「そして、戦いが終わったあと、今度はアリアナがラファエラ様を襲った。ラファエラ様は気を失ったが、その際、何者かがアリアナを殺害している」
わたし、狙われてるね。
まぁ、わかっていたことだけど。
「ブルーノは、戦いで興奮しすぎたのかも知れないが、許されることではない。アリアナも、嫉妬に狂ってラファエラ様を襲った可能性が高い」
「そう決めつけるのは、早くありませんか?」
食ってかかったのは、第二王子のアレッシオ様だ。
この人は、ずっとわたしを疑っている。
「ブルーノは、父親の仇討ちをしたかったのです、アリアナの件もラファエラの証言があるだけで、信憑性に乏しい」
部屋の中に重い空気が流れる。
本当は、戦いの勝利で祝うはずの夜なのに、まるでお通夜だった。
「お姉様には、王もアリアナ様も、殺す動機がありません、犯人が何を考えているのか、そこが問題ではありませんか?」
「姉上には、人を殺すほどの氷魔法は使えません、アイテムを使えば証拠が残るはずです」
アーシアとミーノが、わたしをかばってくれる。
ありがたい話だ。
「わたくしとしては、ラファエラ様からのお話が聞きたいですね」
ファウスト様にそう言われて、ありのままを話していく。
「ブルーノ様は、その……ミーノを手に入れるとか、そういう言葉を叫びながら襲ってきました。正気ではなかったかも知れません」
「なにっ!?」
アレッシオ様が驚いてる。
ミーノを狙っているのは、アレッシオ様も同じだから。
恋のライバルだったことを知った瞬間だ。
本当に、ミーノが男だって知らないのかな。
「なるほど、ミーノ様に気に入られることと、ラファエラ様を殺害することは関係がありませんね、狂っていた可能性は十分でしょう」
「ぶ、ブルーノは、父親の仇討ちで頭がいっぱいだっただけだ。情状酌量の余地がある」
内心複雑なのか、少し声が震えていた。
何にせよ、狂っていたことは否定しないんだね。
「アリアナ様には、確かに襲われました。空間を遮断する技を使われて、助けを呼ぶこともできませんでした」
「そして、戦ったのですか?」
「はい、身を守るために戦いましたが、アリアナ様の剣が触れた途端、雷撃のように全身が痺れて……わたしは気を失いました」
死んだと思ったけれど、生きていた。
どうしてなんだろうか。
「アリアナ様の剣には、そういう魔力がこめられておりましたか?」
「そうだ、蒼雷の剣は最近手に入れたばかりだが、確かにアリアナが持っていた」
ゲーム中にも、そんなアイテムがあった。
まぁまぁ位の強さだったけど。
「そして気が付くと、戦いに勝ったはずのアリアナ様が、氷漬けになって亡くなっていたと」
「そうです、そこでわたしは人を呼びました」
「私とジルベルト殿が駆けつけたときには、周りに人はいなかった。証拠になりそうな物もなかった」
「さて、アリアナ王女を殺そうと思っていた者がいたとして、こんな殺し方をするでしょうか?」
ファウスト様としては、色々と納得がいっていないようだ。
確かに、不自然な点が多い気がする。
氷漬けなんて殺し方もおかしいし、殺すタイミングとしても、わたしが気絶している間になんて妙だ。
「この中で、強力な氷魔法が使えるのはファウスト様だけだと思いますが?」
「そうですね、真犯人は、わたくしが犯人だと誘導しようと思っていたのかも知れません」
アレッシオ様は、わたしとファウスト様が裏で繋がっていると、そんなことを推理していた。
自分の思い描いている結果がまずあって、そこから推論しているから結論がおかしくなる。
「わたくしが思うに、暗黒竜の手の者がいるのではないかと思うのです」
「神が掲示したこの場所にですか?」
アーシアとしては聞き捨てならないようだ。
聖域には、暗黒竜の力が及ばないというふれこみだ。
でも、わたしは暗黒竜からもらった力を使えている。
聖域は万能じゃないんだろう。
「どう考えていっても、動機という点で全員の根拠が弱くなってしまう。しかし、誰かに操られているのならば、と考えてしまうのですよ」
にっこりと微笑んで、アーシアを見るが無視されていた。
口論するつもりはないようだ。
「動機はわかりませんが、強力な氷魔法を使えるのはファウスト様だけです、これは根拠にはならないのですか?」
ファウスト様犯人説は、アレッシオ様が何度も言っている説だ。
確かに、凶器を持っているのがファウスト様だけだと思うなら、あながち間違いではないんだけれど……。
「わたくしは、自分が殺していないことを知っていますが、それを証明するのは難しい」
「ハッ、反論しないなど、認めたようなものではありませんか」
「もちろん、隠していなければ、ですがね」
アレッシオ様に微笑みを向ける。
ファウスト様は、感情を表に出す人ではない。
「隠す? 隠すとはなんでしょうか?」
「王は、魔導王と言われるほどの術者でした。ならば、その子供たちは、魔法の手ほどきを受けているのではありませんか?」
「き、貴様! 俺を疑うのか!」
激高して立ち上がるが、隣にいるフォルトナート様に肩を掴まれて座らされる。
「確かに、我らは幼い頃に魔法の手ほどきを受けましたが、その後、大成はしませんでした」
フォルトナート様が、落ち着いてそう言う。
「非礼をお許し下さい、可能性を探っている段階ですので」
「怪しいのは、ラファエラとファウストだ! 誰もが思っている通りにな!」
すると、アーシアが呆れたように物を言う。
「はぁ……皆様落ち着いて下さいませ、証拠がないのですから、犯人捜しは無意味では?」
「しかし、このままではまた被害者が出かねん!」
それもそうなんだけど……。
「疑われるべきは、まずはブルーノ様かと」
口の重いジルベルトが、そう発言する。
「衆目の中、姫様を襲ったのですから当然です」
「しかし、ブルーノ様は部屋に軟禁されていました、犯人ではありません」
部屋に魔法の鍵を掛けたファウスト様としては、そう言うだろう。
「それが狙いなのでは? 不在証明の完璧な人物はブルーノ様だけでした」
「ふむ、ブルーノ様とアリアナ様がグルになっていると。それならば、ラファエラ様が襲われたことにも説明が付きますね」
そんなことあるのかな……。
みな、半信半疑だ。
「バカバカしい!」
アレッシオ様が吐き捨てる。
「ですから、犯人捜しは無意味だと言ったのです」
アーシアも頑なだ。
誰が怪しいかなんて……もうわからない。
「それぞれが、身辺に気をつけるほかありませんね」
フォルトナート様がそう言って立ち上がる。
「もちろん、この中に犯人がいないことを願いたいですが」
「そうなるといいですね」
ファウスト様の言葉が締めになって、会議は終わった。




