3-1 桃太郎はナニを守り、傷つけたのか
桃犬大決戦から4か月がたちました。
季節は秋、桃太郎農園はその日、収穫祭を迎えました。桃太郎農園の土地は今年も豊作であり、この日までの間、住民たちは忙しく収穫にいそしんでいました。そして今日、その豊作を神に、そしてこの土地を守った桃太郎に感謝する日として、住民たちは祭りの会場に集まっていました。
祭りの会場は自然に囲まれ、紅葉の赤に包まれた美しいところでした。中央にはひときわ大きな櫓があり、その周りに収穫物が神への貢ぎ物として置かれていました。会場は賑やかでありながら、戦の悲しみが包み込むような雰囲気が漂っていました。
櫓の中央に西部軍隊長改め全軍指揮官となった万次郎が現れると、会場は今日一番の盛り上がりを見せました。万次郎は腕を後ろに組み、そして、この農園全体にさも響き渡るような気合を込めて、話し始めました。
「今年もこの土地が豊かで、そして、多くの作物がとれたことを神に、そして桃太郎殿に感謝をささげる。先の戦で多くの民を我々は失った。我々はこのままいけば、全滅も免れなかっただろう。しかしながら、桃太郎殿は命を懸け、我々を守ってくださった。それがここからでも見えるである緑壁である。
私は桃太郎殿から、この農園を守っていく使命を与えられた。この国はこれからどうなっていくかわからない。緑壁がいつなくなるかもわからない。そして、他の方面から攻め込む敵があるかもしれん。我々は今日、豊作に感謝をし、そして、その作物や動物の肉をよく食べ、肉体を強靭なものにし、そしてよく鍛え、この農園を守っていかなければならない。私を信じてこの農園についてきてほしい。この綺麗な自然のある農園をともに守っていこう。」
この演説を聞き、多くの住民は涙し、そしてそれから、万次郎を含め、住民たちは酒を飲み、肉を食べ、一日中踊りあかしたのでした。
時を同じくして、農園よりも北。猿が支配する山が存在しました。
猿山は桃太郎農園とは状況が真逆でした。猿たちは雑食であり、人間と同じく植物も動物も食べますが。この年は森は不作であり、食糧難に陥っていました。これの原因は桃太郎にありました。
桃太郎の緑壁は桃太郎が集めた植物たちと桃太郎が融合することによってできていました。そして、その植物は桃太郎農園以外の土地から集められてきた植物でした。しかしながら、集められてきた植物たちは栄養を取得しなければ、強固な結びつきを維持することができず、緑壁はすぐに崩壊してしまいます。そのため、緑壁を維持するために、その植物たちは自分の土地から多くのエネルギーを吸い続ける必要がありました。
これは猿山の植物も同様であり、猿山の土地のエネルギーはほぼすべて、緑壁を構成する植物に奪い取られてしまいました。そのような土地で残りの植物が育つはずもなく、他の植物は枯れ、そして不作になってしまったのでした。
猿たちの軍議において、猿の一派は南に豊作の桃太郎農園がある。ここに攻め入るべきと訴えていました。一方で、別の一派は桃太郎農園と交渉をし、食料支援をしてもらうべきと主張していました。この攻めるべきか、交渉するべきかは大きな議論となり、数日議論となっていました。そして、この日は猿の最高責任者である猿の王が決断を下す日となっていました。
猿の王は王座に座り、その前面に数十匹の猿が跪いていました。猿の王は立ち上がり言いました。
「我が国は、桃太郎農園と…」
桃太郎が守ったものは大きく、それに比例して、傷つけたものも大きかったのでした。これがいままで存在していた各国の均衡を崩すこととなり、時代は変化していくのでした。