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北里の初恋
北里の初恋②
北里は女性客を乗せ、西新宿から高速に乗り霞ケ関で降りた。高速は渋滞する事もなく、15分で着いた。
「早く着いてくれてありがとうございます。」
女性は北里のドライバーの心を捕らえた。何故かと云うと、大抵のお客、特に急ぎの女性は、早く着いて当たり前と云う態度で、彼女のように感謝の言葉を口に出すことは珍しい。少しでも到着が遅れようものなら、酷い剣幕で怒り出す。だから急ぎのお客とは到着の時間は約束しないようにしている。その度に北里は仕事を通じて女性に苦手意識を感じ、自分を守るため、壁を作るようになっていた。
しかし、この日から北里の心は久々に晴々として、彼女が初恋の相手の様に心に住み着いた。70歳にして再び訪れた春であった。
北里が初めて恋したのは小学校5年生の11歳の時で、その恋は余りに初心で幼いものだった。