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Seaside Memory  作者: サイダーバグ
4/5

幻想的な海の体験

 二人で踊って、浜辺で遊んでいたらこの海岸がいつの間にかサンセットビーチのように輝いていた。夕方になったっぽい。そろそろ帰らないと心配されそうだけどそんなことはどうでもいい。今日ぐらいはそんなこと気にしたくはなかった。気にして帰ったらかえって後悔する、そんな予感がして彼女ともっと一緒に過ごすことにした。


 「ねえ、一緒に泳がない? 海の中にいると明るい気持ちになれるの。魚たちと泳ぐのって楽しいんだから!!」


 「いいね。私も海の中を泳いでみたい……!」


 なぎさに言われるがまま海の中を泳ぐことにした。彼女は浅瀬に入ると生えていた足があっという間に鰭に変わった。正直変わった瞬間の様子はよく分からなかったのでどういった原理かは分からない。でもこんなにファンシーな出来事を受け入れている自分がいた。


 「よーし、海の中を探検するぞー!」

 

 そう張り切ったなぎさに私はついていく。私もたまらない高揚感に満ち、子どもみたいにはしゃいでいた。そして海の中に飛び込む。


 ブクブクブク……ボコボコボコ……


 エメラルドグリーンに染まった海の中を泳ぎ、マーメイドと共に海の中を潜る。海の色はだんだん寒色っぽい色合いから暖色っぽい色合いに変わる。軽やかにステップを踏むかのように泳ぐ彼女が輝いて見てた。彼女と視線が合うたびに胸が締め付けられる。ここまで誰かを好きになったことはあるのだろうか。彼氏が今までいなかったわけではなかったけれど、全部自分から好きになった相手ではない。恋愛感情がないまま付き合うみたいなことをしていたからなのか、相手から振られることが多く、長続きはしなかった。それぐらい人に対して恋心というものが芽生えなかった私ですら今の感情が分かる。確実に彼女に恋をしているのだ、と。彼女は先に泳ぎ私を先導する。着衣しながら泳いでるせいなのか、水圧がどんどん襲っていき、自分一人の力だけでは進むのが難しい。なぎさの手を掴み、なぎさの導くがままに身を委ねた。その時、私はとあることに気づく。


 「あぁ、これ……あの時の……」


 衝撃のあまり思わず口にする。なぎさ、いや紗凪には聞こえていないみたいだ。私は正直何か引っかかっていた。紗凪の「私を探して」というセリフからなぎさとの出会い、なぎさの性格やら発言、何となく繋がっている気はしていた。でも、なぎさの鱗の先 につけていたミサンガで確証を持った。あれは間違いなく紗凪のものだと……。

 

 

 七年前のあの日、私と紗凪達は今はもうない海岸近くに出店していたアクセサリーショップに訪れた。あの事故が起こる数時間前の話だ。お揃いの何かが欲しくて色々物色していた。


 「何がいいかなー。んー、海羽とお揃いのもの買うなら特別なものがいいな」


 「そしたら同じ色のものがいい!」


 「確かに! でももっとインパクトが欲しいかも……」


 「うーん……」


 そう話していると紗凪のお母さんがこう言ってきた。

 

 「インパクトね……何か縁起がいいものとかいいんじゃないかな? パワーストーンとかミサンガとか。」


 すると紗凪が嬉しそうに反応する。

 

 「ミサンガ……! いいね! 一度つけてみたいって思っていたの!」


 そんな会話をしていると店員さんが私たちに話しかけてくる。


 「ミサンガを探しているのですか? でしたらお二人にお似合いのミサンガがありますよ」


 そう言って見せてきたのは黄緑色のミサンガだった。


 「黄緑色は友情、優しさなどの意味があって、このミサンガを自分の利き足の足首につけることで友情の証になるんですよ。仮にこの先、二人が遠く離れていても繋がり合えるような、そんな素敵なアイテムになると思いますよ——」


 それを聞いた私たちは、それぞれのお母さんに必死におねだりをして買ってもらった。買ってもらったあとはすぐにお互いの利き足の足首につけ、そのまま海で遊び、あの事故が起こった。

 その時は特に意味がわからなかったけど、何かすごいものだということは伝わって来ていた。今思うとその意味がひしひしと伝わってくる。紗凪の「どこかで必ず繋がっている」という言葉も通ずるところがある。今まさに繋がり合えたのはこのミサンガが繋いでくれたと考えると不思議ではない。いくら言い伝えとはいえ意味はあっているのだから。でもこれは紗凪が意図して組んだのかは今は分からない。たとえそうだとしても今気付いただなんて言えない。今は様子を見つつ、海の中を楽しもうと思った。

 

 「見て見て! 魚達が私たちと一緒に泳いでるよ!」

 

 とはしゃぐ紗凪。よくよく見ると魚達がごい群れをなして泳いでいるのがわかる。ウミガメやイルカなども一緒に泳いでる。下を見ているとチンアナゴの集団やウツボが岩の中に隠れているのが見える。珊瑚やイソギンチャクが海の中を色鮮やかにしている。海の世界はなんて神秘で美しいものなのだろう。今まで住んでいたからとはいえ全然目を向けようとしなかったが、自分の近くにこんなにも美しい景色があったんだと心から感動している。何気ない風景ですら色彩豊かに見える。盲点だった部分が非常に多い。そんな発見に気づかせてくれた紗凪には感謝しかない。何から何まで紗凪に救われっぱなしだ。


 「うん、すごいね。海の中って本当にすごいんだね……海の中を案内してくれてありがとう!!」


 私は紗凪にさっきの返答をする。すると紗凪は嬉しそうに、


 「えへへ、そう? 楽しんでくれて何よりだよっ!」


 と気持ち悪いぐらいニヤつきながら反応した。本当に普段おとなしかったあの子がこんなに嬉しそうにしていると思うと、込み上げてくるものがある。紗凪は私を楽しませようとしているのだろうか。だとしたら優しすぎるよ……。そんなことを思いながら海の中を散策した。

 私たちは海を沢山泳いだ後、灯台のある崖の麓ら辺についていた。私たちは一旦海から出て岩場に上がった。流石に遅い時間だし、そろそろはっきりさせないとと思った私は紗凪に質問することにした。

 

 「あー、楽しかったねー! 海羽の笑顔も見れて大満足だよ」


 「そうだね、私、すごい楽しかった。本当に今日は付き合ってくれてありがとう。最後に一個聞きたいことがあるんだけどいい?」


 「いいけど……どうしたん?」


 これを伝えるかは戸惑ったが、私はここで意を決して疑問に思っていたことを伝える。


 「なぎさっていうのは嘘でしょ?本当は紗凪、あなただよね……?」


 「…………?! ……何でそう思ったの……?」


 私はさっき推測した経緯などを紗凪に説明する。


 「まず、いきなり寝ている時に紗凪の声が聞こえたの。普段、夢とかにも出てこなかったし、紗凪の声が聞こえるみたいなことも一切なかった。でも、今日の朝急に聞こえてきた。この時点でかなりおかしいの。そして、『探して』って紗凪が言った後、無意識にここに来ていた。自分の勘だけではこんなところには来ない。だってこの海岸の景色を見ると七年前のことをフラッシュバックしてしまうから。だから私は避けていた。なのにここに辿り着いた。冷静に考えておかしいよ」


 「———でもそれだけだと私が紗凪だってことにはならないよね?」


 「そう、まだなぎさが最初来た時は紗凪に似ているなぐらいにしか思わなかった。性格とかもそうだけど、一緒にいる時に感じる気持ちだったり空気感も似ていた。だけど紗凪は亡くなっているし、紗凪はそもそもマーメイドではない。だから結局紗凪に会えないのかと途中までは思っていた。でも、一緒に泳いでいるときに見えたんだ。足首にはなかったけど鱗に変わった時についていたミサンガに。そりゃ途中までは足が生えていた状態で陸に上がっていた時についていなかったから確証はなかった。けれども鱗に変わった時に付けてた。ここで確証に変わったんだ。このミサンガを買うときに店員さんが言っていた言葉、今でも覚えているんだ。——『この先、私たちが遠く離れていても繋がり合えるような、そんな素敵なアイテムだ』っていう言葉。あの頃は小さかったしあんまり覚えていなかったけど、泳いでいる時に思い出したんだ。何でこうして再開できてのかって思った時にこのミサンガが私たちを繋げてくれたからじゃないのかなって思ったんだ。『どこかで必ず繋がっている』って紗凪が言ってたのもその言葉を覚えていたからだと思うの。だからあなたは紗凪だと思う。違っていたらごめん…………」


 不安になりながらも聞いてみる。これで間違っていたら本当に申し訳ない。するとなぎさは真剣な表情から笑顔になった。


 「ううん、違くない。私は紗凪だよ。よく気付いてくれたね。嬉しいよ。実は気づいてくれるか不安だったんだからねっ!!」


 「そっか……紗凪か………やっぱりあなたは紗凪なのね………。会えたら伝えようと思っていたの、自分の軽率な言動のせいで事故に遭い、命を奪うような真似をしてしまってごめんなさい……。本当に………本当にごめんなさい…………」


 枯れていた涙が今日初めて潤った。今までにないぐらい号泣しながら謝った。


 「いいの、あの時すごく楽しかったから。それに、無理して泳いでなかったら事故には遭ってなかった。だから自己責任よ。さっきも言ったでしょ、海羽が負い目を感じることはないって。私は大丈夫。むしろこんなになるまで私のことを想ってくれてありがとう」


 この言葉を言われた時にもやもやしていた感情がスッと消えた。今まで、自分は紗凪に恨まれていると思っていた。それで負い目を感じて、生きる資格なんてどこにもないと思っていた。紗凪が私に対して恨んでいないっていうのも勿論嬉しかったが、この十年間のことを否定しなかったのが何より嬉しかった。 


「——でも何でマーメイドになってここに来たの?」


 素朴な疑問だった。亡くなっていたらそもそもこの世に存在していること自体おかしいし、会うとしてもわざわざ別の人間として会う必要があったのか、と。


 「理由はね、そうじゃないと会えなかったからだよ。本来私は成仏されてないといけない。でも未練が残っていたせいか魂が浄化されずにこの海岸にいた。だからこの海岸が遊泳禁止になったことや海羽が負い目を感じて無理して生きていることまで全部見てきた。最初は成仏されなきゃダメだよなと思いつつ、同時にこのまま海羽のこと見守りたいって思うようにもなってきた。結局、私は海羽を見守ることにしたんだけど……でも海羽の今の様子を見ていたら、このままだと海羽がいつか自分で命を絶つかもしれないとも思ったの。だから海羽にもう一度会って、七年前みたいに素直で明るい海羽になってもらえるように促そうって考えたの」


 「——そうだったんだ…………」


 知らなかった。紗凪が私のことを憎んでいたのではなく、こんなにも私のことを想ってくれたこと。——もう、本当に優しすぎるよ。


 「それでね、最初は紗凪として会うのもありかなって思ったけど、流石に混乱するかなって思ったし、人間として現れちゃいけないっていう謎の決まりもあったみたいで…………だから、マーメイドとしてなら会いに行けるかなって思ったの。バレたくなかったとかじゃなくてむしろ気づいてほしかった。だから海羽に『紗凪だよね?』って言われた時は嬉しかったんだよ」

 

 紗凪は涙を流しながらそう説明した。そして、私たちは涙を流しながら互いに抱きしめあった。今までにないぐらいに温もりを感じながら。結構な時間抱きしめあった後、あっという間に別れの時間が来た。


 「もう私はこの後成仏しようかなって思っている。けど心のどこかでは繋がっているから大丈夫。私が生きれない分、海羽には人生を楽しんで欲しい。海羽の想いは十分すぎるほど受け取った。もう十分すぎるほど反省してると思うし、これからは楽しんで欲しいな。素直で明るい海羽でいてほしいな。この先、海羽が色んなことを経験して、そして海羽が歳をとって亡くなってこっちに来た時に沢山のお土産話を持ってきてくれることを楽しみに待っている。だからまたいつか会おうね」


 「うん、約束する。紗凪の為にも、自分の為にも私に人生謳歌してみせる。紗凪に『もういいよー、まだあるのー?』って言わせるぐらい沢山お土産話持っていくね。だから覚悟して待ってて!」


 「わかった。沢山話聞く準備しておくよ。元気でね」


 「うん、そっちも元気でね」


 「バイバイ」


 「バイバイ…………」


 —私がそう言うと、私は最初に来ていた砂浜の砂上にたっていた……。

どうも、サイダーバグです。ここまでいかがだったでしょうか。

いよいよ、Seaside Memoryはエピローグに入ります。二人が再開したと思ったのは束の間、突然別れてしまいました。その後海羽はどう感じるのか、彼女の今後を見届けてあげてください。

それと同時に、MVがいよいよ解禁することが改めて決定しました。それに伴い、この話の公開と同時のタイミングでティザー映像がSNS及び動画投稿サイトにて僕のアカウントから投稿しました。よかったらMVの雰囲気や、この話に登場する二人の姿を見てみてください。

MVの公開、及びこの小説のプロローグの公開は7月27日18時より公開予定です。よろしくお願いします!!

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