絵描き物語
日曜日の午前10時、私は町のコミュニティーセンターにある6室のなかの1室に入る。
ここが建設されたのは約30年程前で、白の外壁は黒ずんだ汚れが目立ち、
日当たりも悪いためか建物内は電気をつけても薄暗く、夜は近くに街灯があるもまるで廃墟の様相だ。
私はそんなこの建物の1室で一ヵ月ほど前から、毎週日曜日の午前10時から行われている絵画教室に通っている。
授業の内容は一つの対象物を8人の受講生で囲み、それぞれが描いていく。いや、描いていた。
当初8人いた受講生は今は4人となっている。
授業初日にお互いの自己紹介があったが、それ以降はそれぞれのペンを動かす音しかせず、
終了時間になれば特に何も話すことなく、お互いの帰路についた。
次の週には受講生は7人になっていたが、皆特に何も気にせず絵を描いていたし、
講師も何も言わなかった。
それから更に次の週、受講生は6人となり、次の週は5人といった具合だ。
これまで通り、残った受講生も講師も誰も何も言わなかった。勿論私も。
毎週日曜日の午前10時にこの場所まで来て、目の前の対象物を描く。それ以外は必要ではなかった。
6月の第1週目の日曜日。朝方から雨が降り続けていた。
これまでと同じように1人減った受講生は、私を含めた4人となったが皆、黙々とペンを動かし対象物を描いていた。
講師は受講生の絵を見ながら、時折アドバイスを伝える。
私もアドバイスを受けながら、絵が完成に向かい、そして確かに上達しているのが嬉しかった。
私は雨の音に負けない様にペンを動かし音を奏でる。
シュッシュッシュッ。心地よい音が教室に響く。
今週の授業が終わり、4人が帰路に着く。
6月の第2週目の日曜日。梅雨による湿気がまとわりつく不快感があるも、
教室は除湿されており心地良い室温であった。
私達4人は対象物を囲み絵を描く。
シュッシュッシュッ。雨に負けない心地よいペンの音が教室に響き渡る。
ダメよ、こんなの絶対ダメ・・・どうして。確かに聞こえた講師の呟きも気にせず、
私達4人は黙々と対象物を描き続けた。シュッシュッシュッ。
時間となり、私達4人は帰路に着く。
6月の第3週目の日曜日。梅雨が明け晴天となり、エアコンが心地よく効いた教室で対象物を掻く。
シュッシュッシュッ。
これまで同じように、私達4人は心地良い音を奏でる。
講師は来なかったから、アドバイスは貰いようもなかったが、絵はほぼ完成している。
おそらく来週、もしくは再来週には完成するだろう。
他の人達はどうだろうか、もしかしたら今日完成する人もいるかもしれないし、
まだまだ日にちが必要な人もいるかもしれない。
この絵が完成したらどうしよう、どこかに飾ろうか、誰かに見てもらおうか、
それともすぐにでも捨ててしまおうか。
そんな事を考えながらふと窓から外を見ると、大きな入道雲が見えた。
確か来月のいつか、地域の花火大会があることを思い出す。
毎年ベランダから見ている華麗な花火を思い出す。