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10.リインフォース

 

 このルームで何度目かとわからない意識の覚醒が起こる。


 周りを見渡せば暴風に煽られた血が撒き散らされて、最後の魔法を使った時にクリアーであったルームはまたもや血に染まって赤色の光を創り出す。


 その中には自らの魔法によって体が四散している元人間だったものが転がっていた。

 だが今回は特にそれを見てもなんとも思わない。


 それこそ当然の報いを受けたと思う程度にしか。


(人間なんて信用できたもんじゃない)


 シャロンだって両親だって本当は僕のことを疎ましく思っていたのかもしれない。表立ってそんなことを言える立場にいなかったからあんな行動をとって僕を守ってくれただけなのかもしれないとさえ思えてくる。


 両親は自分の仕える国を変えるまでしたのに。

 シャロンは親に止められてまでも自分に会いに来たのに。


 頭の中は何も考えられず、ただただ人間不信に陥っていることを自覚した。


 魔法陣なんてなければ良かったのに……


 そんな考えも浮かんでは消えていく。もう立ち上がる理由が思い浮かばない。そもそもどうして殺してくれないのだろうか。この部屋だって魔物がいつ現れてもおかしくない場所であるはずなのに。一層の事殺してくれた方が早くに死ねるのに。そんなことまで考えてしまう。


 そんな時にルームの端っこで小さな蒼光がエリアスの片瞳に収まる。


「(何だあれ)」


 その光は弱々しくはあるが、しっかりと芯の部分が潰れる様子もなく確かな光を放っていた。


 興味を持ち体を動かそうとして自分の体を眺める。


 と、


 改めて自分の体の現状に気づいた瞬間に無くなった腕のために起こる激しい幻肢痛がエリアスのすべてを支配する。


「(うぁぁぁぁぁぁ、ぐっ、いっ、ぁぁぁぁぁぁ)」


 抗うことは出来ない。解決策さえない。無くなったものは戻ることはないのだから。


 もはや«等価交換(エクスチェンジ)»の効果さえも忘れるほどの痛みであった。


 体は動かないはずなのに地を転げ周り、壁に衝突したことにも気づいていないかとも思われるほどにずっと呻き声をあげ続ける。


 何秒たっただろうか。何10秒たっただろうか。何分たっただろうか。何10分たったのだろうか。何時間たったのだろうか


 無限とも思われる時間は次第に痛覚が麻痺していく段階にまでなって初めて痛みが弱まってきたと錯覚し平静を取り戻し始める。


「はぁはぁはぁ」


 痛み以外のことがやっとの事で考えられるようになってきた。何をすべきかはわからないけれど、また自分の体を回復しなければならないことだけはわかる。


 死の闇に包まれられれば楽なのだが、自分の体がちょこっと強く、中途半端に高性能であるがために光に吸い寄せられる(ひとびと)のひとりとなってしまう。


「黒魔石と体の回復を交換」


 今度は前回のことをこの異能も踏襲しているのか瞬きの間にして終わった。


 だが今までと違う現象が起きていた。


 自分の手のひらの中に握りこまれていた黒魔石は今までの刀や担当のように風化して塵となり風に揺らめいていくことは無かった。どうしてなのかそれは形を保ったままでそこに存在し続けており壊れゆく様子はない。


 だがよく見ると異なる場所があった。


 中身の魔力が空っぽになっていた。


 これから鑑みるに魔石というものの利用方法は、その内部に秘められた魔力や魔物の生前のステータスというものが流出し終わった時にそれは用済みとして判断される。


 実は黒魔石だけは構造が別となっている。


 黒魔石というものは中身にある魔力がおまけであり、その魔石の本体自体がただの受け皿でなく、魔力を吸収する媒体としての構造を持つ。


 そして今回のエリアスの«等価交換(エクスチェンジ)»における報酬は釣り合わないと判断された。


 黒魔石の方が価値が高すぎてである。


 エリアスは気づいていないが中身の魔力だけで事足りてしまった状態なのである。


 だがそれは元々存在した部分はの話である。


 今は立つことは可能である。移動も可能である。日常生活もできる程度までは回復している。


 だけれだも無くっなったものを取り戻すほどの対価は払うことが出来ていなかったしエリアス自身もそれを望んでいなかった。


 彼の左の腕は肩先少ししたところから先は自らの魔法により行方はわからないし、バラバラに細切れになって最早そこらの地面と同化しているかもしれない。


 エリアスが部位欠損をしているのは腕だけではない。


 部位欠損とは言わないかもしれない。

 それでも。

 このダンジョン内を生きていくのに必要不可欠と言っても全く過言ではない、それどころか命綱とも言える片方の視力は失われていた。


 殴られ、蹴られを繰り返している内に彼の片目は開くことがなくなり、中から崩壊を始めてしまっていた。


 目に関してだけは特に重要部位であるために。そして自然治癒に任せても2度と元に戻る箇所ではないが故に部位欠損同等の扱いとなり処理され、対価としては足りていなかった。


 そんなことが無くても元に戻す気はなかった。


 ここまでやられて何も思わないほど枯れた人間ではない。

 まだ10歳であると言えども経験だけなら並の大人の一生よりも濃い経験を積み重ねた。


 そんな時に自分に何が足りないかなんてもう分かりきっている。


 それが力だ。


 自分の収束は受動的にしか発動させられないことがわかっていて、その他の攻撃手段は溜めの必要な高威力魔法一つのみ。力任せに接近戦に持ち込まれれば身体能力の低い自分はまた蹂躙されてしまうだろう。


 第六陣は強いとわかった。

 それでもいきなり強くなれる訳では無い。

 まだ『第六陣(ステアーズ)』は弱いのである。


 先程の戦闘も決着をつけようと思えば一瞬でついたことだろうが、嬲ってくれていたことが勝機を与えてくれた。

 ただの棚ぼた状態。

 まともに戦って勝ち目がない。またあんな対応をされては堪らないためもう他の探索者パーティーに頼ることもどうして出来ようか。


 そこで考える。この右腕は失ったわけじゃない。治さないわけじゃない。新たな何かを得るための布石としようと。


 小さな碧光を浴びせる小さなボロく泥にまみれたアイテムバックの元へ行き、中身を物色する。


 そこには思いもよらぬ豪華な中身と1枚のメッセージカードが入っていた。


 エリアスは文字は読めるがそこに書いてある文字は見たことがなかった。だから読むのを諦めようとした次の瞬間に頭の中に音声が、誰とも言えぬが重厚かつ威厳がある、そんな存在からの声が響いてくる。

 なんてことは無く軽いノリで話しかけてくる軽率そうな、それでいて聞いてるものを離すことのないような声が頭の中を襲う。


『やあエリアスくん頑張ってる?私は君に力を与えた存在だよ。あー、この魔法陣を理不尽だなんて思わないでよ?

 何たってこれは"英雄"になるための試練みたいなものといえばいいのかな? 私はわざとそういう設定にしているんだ。本当の苦境に立ち会った時に相手に向かっていける、そんな人材を求めてのことなんだ。第六陣は優遇されていないと思われがちだけどスキルはみんなユニークスキルを持っているからそれを上手に利用さえすれば生きて行けるように出来ているんだけどね。残念ながらエリアスくん以前にこの第1にして最難関の試練を突破したものはいなかったなぁ。

 そんなエリアスくんに私からのご褒美だ! そこのカバンにはこの紙に書かれているものが入っているよ。はい、今人間でも読めるように文字を書き換えといたから。それではこれからのダンジョン探索がんばってね。それと、次の試練は魔法陣を見ながら念じることで知ることが出来るよ。


 最後に一つだけ忠告。

 この命懸けの探索の中で頼れるものを作りなさいな』


 接続が切れるような感覚とともに頭の中の声も消えていった。


 突然のことにうまく頭が働かないが働いたところでわかる気もしない。これはある種のハプニングだと納得してスルーしておくのが一番だろうか?

 神様だー! と驚いてフリーズしておくのが正しいのだろうか。


 まあ正直なところ今さら何を言われたところで大して印象が変わることは無い。良くない意味で。

 けれども有益な情報は聞けたのでそこはよしとする。


 まずは手に持っている読める文字へと変化した紙を見る。そこに書いてあるのはアイテムの名前と効果一覧。


「えーっとどれどれ」


 袋の中を漁りながら確認していく。

 以下が袋に入っていたもので、メッセージカードの説明文である。



 ①魔除けの結界石


 これを使用することによりよる寝ている間に魔物が半径5mほどのドーム状空間に近寄ることはなくなる。夜になると自動で発動、弱い青の光を灯す。


 ②ミスリル


 この世界の魔法金属。硬度が高いこともさることながら魔法との親和性が高い特徴を持つ。白銀に輝き並の宝石よりも美しいかもしれない。


 ③ポーションなどの小道具


 いざという時に使うものというよりは、ここで生活していくために必要最低限のものが入っている。


 ④黒魔石


 魔力を吸収する効果を持つレアな魔石。レアな魔物カラのみドロップする。色が普通のものと比べて黒くなっている。


 大まかに言ってこの4種が袋の中から出てきたわけだ。

 そして何よりも驚いたのが…………


 このボロ雑巾としか思えないレベルで、実態を知らなければすぐにでも廃棄してしまいそうなこれらが入れてあったバッグであった。


 ⑤ブラックバック


 中身の空間が拡張され、見た目の何倍ものアイテムが入れられるバッグ。外見がボロければボロいほど中に入れられるものの量が増えると言われている。



 ボロいことに文句言ってすみませんでした。

 もっとボロくなってください。いや、ボロくしたらこれ空間広がるのか?


 PS.意図的にぼろくしてもボロくなるだけだよ


 やっぱりダメか。


「一応ありがとうございます」


 相手は神様だろうし適当に祈っとけばいいか。

 手を合わせて、膝立ちになって天に向かいしばらくの間祈りを捧げておく。もちろん形式だけの事であり神様なんて進行しているはずはない。しっかりと心の中ではこれまでの事をたくさん罵倒しておきました。


 これだけの素材が揃った今自分のケアをすべきなのかもしれない。多分ではあるが、それを見越した上でのこの報酬ということでもあるのだろう。癪に障るが仕方が無いので今回は黙ってそれに流されよう。


 腕は先決だ。


 このままないまま過ごしていたのでは体のバランスをうまく取れないし、武器を握ったままではスキルを使用出来なくなってしまう。日常生活に対するハードルも上がってしまうため早くに解決しなくてはならない。


「さて、どうしようかな」


 自分のなくなった腕を見つめる。

 «等価交換»による体のケアをした時に傷口が一旦閉じられ、痛みと壊死のリスクを断ってくれているために落ち着いている。あまり見ていて気持ちのいいものではない。

 だが、この腕を見ていると自分が生きていることの証であるかのような気がして落ち着く気もする。


 この腕を戻したらこの痛みを恐怖を悲しみ忘れてしまうのだろうかと思うと躊躇してしまう気持ちも存在している。


 どうせすることもないからと休むついでに体を楽な姿勢にして考えをまとめる。袋の中では薄水色の光が照らしているため夜明けは近いらしいがまだゆっくりしていても敵の襲ってくるリスクはないのだ。


 うーん。


 うーん。


 あ〜〜


 この時にはすっかりとエリアスは生きることに希望を見失っていたことは忘れていた。何だかんだ神様には知らないうちに借りが増えていくものなのであった。


 ただ考えても考えるだけ無駄な時間が増えていく。

 正直ただの義手なんてつけたところでただでさえ弱い自分のさらなるレベルダウンを起こしてしまう。


 袋の中にある黒魔石をゴソゴソと漁る。


「レッサースピリットのものと合わせると3つもあるんだよね……」


 これで等価交換するか。

 腕に武器を仕込んでみたりするのもいいかもしれないけど、なんかしっくり来ないんだよね。


 悩みながら黒魔石をぼーっと見ていた。


 しばらくして突然ある一つのイメージが浮かんだ。


「やってみるかな……」


 このアイデアは少なくともこの世界には存在しない技術を要すると思われる。けれど、失敗した時にノーリスクなのであればやってみるのが一番だ。


「黒魔石2個とミスリルを使用。黒魔石の改変、義腕の創造と交換」


 イメージは曖昧だからちょっと心配だ。

 この世にないものを想像するなんてどんなに頑張っても限界はある。でもこの✤異能✤の性能はおまかせでも発動するであろうことは確認しているため、最適化してくれることで強力にさえなってくれればいいのだ。


 その時、素材に変化が訪れ始める。


 まず最初に対価として黒魔石がひとつ消える。

 それだけでもこれからやろうとしていることの凄さが伺える。


 豆知識として、地上でミスリルと黒魔石を使った魔道具などができたのであればお店の中で一番高く置いてあるもはや観賞用レベルでの値段がつく。一歩間違えば国宝にもなりうるレベルだ。


 完全に黒魔石が消失した後のそこはこの世界であってこの世界でないような不思議な空間となっていた。

 そこはエリアスにとって生きづらい場所であった。


 ダンジョン内であるため、魔物の核となるための魔力がかなりの濃度で存在するこの世界は知らず知らずのうちに魔力が生きていくのには必要な体に人間も最適化されてきていた。

 魔法が使えるようになったことが最もの要因だ。


 今回現れた空間は魔力濃度が著しく低い。


 その空間から元々いた世界を眺めるとその魔力の濃さゆえに少し黒みがかって見える気もする。


 そこで反応が始まる。


 黒魔石からは魔力が解放される。それは制御されており、空間の魔力をあげることなく、一つの線となり真っ直ぐにミスリルの元へと移っていく。


 ミスリルに到達した魔力はなんとそこでミスリルと共鳴する


 銀白色であったはずのミスリルは魔力を吸い込むことはしないが魔力を周囲に纏わせ始め、青白銀食へと移行していく。

 そうしてある適度の、一番美しい輝きに達した頃に黒魔石からの魔力の放出は止まる。


 そこからは圧巻の一言。


 加工が難しく、少しずつしか形を変えることがないと言われるミスリルが過剰の魔力に反応したためなのかは分からないがまさかの液体状物質へと変貌を遂げ、黒魔石と合体し形を形成し始める。

 物理法則さえも無視して質量は減り、体積は減り、だが存在感だけが増していく光景をマジマジと見つめることしか出来ない。


 形が整えられ白銀と暗黒色の混ざり合うそれはエリアスの腕に向かって飛翔してくる。

 そうして塞がった傷口の上を覆うようにした所で光は収まり、黒魔石自体が変形して形作られたかのような黒い透明な物質が腕と成し、その中は普通の腕と変わらないものを創り上げているのだがそれは何故なのか青白銀に輝いていた。


「なっ!」


 さらに、傷口があった場所をコーティングしているミスリルと黒魔石が溶け合ってできた物質の表面にはこの世界の文字ではない──異世界における文字──が浮かび上がっていた。


 驚いて新たに生成された腕を触ろうとして無事であった右手で新たな腕を触ろうと試みる。が、


「実態がない!?」


 精霊やゴースト系のモンスターにたいして物理攻撃をしているかのような、つまりなんの手応えもなしに触ろうとしたものが新たにできた腕をすり抜けてしまう。


「それなら……」


 そこら辺に落ちている一本の剣を実態のないはずの腕で拾う。


「拾えるし」


 そこであることに気づく。その腕の構成元素はどうやら魔力で出来ているらしいことに。


 それからある程度実験を繰り返してみたが、どうやら普段は実態化することはないが、意図して触れたものにはしっかりと実態をもって応えてくれるようだ。


 最初はこんなことであるなんて想定していなかったから触れられなかったのだろう。


 こうしてエリアスに新たな武器、『魔力腕(マナライズ)』を手に入れるのであった。


 最終的にこの腕が変態的な強化を遂げるのであるが……







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