表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第14話「それでも抱きしめたいんだ」

 僕は何を見ていたのだろうか。來花は自問した。今、目の前にいる鵞堂木更とは誰だ。助けられることが侮辱と思っていても、助けてほしいと願ってしまい、自分で自分を否定する矛盾に打ちのめされた、『本当に助けられるべき人間』なのではないか?


「ドアは、分厚いようで薄い。この先に木更がいるとわかっているから、ドアという物理的な障害があっても、感覚は変わらない。だから、目の前にいるのと変わらない。このまま話を続けよう」

「別にいいさ」

「木更。僕は口が上手いほうじゃないのはわかってると思うが」

「そうだな」

「即答されると、それはそれでなんか嫌だな」


 複雑な気分だ。


「お前がいない生活は寂しいもんだ」

「二葉のついでに、だろ」

「そんなことはない。なんでそんな酷いことを言う。木更は二葉にはなれないし、その逆も然り。木更のロボットを二葉は作れない、作る気もない」

「じゃーー俺の好きなところ十は言って」

「十!? 多いな!」

「ないなら引きこもる。誰にも愛されないからもう二度と外に出ない」

「ぐぎぎ……」


 來花は記憶を絞った。


「可愛い」

「カッコいい」

「貧乳」

「背が高い」

「うるさい」

「怖がり」

「デカイロボット作ってる」

「豪邸」

「ステーキ遠慮した」

「軽トラ運転できる」


 來花は思った。酷いな、と。いくつか悪口みたいなのが混じっている。絶対に、木更が聞きたいものではないだろう、そのはずだった。だが、


「しゃーないな」


 ドアノブが回る。開けられた隙間から、ぬるりと人影が出てきた。少し汗とか体臭が気になる木更、彼女だ。


「お前から好きを取りあげちゃ、可哀想だからな」


 ふんす、と鼻を鳴らす木更はーーずっと大きく見えた。來花は手を伸ばすべきか悩んだ。しかし、


「ほら、行くぞ! お前が連れ出してくれるんだろう?」


 木更に手を握られ、(最後まで締まらなかったな)と思いながら引かれた。


「あっ!」と木更は、意地の悪そうな笑みで、何かに気づいちゃった! と言わんばかりに振り向いた。來花が心の首を傾げていると、


「來花は、俺のこと好きなんだよな?」


 やはり意味がわからなかった。來花が手助けしたいなんて、好き以外の理由はないのだ。だから、わざわざ頭に傷を負い、木更の家まで足を運ぶのは間違いなく好きの部類だからである。


「か〜!!」


 木更は突然、地団駄を踏み始めた。心なしか顔はーーいや真っ赤で、平常を取り繕うのが見てとれる。モロ顔にでていた。


「モテモテだな俺様ってば! モテるって辛いなぁ。あっ、來花ちょっと待っててくれ」


 木更は部屋に駆け足で戻ると、ケータイを持ち出してきた。そして、來花と肩を組むと、ケータイの自撮りモードで、


「ハイ、チーズ!」


ーーパシャり!


 写真を撮ったようだ。


「見て! 見て!」


 ……。


 ケータイに撮った写真を見せる木更は、にしし、と笑っていた。心を奪うそんな笑いかただった。「……」來花は自然と、悪餓鬼みたいな笑いで唇を広げる彼女に、なんでも許してしまいそうな愛嬌を感じた。


 だから、少し意地悪になってしまう。


「ブッサイクだな、木更」

「ぶ、ブサイクだって!? それが仮にも好きな相手に向かって言うことかぁ!」

「言う、言う。男の子は照れ屋なんだ。大好きな相手にはそれはもうボロクソ言うからな」

「ほう〜、じゃ、言ってみろ」

「そばかす女」

 

 木更は初弾轟沈ノックアウトした。


「そばかす女はないだろ、そばかす女」

「ごめん、そんなに気にしてるとは思わなかった、ほんとごめん」

「謝れると逆に傷つくっての、本当にあるんだな……」

「僕は好きだよ、そばかすあっても」

「あっても!? 無いほうがいいんじゃん!」

「それは、まあ……」

「まあ!?」

「ほら〜、そういうところだよ、声が大きくて嫌われるのは」

「嫌われるまでは言ってなかったのに。……え? この声嫌われてたの?」

「うるさい、て、木更と話した人間の160%が思ってる」

「60%なんだよ」

「60%は、十人に六人は好意的に解釈するけど、やっぱり受けつけられない数字」

「たっかい数字だ……」


「じゃあ!」と木更は訊いてきた。


「お前はーー?」


 來花は答える。そんなのは……決まっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ