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5.王国到着


「ここがリーゼル王国かー!」


ウォード一家は王国へと到着する。

事前の手回しにより国境の入国審査もすんなりと通ることが出来た。そして今いるのはリゼル王国の王都ヴィクオリアである。


その町並みは帝国と変わるところは少ないが、街に住む人々はみんなのびのびと暮らしているように見える。


そう、王国は帝国とは異なった政策をとっている。


帝国は絶対的な魔法陣のランク分けによる階級制度で、魔法陣を受け取った瞬間にその人のその後の人生が決まってしまう。それゆえに優性の魔法陣さえ得られれば一生生活に困ることはないのと反対に、劣性の魔法陣を授かってしまえばそれは奴隷紋さながらの意味を持ちその運命から逃れる方法はない。

第六陣は何をしても許される存在であるというふうになっていることより強くそのことが伺えるだろう。


では王国ではどうだろうか?


王国でもやはり『第一陣』や『第二陣』がくらいの上位についたり、騎士の中にも多数いるのは変わらない。

だがひとつ違うところがある。

その人に能力さえあれば『第三陣』や『第四陣』、はたまた『第五陣』であっても取り立ててくれるという制度が存在する。

たとえ、自分がハズレ魔法陣を得てしまったとしても自分の努力や、スキルを極めることにより成り上がることは可能なのである。

ただ、『第六陣』に対する扱いはひどいものであることには変わりがない。


帝国の魔法陣絶対主義に対する王国の実力至上主義ではあるものの、どちらにしろスキルのみしか発動できないようなヤワすぎる『第六陣』はどちらの国家でも不要とされてしまうのだ。


ただ、王国では『第六陣』がいくら雑魚であろうと殺すことの許可はないし、一市民として扱うようにはされている。

それが建前上のものであってもだ。


という訳でエリアスたちは王都ヴィクオリアにつくや否や王城へと招かれようとしていた。


馬車で移動し、城へと案内され今は謁見の間へと通され国王の前で頭をたれている状態だ。


「帝国からはるばるよく王国へと来てくれた。感謝しよう」



「「はっ、ありがたきお言葉」」


「面をあげよ。そなたたちは帝国から王国へと主を変えるということであっておるか?」


「はい、そうであります」


待合室などに連れて行かれたりする余裕もなしにいきなり謁見の間へと連れていかれ、突如として国王への謁見が始まったのだ。


「前々から約束していたこととはいえ、今回そなたたちを動かした最も大きな要因を聞いても良いか?」


サリアとマークレンは元々帝国が好きではなかった。

彼らは両者ともに田舎の村出身であった。

小さな村ながらも仲間が沢山いて、暖かく見守ってくれる両親や近所の人々がいた。

それなのに。

『第一陣』が、『第二陣』が出現したというそれだけで自分の故郷を去ることを余儀なくされた。


そうして帝都に連れていかれてからはとにかく苦痛だった。

田舎から来た仲間は少なく、だいたいの『第一陣』や『第二陣』

を持つものはその陣を持っているだけで強者になったと錯覚し、鍛錬を怠り、権力を傘に着てろくなことをしなかった。


それゆえに誰よりも真面目にダンジョン攻略をしていたサリアとマークレンが最高階層到達者になるのは必然のことであったのだが、


「そんなところで満足してもらっては困るな。余のためにもっと働くのだ」


報奨を与えると呼び出されて城へ行ってみれば、告げられた言葉はこれであった。


その時に二人は決意したのだ。

もう帝国のために働くことは無いと。

彼らのパーティのものも同意見であった。


そしてそれからすぐにサリアが身ごもると同時に結婚と子育てをするという名目のもとで、田舎の村へと戻ってきたのである。


残りの当時のパーティーメンバーは帝国に置き去りにしてきてしまったが、この国に移ってくるのも時間の問題だろう。


なにせ彼らが王国と交渉していたのはダンジョンの中。

地上では出会うはずのない二つの国の者達ではあるがダンジョンの中では誰にも邪魔されずに合法的に会うことが出来る。かれこれ10年近く王国への国替えを考え、相談しながらタイミングを見計らっていたのであった。


「前にも申し伝えましたように、私達はもう帝国に仕えるためのナニカが残っていないのです。都合のいい存在でいることに疲れたというのが本音でございます。ですがそれが今回の決意のすべてではありません」


「なんであると?」


今までのサリアとマークレンの行動からするとなんの準備もできていないような段階、予定ではあと1年ほどした頃に合法的に抜けてくるはずであった。(合法的とは言っても血が流れないとは言ってない)


今までの努力を無に返しえない行動、つまり今の段階で王国へ来たことに国王は少し戸惑いと不信感を感じざるを得なかった。それゆえに表情も少し険しいものとなる。


「私の隣にいる息子にございます。たいへん申し上げにくいのですが私の息子は『第六陣』もちかつ『混魔(ミクス)』であります」


その場にいるもの全員が息を呑む音がした。


歴史上、第六陣と混魔が同時に人に宿ったことは未だかつてなかった。それは周りから言わせれば究極の役立たずと言えようか。それはもはや迫害という概念を忘れてただただ哀れんでしまいたくなるような現実なのだ。


「それゆえに命を狙われました。息子だけでなく私たちまで。これ以上どうしてあの国にいることが出来ましょうか。もし、息子のことを受け入れられないと仰るなら私たちはこの国も出ていく所存です。どうか寛容な判断をお願い致します」


「構わん」


リーゼル王国国王は即答する。

彼のつけるポーカーフェイスという名の仮面の下では彼の顔は引き攣っている。

それでもここは利益と損益を考えた上で、第六陣という多少の損益がこの国に来たところで莫大な利益──すなわちサリアとマークレン──の獲得ということとは、比べ物にならないほど極めて小さなことであるという結果を頭の中の算盤ではじき出した。


少しでも迷ったそぶりでも見せれば不信感を持たれてしまうという懸念を避けるための即答という頭の周りの早さも見せる。


「オーランド・リュー・リーゼルの名において告げる。今をもってそなたらをリーゼル王国民として迎えよう」


そうしてウォード家の2人は帝国籍から王国籍へとなった。



そして、彼らは王国兵の住む宿舎で世話になることが決まった。

サリアとマークレンはこの国の騎士団への指導の人につくことが決定したのであった。

もちろん王国兵が住まうのは城内にある訓練場近くであり、有事の際には国王やその近臣の人々を守るための盾となり、脅威を退けるための剣となるためである。


サリアとマークレンはここで気にしなかったがエリアスだけは思った。いくらかなり昔から準備していたことであったとしてもこの国の人々が突然他国の住人であった自分たちを城の敷地内でまで受け入れるのは流石に怪しいのではないかと。


エリアスは家で大人しく本を読んだり、庭園あたりを散歩したり、少し陣がなくてもできるような、いつか陣が効力を発揮する日を夢見て鍛錬を続けた。











「今回の話は儲けものでしたな陛下」


サリアとマークレンが去った謁見の間で国の重鎮の1人が国王へと言葉を投げかける。


「うむ、だがあの二人の子がまさか『第六陣』もちではあるとは思わなんだな」


「最強を冠するおふたりを迎え入れられたことは大きかったですがあの子供はどうしましょうか。しばらくしたら行方不明なんてシナリオはどうでしょうか?流石にあのお2人でも真実が闇の中のことは何も言えないでしょうし」


「そうだな。『第六陣』は建前上平等ということになっておるが、本当は城内に存在されるだけで鳥肌モノなのだからな。『堕天使の隠れ家(アインザーム)』とは上手く言ったものよ」


軽口を叩きながらそこにどれだけの本気が混じっていることだろうか。


「将軍を呼んできてくれぬか?」


「はっ、ただいま」


国王は何を思ったか将軍をその場へと呼びつけた。


この国の軍事の頂点に立つ将軍──アレン──がやって来る


服の上からわかるほどの筋骨隆々な人物ではない。

筋肉は盛り上げるものなのではなく、圧縮してその筋繊維で編み物をしてどこまでも強度をあげていく。そんな鍛え方をしているような軍人がやって来る。


「よくやってきたなアレンよ」


「はっ。国王様の命であればいつでもこのアレン参ります」


アレンの忠誠に満足気な顔をしながら国王はアレンに問う。


「サリア殿とマークレン殿の様子をそなたは見たか?」


「今回は遠目にではありますが確かに目にしました。ダンジョン内であれば何度も間近でお会いしたこともございます」


国王は少し真剣な表情をし、そしてひとつ大きなため息をつく。

その様子にアレンも王が何を行おうとしているかの予測もつかず、その身をこわばらせていた。


そして王は息を吐き出して言う。


「もしだ。もしもサリア殿とマークレン殿と敵対した場合にそなたに勝ち目はあるか?アレンよ」


アレンはその言葉を聞き目を大きく見開く。


アレンは王国に忠誠を誓っている。

だが、アレンの目標としているのはサリアとマークレンの2人であった。


正直言って話にならない。


これが王からの問に対するアレンの答えであった。

気持ち的に最初から負けていることはアレンも認めている。

しかしそれ以上に向こうはケタが違う。


ただ立っているだけの彼らであってもヤれる想像なんて少しもできないのだ。


そんな考え込んでいるのと、まゆを潜めて苦々しげな顔をしているアレンの様子を見て国王は多くのことを悟った。

そして質問を変えた。


「では質問を変えようではないかアレン。我が国の戦力の半分ほど(・・・・・・・)をつぎ込んだ場合はどうなるか答えてくれぬか」


アレンは今回の言葉には目を見開くだけでは飽き足らず、不敬とされる行動、国王の目を見たまま数秒間固まってしまった。


しばらくして正気に戻るアレンは王への詫びを言い、自らの意見を述べる。


「軍を出動させるのであれば必ずや勝利できると愚考します」


その言葉で国王の口元が怪しげに三日月の形に歪んだのに気づいた者はいなかった。


「ではご苦労であったぞアレン。持ち場に戻ってくれたまえ」


「はっ」


そうして部屋の扉の向こうへとアレンの影は消えていく。


そしてその間には少し離れていたところに待機する兵を除けば国王一人となった。


そこで彼は小さな声でつぶやく

それは誰にも聞こえなかった。

誰にも聞こえてはいけない言葉だった。


「エリアスといった小僧はあと2ヶ月と言ったところかな。

堕天使の隠れ家(アインザーム)』は速やかに排除しなくてはな」







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