祈り 終わりの場所
朝八時にチェックアウトし、雨乞いの滝へ向かうと、宿からはかなり近く二十分ほどで書いた。
駐車場には車がなく、朝日に照らされた木々が揺れていた。駐車場からは舗装されていない山道が続いていた。道の横には細い川がサラサラと流れて、ひんやりとした空気をより冷たくしていた。しばらく歩くと時折川の中の岩がエメラルドグリーンに輝いている所があった。滝までの道のりの半分ほど進んだ所に分かれ道があった。
より険しそうな道を指しながら「こっちに行こう」と彼女が言い出した。明らかに滝とは違う方角だったが、ハジメが止めるより早く進んで行ってしまった。
しばらく山道を進んでいくと、目の前が開けて焚き火と建物が見えた。いつの間に古代に入っていたのだろうか。しかし昨日の様な大勢の人々の姿は見えない。
昨日会った人々と同じような格好をした数人の男女が焚き火の前にいるだけだった。そのうちの一人の男がこちらに近づいてきて「ご苦労でございます」と頭を下げる。
どうやら届け先はここで合っているらしい。箱を渡すと別の男性が近寄ってきて、ついてくるようにと言うようなジェスチャーをした。ある建物に案内され、言われたとおりに座っていると火の前にいた女性がやってきた。
「ここまでご苦労でございました」
川の中のと同じ色をした石を二人に一つづつ差し出された。ここまでと違う言葉に気付いた彼女がその女性に質問を投げかけた。
「私たちの役割はここで終わりという事ですか?」
「神からのお告げがあって今日で二十日、あなたたちがここに来られたという事は明日は雨が降るはずです。わたくしにはそれ以上の事は分かりません。あなたたちこそ、神の使者であれば、この先の事を教えてはくれませんか?」
女性は少しだけ困ったような、微笑みを彼女に向けている。僕の事は全く気にもされてない。周りの様子を見てると、どうやら女性が大事にされている様だ。そんな時代なんてあったかな。
「私たちは、ただの旅人です。神などではありません。ただあなたより二千年ほど先から来たのだと思います。あなたが知りたいような先の事は教えられませんが、二千年先の事ならお伝えできます」
この謎の事態にも怯むことなく、おそらく位が高いであろう女性と対等に話をしているのにしている彼女の姿に、僕は心底感心した。そしてこの女性を見て二千年前の人だと気が付いた事にも感心していた。
「二千年先?それはこの国がこの飢えから救われて、続いているという事ですか?」
「ええ、二千年の間に人々はいくつもの苦しみを迎えますが、乗り越えて私たちの暮らす時代には飢えに苦しむ人はこの国にはわずかになります。今、この国は飢饉なのですか?」
「最後に雨が降ってから六十日が経ちました。最後に雨が降ってから、二十日目から祈りましたが三十日目には植物たちが枯れ、土地が割れました。祈り始めて二十日目に『使者が来る。その翌日に雨が降る』とお告げを聞いたのです。」
「神の使者ではありませんが、私も雨が降ることを祈ります。 それと、川から溝を掘って物を育てる土地に水を入れる方法ならお伝えできます。表にでれますか?」
建物から出ると彼女は木の枝を拾って何やら絵を描き始めた。そうしてこの女性に用水路の作り方を説明していった。川から遠いところには大きな穴を掘ってため池にする事も教えたが、川が沢山ある土地なのでため池は必要ないと答えられていた。