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16.アイリス覚醒


アイリスの魔法陣から立ち上る緑の光のカーテンが薄れていく頃、アイリスの手の甲に刻まれた魔法陣は戦闘前と形を変えていた。


「これ、エリアス、と、一緒!」


アイリスの頭の中に次いで魔法陣の知識が流れ込む。


「ほんとに、あったんだ、ね!」


喜色を欠片ながらも浮かべエリアスを見つめるアイリス。


「僕は故郷の村では嘘をつかない優しい子で通ってたんだからね。」


「うそ、、、、」


「ひどっ」


おどけたエリアスに対して辛辣な反応をするアイリス。

初戦闘も超えたことで身体的にも精神的にも少しの余裕が生まれていた。


「あっ、私の異能、がわかった、かも」


さらーっと最重要な言葉を垂れ流していくアイリス。


「ふーん、って!早く教えてよ!」


お互いにこれで同じ魔法陣を持ち、互いの言葉を信じられる対等な関係になったと言ってもいい。ただ、アイリスの方は助けられたことへのお返しができていないという負い目は心に内包されているのだが。


「えーっとね、『次元障壁ディメンションストレージ』、だよ」


どうやら防御系のスキルが現れたと見ればいいのかな?

単純に考えるのであればアイリスが前衛を担当して『貯憎』による矛と、今回手に入れた防御系っぽい異能を使用すればかなりの強さを発揮しそうである。


それに加えてエリアスが中衛または後衛から〈収束〉〈放出〉、魔導銃(ソフィア)を利用して攻撃すればここらの階層なら敵なしであることは想像に難くない。


「僕の異能はコストがかかって使いにくいから試しにくかったけどその異能ならここでも使えるかな?」


「たぶん、」


アイリスは少しおっかなびっくりしながらも自分の新たな力を試したくてうずうずしているようだ。それもそのはず、エリアスの力を見たあとでは自分の力への期待が高まるのも当然のことだ。それにこれはアイリスの手にした初めての強くなるための手札なのだから。


言葉で言われるよりも話で聞くよりも何より自分でその目で確かめたい気持ちは抑えられないのだ。


「じゃあやってみよっか」


エリアスは年上のはずのアイリスがおやつを待つ子供のようなそんな表情を浮かべるのに思わず破顔しながらも告げる。


「でもまず魔法からにしてみたら?」


忘れていたがアイリスは魔法陣が効果を発揮し始めたので魔法が使えるはずである。エリアスが使うのは魔法もどきなのであれは違う。というかスキルの一部である。


「そっか、私魔法も、使えるように、なったんだ」


忘れかけていた喜びを噛みしめる度にアイリスは涙を流しそうになる。そして感情の中にどうしても思い出したくもない記憶までも蘇ってくるため少しだけ顔を歪ませる。


アイリスが表情を歪ませているのは一瞬のことではあるがそれをエリアスは見逃さない。

けれど自分にできることなどたかがしれている。


だから、だからと。


ただ黙って抱きしめる。


彼女の最悪を別に知っている訳では無いしわかったつもりになった気もない。だからこそ、それを彼女が乗り越えるまでにどれだけ小さなことであろうと、年下で頼りないかもしれないけれど彼女を守りたいと思ったゆえの行動だった。

男性の恐怖に怯える彼女には悪手であったかもしれないなんて行動を起こしてから少し後悔もする。


「ありがとう、わたしはもう、大丈夫!」


だから心の脆さが見えた時に支えるのが自分の役割。

強がらせすぎないように自分が頼れる男になりたいなんて思ったりしてしまう。


「じゃあ、使ってみる、ね?」


そこには元通りの金髪碧眼の美女が佇んでいた。

どこまでも美しいその姿をもって。


アイリスは魔法など使ったことはないから我流だ。

エリアスに聞いてみても、


「こう、適当に魔力を込めれば出るような出ないような……」


全く頼りにならなかった。


そもそもエリアスの魔法発動の条件設定の部分に関しては〈収束〉で読み取った情報をスキルを使い構築して、魔力を流すことによって〈放出〉されるようにプログラムされたものであると言ってしまった方が簡単かもしれない。


だから自分の想像通りにやることが大切だとお母さんが言っていたというエリアスの言葉を信じてみることにした。


念じる。


全く発動しない。


やっぱり起こしたい場面を想像しなければならないようだ。


今度は街の人たちが使っていたのを見たエアカッター。


エリアスの使ったウインドエッジの下級版の魔法。


幼い頃お母さんが見せてくれたその風の刃を記憶から引っ張り出す。


「エア、カッター」


伸ばしたアイリスの右手から小さなでも確かにそこから風の刃が飛び出していく。


魔法と共鳴するように刻まれた魔法陣が輝いている。しっかりと効力を発揮していた。


「できた、、、、」


確かに使えるとやはりちょっとした感動が生まれる。


「いいなーアイリスは。僕はまだ使えないからさ。」


感傷に浸ってまたよからぬ方向へ考えが進まないようにエリアスはおちゃらけた態度を取り続ける。


「僕は早く異能の方も見たいな?」


「たぶんコツは、つかめた?やって、みる」


エリアスは異能だから何が起こるかわからないので一度離れた位置にスタンバイする。


「じゃあ、いくね?」


そう言ってアイリスが異能を発動した時、それは現れる。

特にエリアスが離れる意味は全くなかった。

けれどもアイリスを隠すようにそこには″異次元″が存在していた。


別に大して広い空間をおおっている訳では無いし綺麗な理由でもなかった。でもそこからエリアスは目を離せなかった。

目を離せないのはそれを発動するアイリスも同様であった。


そこに広がるのはこの世界かもしれないしこの世界ではないかもしれない。だが、自分たちの知らない未知や神秘を感じるものである。

そこに見えるのは簡単に言えばほぼ無であった。


闇。


それしか広がっていない。


人は闇だけが広がっていると返って何かを感じてしまう。

ただ確実に言えることは人の到達できない地点であることはエリアスにもアイリスにもわかった。

そんな異次元の障壁が目の前へと存在していた。


「アイリス、ちょっと検証してみていい?つらくない?」


驚き固まっていた自らの石化をいち早く解いたエリアスは未だにこっちへ戻ってきていなかったアイリスへと話しかける。


「う、うん。発動する、のに何も必要は、なさそう、だよ?」


それなら良かったとばかりに検証を始めようとするエリアス。


「この異能の名前は障壁って入ってるから防御系の異能だと僕は予想してるけどどう思う?」


「私も、そう思う」


もしもの時に備えてしっかりとやることは説明しておく。


「今からそれに向かって魔法もどきを撃ってみてどうなるかを見ようと思うんだけど、もしなにか不具合が生じたら遠慮しないで言ってね」


「うん、」


最初から大きい攻撃は負担が高いはずなのでさっきのアイリスの攻撃から読み取ったエアカッターを使用することにする。


「エアカッター」


エリアスの伸ばした右手部分に魔力が集中し、可視化されるほどの塊となった後に『次元障壁』へと向かって〈放出〉される。


エリアスの魔法陣は光らないし淡い翠の発光は起こらない。

それでもまた違った美しさを纏うエリアスだけにしか使えないであろう魔法は『次元障壁』へとぶち当たる、


と思われた時。


消えた(・・・)


言い直そう。吸い込まれた。


放った魔法があたった瞬間に消えたように見えた。しかし、魔力が霧散したわけではなくそこにはあるように思える。

しかし、こちらからはアクセス出来ない、いや、コントロール下を離れた魔法は自分の乗せたはずの思念のようなものさえもが乗っ取られたどこかへと飛ばされたような感覚を受ける。


少なくともあれは自分のコントロール下の魔法ではない。


驚き、目の前で起こった事実に呆れてしまったエリアスはバカみたいに口を開けたままで目を見開いた状態で固まっていた。その顔が大変なことになっているのはご愛敬だ。


そんなエリアスの顔を見てアイリスは小さな笑を浮かべるとともに、二つの選択肢が頭を駆け巡っていた。


「ねえ、エリアス、?」


「アイリスどうしたの?」


間抜けヅラを一瞬のうちに元の顔に戻してアイリスに向き直って答えるエリアス。

相手が今のアイリスでなければ大爆笑間違いなしであっただろう顔芸の域に達していたことをここに添えて書いておく。


「エリアスの魔法、この異能の、異次元、に、閉じ込められてるらしい、よ?」


「んっ?」


「この異能は、相手の魔法を、異次元の倉庫、に飛ばして、無効化する魔法」


なんだよそれと思うふたり。

エリアスはその驚愕的な防御性能に少し恐れさえ覚える。

そしてアイリスはその続きを知ってさらなる驚愕を。


「まだ、続きはある、」


エリアスは身構える。


「この、異能は異次元の、倉庫に入った魔法を、私のコントロールに置く、ことが出来る。または、この異能のコストとして、魔力に変換して、使うことが、出来る」


ちょっと待とうか。そう思うエリアス。


エリアスの『等価交換』も有り得ないくらいの性能を誇っている。けれども、この異能は出来ることが多い。多すぎる気がする。

そこで一個重大な見落としに思い当たるエリアス。


「ねぇ、ちょっと殴ってみていい?」


「私も、やってほしい」


エリアスは次元障壁へと向かい殴る。

魔法が異次元へと飛ばされたのだから自分まで異次元に飛ばされるのでは?という懸念があったがやらない事には始められない性能確認なので、そして自らの好奇心のためにも実行した。


ガツン


全能力強化中の状態であるエリアスの拳を難なくその壁は防いだ。というか少しもダメージが入っている様にさえ見えない。


ただ、少しアイリスが辛そうにしている。


「大丈夫、アイリス?」


「大丈夫。でも、この異能の、欠点わかった」


「欠点?」


殴られた時にダメージを与えられた分だけ本体へと反動がいくとかそんなものだろうかなどと考えながらエリアスはアイリスの言葉を待つ。


「この異能は、コストが、大きい。エリアスの、異能と一緒。維持するのに、大量の魔力量、が必要。物理攻撃を受ける、と、更なる魔力が、必要」


そういうことかと納得できる部分もある。


魔法完全防御の性能は破格だがそれでは強すぎる。上限がどこかは分からない現状ではなんとも言えない部分もあるが、コストとして多大な魔力の消費を賄うための魔力変換の機能とはよく出来た異能だと思う。


劣化しない防壁であり、削られる防壁である。この世界には確かに存在しない使い所と使い方を使い手に要求してくる面白い効果である。


「どれ位魔力吸い取られてくかわかる?」


「私の体感、だと、魔力変換がないと、3分持つか、持たないか……」


かなりに重いコストが課せられている。けれども正直言えば今の段階で使う可能性は薄いとも思っている。


「じゃあ基本は使用しない方向で行こうか。もし使う時は局所的に発生させて使うとかはどうかな?」


「うん、それが、いいと思う」


そういう訳で進む方向は決まった。


「ちなみに次の階位に進むための条件って出たよね?」


「うん、500体の、討伐だって」


同じだなと心の中で思って一息つくエリアス。

この魔法陣からはどんなぶっ壊れた試練が課されても文句が言えないし、やるしかないから安心感が大きい。


グギギギャャャャ


丁度いい。これからはアイリスに狩りまくってもらって能力強化をしてもらおう。


「じゃあ倒しに行きますか」


「うん。強く、なる。。。」


次の瞬間には獲物へ向けて爆進を始めた。






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