3-4 おばあさんはきびだんごにナニを仕込んだのか
おばあさんとキジの森の間で貿易関係が結ばれてから一か月が経ったころ、おばあさんの予想は現実になり、キジの使者が桃太郎農園西部を訪れました。
キジの使者は桃次郎を前にして興奮気味に話し始めました。
「桃太郎農園のきびだんごは素晴らしい!食べたものは力にあふれ、働く者は途端にやる気が湧いて出て、鬱になっていたものは途端に歌いだすほどに元気になりました!是非このきびだんごをキジの森にまたいただけないでしょうか。」
これを聞き、桃次郎は驚きました。確かにきびだんごは桃太郎農園の名産品でおいしいだんごではありますが、キジの使者がいうような効能を感じたことはなかったからです。
唖然とする桃次郎の後ろから、おばあさんはにやりと笑いながら現れ、そして、キジの使者に言いました。
「私たちのきびだんごを喜んでいただけて光栄です。しかしながら、私たちとキジの森の関係は貿易関係にございます。つきまして、きびだんごを購入いただく形であればいくらでもご提供いたしましょう。」
これをキジの使者たちは同意し、金銭ときびだんごを交換しました。
その二週間後、キジの使者は再び桃太郎農園を訪れました。キジの使者は前よりも明らかに陽気になっていました。
「きびだんごを一つ食べれば元気になる!二つ食べれば、身体がふわりと陽気になる!三つ食べれば皆で肩を組み踊りだす!きびだんごを食べれば皆幸せ!生涯平和!極楽日和!」
これを聞き、おばあさんはさらに喜び、言いました。
「気にいただけて光栄です。しかしながら、このきびだんご、桃太郎農園でも人気で、在庫が少なくなっています。一つの値段が二倍となってしまいますが、買っていただけますか?」
これを聞き、しかし、キジの使者は迷わず、
「喜んで買わせていただきます!森の民の力はきびだんごを食べることで何十倍にもなります!国が潤うのですから、二倍の額など喜んで出しましょう。」
と即決しました。
これから二週間おきに、キジの使者は訪れ、値段が倍々へと増えていくきびだんごを買っていきました。
この様子を見て、怖くなった桃次郎はおばあさんに聞きました。
「キジに売っているきびだんごには一体何が入っているのですか。」
おばあさんは、その質問を聞き、あきれたように答えました。
「あんたまだわかっていないのかい。あのキジの様子を見ても気づかないものかね。」
その一言を聞き、桃次郎は恐る恐る言いました。
「まさか、阿片ではありませんか。」
それを聞き、おばあさんは大いに笑い、そして言いました。
「まさにその通りじゃ!あれは一度食べればこの世のものとは思えない高揚感があるだろう。しかし、一度食べたが最後、その高揚感を求めて、どんな手段を使ってもきびだんごを手に入れたくなる。」
これを聞き、桃次郎は、恐怖に支配されながらも、勇気を振り絞り、怒りました。
「阿片は桃太郎殿が、病気の民を治療するためのみ使用を許したものです。こんな恐ろしいことに利用してはいけません!」
それを聞き、しかし、おばあさんは机を両手で叩き、興奮気味に立ち上がり言いました。
「何を言う!桃太郎は死んだ!この農園を支配するのはわたしだ!それに、面白いのはまさにこれからじゃ!きびだんごに支配されたキジたちの末路が目に浮かぶわい」
桃次郎は心底恐ろしくなり、隣室のおじいさんの部屋に逃げました。しかし、おじいさんもおばあさんの言葉に布団に包まり震えていました。桃次郎はこの姿を見て、怖い女性に歯向かえないおじいさんの遺伝子にあきれ返り、情けなくなりました。