2-4 桃太郎はナニを間違えたのか
桃太郎西部軍長の檄に呼応し、桃太郎農園の住民は女子供含めて立ち上がり、犬帝国の凶暴な犬に立ち向かっていきました。住民たちは土地の知識といった地の利を生かし、予想以上の善戦をし、進行を食い止め、遅らせました。
一方、西部軍は犬帝国の奇襲を桃太郎に伝えようと、農園の中央に向かって馬を走らせていました。全速力で向かう中、戦いの中で傷つき、速度に追いつけないものは徐々に離脱していきました。中央にたどり着いた時には四時間ほどが経過し、日は昇りはじめており、隊員は半分以下になっていました。
西部軍長、柿万太郎は桃太郎のもとにすぐに通されました。そして、万太郎は桃太郎に奇襲の旨を伝えました。それを聞いた桃太郎は怒り出しました。
「なぜ犬ごときに俺が鍛え上げた軍が負け、ここまで逃げてくることがあろうか!貴様らは日々鍛え、野菜を食べ、日光を浴び、強靭な肉体を作ってきたのではないのか!」
これは隊員たちにとって、いままで農園に虐げられ、さらに今回家族を殺された挙句の仕打ちでした。ついに我慢ならず、隊員の一人は桃太郎に掴みかかり、怒鳴りました。
「貴様の支配のせいで、この農園の人間は弱くなって、犬に負けて、家族まで殺されたんだぞ!すべてお前のせいだ!」
これを聞き、桃太郎は唖然としました。さらに、掴みかかってきた隊員の腕を見て驚愕しました。
「何故、こんなにも腕が細い。何故こんなにも身体が軽い。何故、こんなにも弱いのだ…」
桃太郎は呆然として固まってしまいました。万太郎は殴り掛かった隊員を桃太郎から離し、落ち着かえせました。そして、桃太郎に向かい言いました。
「我々人間は、肉を食べて、血を作り、筋肉を作り、身体を大きく、強くしていきます。それは桃太郎殿もご承知のはず。明日などないかもしれない身ですので、無礼を承知で言わせていただきますが、この農園を支配しやすくするため、また、利益を得るために、菜食主義を強要し、軍隊を弱らせてしまった故にこの事態となっております。我が農園、そして、住民に対してわずかでも愛情や懺悔の気持ちがあるのであれば、犬帝国に投降し、少しでも多くの住民の命を救ってください。」
桃太郎はそれを聞き、腕を組み、そして、悟りました。
桃太郎が生まれ、そして植物たちに育てられているときに、植物たちは、桃太郎は人間と桃のハーフであり、人間とは違うと言っていました。しかし、いままで、おじいさんとおばあさん、そしてこの農園の人たちと暮らす中では違いを感じませんでした。桃太郎は自分と人間に違いはないと感じていました。しかし、このとき、植物たちが言っていたことを桃太郎は理解しました。農園のみんなは自分に合わせていたこと、そして、それ故に弱くなってしまったことを知りました。
それと同時に、植物たちは桃太郎にもう一つの話を思い出しました。植物たちは、人間は違うものを恐れる。故に桃太郎のことを知った時、人間は桃太郎を忌み嫌うだろう。だから、桃太郎が桃とのハーフであることは決して話してはいけないと桃太郎に伝えていました。桃太郎はおじいさんに教えた時にうまくいったため、このタブーを忘れていました。しかし、この事実を隊員たちに打ち明けるか迷ったときに思い出し、桃太郎は恐怖しました。
いま、この隊員全員が桃太郎を恨み、投降を願う状態を打開するためには、この事実を打ち明け、理解させ、一致団結する必要がありましたが、桃太郎の中にある人間の心が迫害される恐怖に怯えました。