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プロローグ

はじまりはじまりー ;)

 鞍馬大和(くらま やまと)は窓際の席から外を眺めていた。


 落ちかけた陽を薄雲が隠し、鮮やかな色を灯す。ぼんやりとした柔らかなひかりが街全体を包み込む。


 眼前に広がる校庭には部活中の生徒が見え、決して爽やかと言えない叫び声が聞こえている。

 彼は身体の中に籠っている熱を逃がすように大きくため息を吐いたあと、眼下に蠢く生徒たちから目を逸らした。


 大和はタオルで汗をぬぐい、心の中で手を合わせる。

 ただ座っているだけでもこんな有様なのだ。況や運動している彼らには合掌を捧げて然るべき。


 ご愁傷さま。なむなむ。


 カーテンを揺らがせている風は生暖かく湿っていて、肌をなでるだけで鬱陶しい。

 ワイシャツは汗で濡れていた。肌に張り付く。大和は顔をしかめながら団扇を手に取った。


 やはり着替えを持ってくるべきだった。タオルは既に湿り、これももう一枚持ってくるべきだったと後悔した。


 窓からは陽が差し、教室の壁に影をつくる。


 暑い。

 熱い。


 黄昏時は感情を昂らせる。


 夜が昼を殺す時間。殺す、とはなかなか物騒だから、役者が交代する時間と言い直そう。光は舞台を去り、闇が舞台に上る。


 諸行無常が響き渡り、盛者必衰を現す時間帯。


 彼はひとり考える。僕は盛者か、否かと。

 

 仮に、盛者だとしよう。


「大和さん、こいつ、どうしましょうか?」


 そうであれば、いつかは滅ぶのだ。


「ああ、とりあえず――」


 いつか、とはいつか? 当人が死ぬ前か、死んだ後か。


「――手足縛って、第三倉庫に投げておけ」


 彼は死ぬまで盛者で在り続ける。盛者でなくなるときは死ぬとき、そのときだけだ。


 空にかろうじて浮かんでいた太陽は完全に地に落ちた。西の空は暗く霞みはじめる。闇が舞台に足をかけた。


 夜が始まる。


続く

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