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北里の初恋
北里の恋③
彼の郷里は因習深い田舎町。小学校、中学校はほぼ同じ顔ぶれで、学校では見馴れた顔が殆どその儘繰り上がる。小学5年のある日、北里少年の日常を破る出来事が突然訪れた。女子の転校生である。髪の丈は肩に掛かるか掛からないぐらいで、小さく束ねた髪を両頬に垂らしていた。彼の心はこの髪型に惹かれ、髪で囲まれた目、鼻、口が強烈に刻まれた。
学校からの帰り道、転校生は彼の前を、意外にも同じ方向に歩いて行く。後をつけているように思われるのも嫌だったので、足速に追い抜いた。少し距離が空いた頃を見計らい振り返ると、まだ後を着いてきていた。
彼女の家は隣り村に有り、実家に引き取られて来た、と母の話で直ぐに分かった。
「あの家には近づかないでね。」
温厚な母にしては少し棘の有る言葉に違和感を覚えたが、理由も分からないまま月日が過ぎた。