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18.パントリー


「ねえ、エリアス。こんなにも、果物がたくさん!」


植物・食物の楽園に近づいていって興奮冷めやらぬアイリス。


そしてはてなを頭の上に浮かべる。


「そういえば、どうして、果物がブラックボックスに、無かったの?」


当然の質問であった。

ここまでのダンジョン探索で1度もみずみずしい果実たちを食べた記憶がなかったからだ。

目の前にはこんなにもたくさんの実一つ一つが強い主張をしているのに。


「えっとね。ボクは果物食べたことあるんだよ。でもね、ブラックバックに詰める時にはなるべく嵩張らずに腹持ちのいいものを選んでたから必然的に選択肢からは削られていたんだ。それに果物はすぐ傷んじゃうからね」


ブラックバックがいくら優秀だといっても欠点はある。

どれだけ食料が詰め込めたところで、腐ってしまえばただのゴミである。時間停止能力なんていう便利なものは付いているはずもないのだ。


それどころか魔物を呼び寄せるという非常によろしく無い事態も引き起こしかねない。


容量は大きくなってもあくまでカバン。

中身の匂いなどはどうしても周囲に漏れ出たりもするのだ。


「そう、なんだ」


話を聞いているもののアイリスの目線は一点に固定されたまま。涎を垂らしそうになりながらダンジョンの果実たちを見つめる。


「食べたら?」


「いいの?」


「止めても食べそうだもん」


シャリシャリ


「ん〜〜!おいしい!」


早速身近にあった赤い果実に手を出す。

名前はリプル。

表層の赤さとはうって変わって、蜜を吸って白から黄色へと変わっていく途中のような色合いの身の部分がとても食欲をそそるのだ。


ダンジョンに来てから1番嬉しそうな顔をするアイリス。


その表情に癒されながらエリアスも一つリプルを食べる。


「今回からは果物も収穫していくかな」


そんなことをつぶやくエリアスとそれをキラキラした目で見つめるアイリス。


2人はとても有意義で楽しい時間を過ごしていた。


だからだろうか。


少しだけ注意力と警戒心が薄れてしまった。



果物を食べ終えたエリアスとアイリスはこれからの食料を集め出す。

料理はアイリスが作るようになっていたのでアイリスが食材の選択をする。


「これとこれと、これ、かな?」


キャロン、ポテモ、キャレスなどを次々とバックの中に放っていく。


それに習ってエリアスも同じものを入れていく。


肉は食べないのかという質問に対して答えるならば答えはオークだ。オークは倒される時に魔石と一緒にオーク肉をドロップするのだ。

あの醜い魔物から納得のできない美味しさの肉が現れるのは不思議だが、貴重な肉源であるためオークはできるだけ倒しながら進んでいる。


その時、エリアスの背後で何かが反応する。


「アイリス、こっちに来て」


「えっ?」


きょとんとして反応出来ないアイリスをエリアスは問答無用で引き寄せ抱き寄せ茂みの中に隠れた。


「エ、エリアス、その、近い、よ?」


いつもより近いエリアスとの距離にいろんな意味で戸惑いながら、アイリスは抗議と恥じらいの意を込めて小さな声で抱き寄せられた耳元で囁く。


「ごめん、でも人が多分来てたんだ。」


エリアスもアイリスとの距離感にどぎまぎしながらも最低限伝えるべきことだけは伝える。


「今は動かないでね。その、恥ずかしいけど。動くと多分見つかっちゃうから」


その言葉を言い終えるか終わらないかの時。


奥の方から土を踏みしめる音が聞こえ始めた。


「親方!様子がおかしいっす!」


「何がだ。エジル君」


「そこらの食料がたくさん取られてるっすよ!」


「なんだと?」


雰囲気が一変する親方と呼ばれる者。


「これは…………ひどい」


「ここをどこだか分かってやってんすかね」


「おい、エジル君」


「はいっす」


「セーラ君を読んできたまえ」


了解っす!


そう言いながらエジルは駆けていく。



木陰でその様子を見ているエリアスとアイリスは動けない。

親方と呼ばれる者はその場でセーラ君とやらが来るのを待っていたため変わらない体制を維持しなければならなかった。


エリアスの腕の中で少しアイリスは震えている。


「ねえ、エリアス」


「なぁにアリス?」


「アリス?」


「本名はまずいかと思ってだよ」


2人は小声で話し合う。

この声量ならばひとりでいる男にも気づかれることは無いようだ。


「じゃあ、エリス?」


「それって僕だよね?」


「うん、女装、させなきゃ」


「短くなるならそれでもいいけど女装は勘弁して」


別にエリーという呼び方をここで提唱してもいいのだが、何故かシャロンに申し訳が立たない気がして躊躇った。


「あいつらがいなくなったら行動開始するよ。一回奥の方に逃げてから入口付近に人がいなくなった時に外に向かおう」


「了解、エリス上官?」


つまらない話をしているとアイリスの恐怖心は小さくなっていったのか、体の震えはおさまっていた。



と、そこにエジルがセーラと呼ばれている女性を連れて戻ってくる。


「ご苦労だね。エジル君にセーラ君」


「待たせたっす」


「親方様、何か御用でしょうか?」


適当な感じのエジルとは対照的に、この場に似つかわしくないようなほど気品のある所作を所々に見せる、セーラと呼ばれるものが現れた。


服装を除けばお嬢様と言われても信じてしまいそうな人だ。


「あーすまないねセーラ君。ここでスキルをお願いできるかい。やらないと……わかってるよね?」


「はい。承知しております」


どこか感情のこもっていない、機械的な声色でセーラは喋っている。


「ねえ、エリス。なんかまずい、気がする」


「偶然だね、僕もそう思うんだよ」


セーラは目を瞑る。

そしてスキルを発動して……


「あそこです」


ピンポイントで指を指す。


その指し示す先には


「嫌な予感ほど当たるんだよね」


「ほんとに、嫌になる」


エリアスとアイリスが茂みの中に。



「あの草の中に隠れているかと思われます」


「そうかそうか、良くやってくれたよセーラ君」


「じゃあ行くっす!」



エリアスとアイリスはセーラによって居場所が暴かれてしまったので、


「よし逃げよう」


「逃げるが、勝ち。罪を、犯しても逃げ切れば、無罪」


遠い目をしながら動き出すアイリスと、焦りを隠せないエリアス。


「おやおや、自ら出てきてくれたよう……」


タッタッタッタ


エリアスとアイリスは走り出す。


「追え、エジル君」


「わかったっす」


2人の後をエジルは追って走る。


「いやー、ここの中を見られてしまったなら生きて返すことはできませんね。あなたたちの仲間になりますかね、セーラ君」


「私には関係の無いことです」


「そうかそうか。あの金髪碧眼の女は食べごたえがありそうだし、今夜はいい夜になりそうだ。あ、セーラ君。寂しがらないでくれよ。明日はたっぷりと可愛がってやるからね」


能面のように表情を変えないセーラは無言で親方と呼ばれるものの目の前から去る。


「セーラ君はつれないな」


彼はゆっくりとルームの奥へと進んでいった。






「待つっす。もう少しっす。捕まえるっす。」


エジルがアホ丸出しで追いかけてくる。


エリアスとアイリスの第六陣(ステアーズ)の身体強化は中。


それに対してエジルはダンジョンに潜って、この階層で親方と呼ばれるものの近くにいることから第一陣だと予想される。

つまり身体強化大である。


その差は明らかなものとなって現れる。

逃げる度に2人は後ろからの声が近づいてくるのだ。


「エリス、どうする、の?」


「……よし。アリス、スキルを使って」


「スキル?エリスはどうするの?」


いいからいいからと言ってエリアスはアイリスに使用を促す。


アイリスはスキルを使う。赤黒い憎しみの結晶が現れる。


「どうぞ、まっすぐ走って」


「でも、エリスが……」


「僕ならこうするから。ほら大丈夫でしょ?」


エリアスはアイリスの肩へと手を置く。


首を傾げるアイリスではあったが、エリアスが言うのであればと。


ダッ


比べ物にならない速度が出る。


エジルもその速度には目を見張り、だんだんと差は開いていく。それでもエジルはずっと彼らを追い続けた。


「あーあーーーうぁーーあー」


エリアスはグロッキー。


肩に手を置いて〈収束〉を使ったまでは良かったけれど、〈収束〉されるのは肩に置いた手だけであり身体は鳥のように地面と平行になって飛んで進んでいるのであった。


エリアスの場合はアイリスという翼ではあるがそこは気にしないでほしい。


別にアイリスに密着して〈収束〉を使う手だってなくは無かったけれど、エリアスの選択はこれである。


と、アイリスが急ブレーキをかける。


「ぅぇー、あ、アリス?どうしたの」


「前、進めない。柵がある」


思わず"へっ?"と言ってしまうエリアス。


「待つっす〜」


後ろからはエジルが追ってくる。


「これを見られたからには生きて帰さないっすよ」


エリアスは柵の中へと視線を向ける。


すると……


果物の採取をしている。男女合わせて6、7人が木から果物を採取し、土を掘り返して食料の採取を行っている。


武装は全くしていない。


死んだような目をしながら単純な収穫作業を延々と繰り返している。

だが、どう見ても彼らの手に刻まれているのは『第一陣』か『第二陣』だ。


近接戦闘や、魔法の強化を持つ恵まれた職である彼らがこんなことをするのは異常である。

こんなものは第五陣を奴隷にしてダンジョンに引っ張って来て代わりをさせればいいものだ。


「アリス、ちょっと面倒くさそうなことになりそうだけど、動ける?怖くない?」


アイリスは即座に首を降る。


「エリアスの、近くが、一番安全。それに、憎悪が溢れて、止まらないの。さっきの親方、って呼ばれてる人、からの視線、気持ち悪かった。前のと、同じ種類の、視線」


じゃあ、と


「寄り道してこうかな」


目の前のエジルに向き合った。




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