3-8 ナニが雉桃猿合戦の決着を決めたのか
合戦開始から3日経ち、硬直したキジと桃太郎農園の戦場に猿の軍が押し寄せました。猿の軍は尾奈猿を中心とした武道集団であり、城の門前でキジたちと戦っていた桃太郎農園の兵たちを一瞬で薙ぎ払っていきました。
それを見た桃太郎農園東の将軍、桃次郎は慌てましたが、おばあさんは自信満々に
「近接盾人隊、出撃じゃ!」
と宣言すると、おばあさんが誇る、強靭な肉体の男たちの隊が出撃しました。そして、近接盾人隊は尾奈猿が攻め入った門の入り口に集まると、三メートルはある鉄の盾を前面に構えました。尾奈猿たちは彼ら自慢の巨大斧を盾に向かい振るいますが、その盾はびくともしませんでした。これを見て、おばあさんは甲高い声で笑い、言いました。
「この近接盾人隊は今までの鎖国時代の間にも肉を密輸し、食わせ育てた自慢の盾防御兵なのさ!キジはきびだんご、猿は食料不足でいずれくたばる運命さ!」
尾奈猿は、巨大盾を前にくじけそうになる兵たちを
「攻撃こそ最大の防御。防御一辺倒の兵にある未来は死のみ。攻撃を続けていればいずれ盾は崩れ、我々の攻撃を防ぐことはできなくなる!」
と鼓舞しました。
けれども、おばあさんが言った通り、戦況は停滞状態が続き、合戦が長引けば長引くほど、後ろから新たに出てくるキジの兵はきびだんごの影響を強く受けた弱い兵になり、猿たちの食料は底をつき始め、兵力が弱まっていきました。
この戦況が動いたのは猿の出撃後5日後でした。
桃太郎農園東の北東方向、猿山から猿の残りの軍が城に突撃してきたのでした。猿山の王はこの合戦における籠城戦が長期戦になることをはじめから予想しており、猿の軍による北東方向と南東方向から挟む形で攻撃することを考えていたのでした。
おばあさんはこの猿山からの奇襲に対して驚きを隠せませんでした。おばあさんも、キジと猿が手を組む可能性は考えており、近接盾人隊など、準備を行っていましたが、同時に、戦局が危うくなれば、猿たちはキジを見捨て、逃げかえると予想していました。しかし、おばあさんの予想に反して、猿たちは全兵力をつぎ込み、この合戦に参加してきたのでした。
「もうこれは逃げるしか手はないわ。」
おばあさんは桃次郎に隠れ、側近たちを集め、こっそりと地下に作っていた隠し通路から脱出を図りました。
戦況は一気にキジ・猿側に傾き、ついには桃太郎農園東の城は北東方向からの侵入を許してしまいました。そこからは一気に城の中に猿の軍がなだれ込み、非力な元菜食主義人間たちは猿に嬲り殺されていきました。そして、そこから幾時間か経ち、大将桃次郎は猿にとらえられました。
「俺は指示に従っていただけだ。命だけは助けてくれ!」
そう懇願する桃次郎に対して、なんて非力な大将なのかと、猿たちは心置きなく笑いました。しかしながら、猿たちは
「同情はするよ。しかし、これは王のご命令だから、こうするしかない。」
といい、桃次郎の身体をつかみ、城の窓から首だけを出し、そして、命の懇願を叫ぶ桃次郎の首を切り落としました。首は城の壁や屋根をゴロゴロ転がっていき、最後には地上に落ちました。
これを見た桃太郎軍は力尽き、戦闘をやめ、キジは歓喜の声を上げました。両者は敗者と勝者の違いはあれど、合戦が終わったと感じました。しかし、猿たちは違いました。まだ合戦は終わっていなかったのでした。