[ 第二章 イスラフィル] 2
ぶちぶちと文句を言うヨハンに連れられて、ノアはヨハンの家であるアパートへとやって来ていた。不機嫌そうに部屋の中へ消えたヨハンから、少し玄関前で待つよう言われ、ノアは大人しく扉の前に立って手持無沙汰に両手を弄んでいた。
ヨハンの住む部屋の隣のドアが開く音がしたが、ノアは熱心に扉を見つめていた。だがそこから立ち去る様子はなく、立ち止まっている気配がしばらく隣にあって、ノアは不思議そうな顔をそちらへ向ける。
「おっ、ここらじゃ見ない子だね」
「へ?あっ、こ、こんにちは」
視線を向けたノアと目が合うと、そこに立っていた人物は破顔して首を傾ける。肩口で真っ直ぐ切りそろえたブルーグレイの髪をゆらす女性で、猫のようなアーモンド形のオリーブ色の瞳を好奇心で輝かせていた。すこしぽってりした自然な桃色の唇は笑みを作り、顔にはうっすらとそばかすがある。華やかな美人という訳ではないが、へそが出るほど短いTシャツにGジャンをはおり、ショートパンツから伸びる足は健康的に焼けて、自然な愛嬌がある女性だった。
「その部屋の人に用事?」
鈴の鳴るような声で笑う女性に、ノアははにかみを返し、小さく頷いた。
「珍しいわね、ヨハンにこんなかわいいお客さんなんて。いつもダンテくらいしか来ないのに」
「そう……なんですか?」
「あいつ人嫌いだからね……って、言ってもそんな悪い奴でもないよ」
首を傾げた見上げる少年の頼りなげな視線に、女性は慌てた様子で訂正を加える。
「あー……えっと、あたしシャノン。君は?」
「ノアです」
「そ!よろしくねノア」
にこりと笑ったシャノンの笑顔につられるように、ノアは頬を緩める。すると不意にドアが音を立てて開く。
「……何の話だよおせっかい女」
「あーら、アンタがこんないたいけな少年、外に待たせているから相手してたんでしょ!」
片方の足に体重をかけて、腰に手をやるシャノンの言葉に、少し面倒そうに欠伸をしたヨハンは彼女を手で追い払う仕草をして、ノアに向き合った。
「おう、入れよ」
「あ、は、はい」
「MYOBってわけね、はいはいわかったわよ」
短く伝えると再びドアの向こうに消えたヨハンの態度に、やや呆れ気味にため息を吐いたシャノンを振り返り、ノアは頭を下げる。
「シャノンさん、ありがとうございました」
「んーん、こっちこそありがとノア。しばらく居るなら、また会うかもね」
頭を下げる少年にウインクをして答えると、大き目の金のイヤリングが揺れて蠱惑的に輝いた。そうしてシャノンは「バーイ」と片手をひらひらと振り、踵を返して先程ノアが上がってきた階段を下りて行った。その健康的な後ろ姿を見送ったノアは、再び閉じてしまった玄関のドアを数度深呼吸してから押し開けた。
この街には珍しくさほど広くはない1LDKの部屋で、玄関のドアを開けると正面にドアが見え、そこを左に曲がると奥にあるリビングにつながっているのだが、すでに。
「汚い……」
「文句あるなら出てってもいいんだぞ、あ?」
部屋に入った時に脱いだのだろう服が、廊下の隅にいくつか散乱しており、濃い煙草の臭いが室内に籠っていて、ノアは煙がまだ部屋の中に漂っているかのような錯覚を覚えた。
ヨハンが不機嫌な声でノアに凄むが、彼はまるで人が来る事を想定されない部屋の様子に、折角入った玄関とびらの前から動くのを躊躇していて、ヨハンは小さくため息を吐いた。すると立ち止まったノアの後ろにある開けたままだった玄関扉の方から、陽気な声が飛んでくる。
「ほら、俺が入れないだろ、さっさと入れよ」
「わわっ」
分厚い胸板がノアの背中を押して、小さい体ははじかれるように部屋の中に足を踏み入れた。先に入っていたヨハンが面食らったような顔をしたが、すぐに視線を逸らして小さく舌打ちした。
「あれ?ダンテさん?」
「……何でアンタまで来てんだよ」
ノアが玄関の方を振り返ると、大きな紙袋を片手で抱えたダンテが、玄関のドアを閉めている所だった。ヨハンがため息交じりにそう声を掛けると、ダンテはにかっとと笑みを返し慣れた様子で、ノアの背を押しながら部屋の中へと入って行く。
「どうせ掃除してないだろ?シフトまでちょっと時間あるから掃除してあげようと思ってな。あ~俺って優しくって気が付くできた相棒だなぁ~」
「うるせぇ余計なお世話だっつーの……」
「あっ、そーだ、さっきそこでシャノンにあったけど、会ったか?」
「誰だよ」
ダンテの問いに即答するヨハンの顔を、驚きながら見上げたノアに、返ってきたのは眉を顰め不思議そうな視線だった。
「お隣に住んでる女性ですよ……、会話してるのに名前覚えてないんですか」
「知らねぇ、興味もねぇ」
呆れた様子のノアに、ヨハンはそう端的に答えると、踵を返して部屋の奥へと歩いていく。小さく息を吐くノアの肩に、おおきな手が置かれて見上げると、ダンテが苦笑いしていた。よ
一つ扉のある廊下を抜け、リビングダイニングキッチンにつくと、そこもまた酷い有様だった。キッチンから正面に置かれた机の上には、飲み干されたビール缶や、吸い殻のうず高く積まれた灰皿、インスタント食品のごみと飲みかけのペットボトル、椅子には上着が掛けられていて、キッチンだけがまったく使われていないのか異様なほど綺麗に整頓されていた。
「うへぇ……」
「おい、いちいちうるせえぞ」
ノアが思わずといった様子で声を漏らすと、即座にヨハンから悪態が飛んでくる。そんな様子は気にもしていない様子で、ダンテはキッチンに持っていた紙袋を置くと、どこからかロールになったゴミ袋を取り出し、そこから一枚切り出すとノアにそれを手渡した。
「よしノア、この部屋の空き缶は頼んだぞ」
「わかりました、任せてください」
何も説明されなくてもやるべきことはわかったと言わんばかりに、ノアがしっかり頷いたのを満足げに見て笑うと、ダンテはカーテンの引かれた窓を開ける。オレンジ色の光が部屋に差し込み、薄暗かった室内を照らす。
「おい、開けるなよ」
「だめだ、掃除の基本は窓を開けるところから」
ヨハンの不機嫌そうな言葉も、どこかおどけた様子で軽く流し、ダンテは窓を開け放つ。そんな二人の様子を横目で見ながらノアは部屋中を歩き回り、異様に多い空き缶を拾って歩いていた。
◆
「これで、よし」
集めたごみが入った袋の口を縛ったノアが振り返ると、部屋は見違えるほどきれいに掃除され、床には何も落ちていない広いリビングがそこにあった。ノアが軽く感動を覚えていると、キッチンに立っているダンテを見てその不似合さに首を傾げ、その背中に近づくとふわりといい香りがした。
「ダンテさん、お料理するんですね」
「あぁ、独り身だからな」
ノアが手元を横から覗きこむと、慣れた手つきで作り終えたパスタを皿に盛り付けている所だった。ノアの方を見ずに、ふたつの皿にパスタを盛り付け終わると、それをすっかりきれいになったテーブルへと運ぶ。二つの皿を置いた後、どこから取り出したのか、一輪挿しに黄色のかわいらしい花を活けて、テーブルの真ん中に配置するとダンテは満足げに微笑んだ。丁度その時、ヨハンがげっそりとした様子で、リビングの奥にある扉をスライドさせて姿を見せた。
「はぁ~、何で急に掃除なんか……って、おいアンタそれ」
げんなりした様子で顔を覗かせたヨハンが、机の上を見てあからさまに顔を顰めて見せる。
「ヨハン、冷蔵庫の中にデザートと、明日の朝ごはんも入れてあるからな」
「……おう」
ヨハンは何か言いたげにダンテの顔をしばらく眺めていたが、そんな様子もスルーしていい笑顔を浮かべる相棒の様子に、小さくため息をつくだけで、そこから何かを言うことは無かった。
「じゃ、俺は仕事だからもう行くな。二人とも夜更かしするなよ、デザートを食べた後ちゃんと歯磨くこと、ノア、お前の着替えや洗面用具やらはあの紙袋の中に……」
「あーもうわかったから、さっさと行けよ、ババアか」
帰り支度をしながら捲し立てるダンテに、ヨハンがしっしと手で追いやると、ダンテは少しつまらなさそうに唇を尖らせたが、すぐ笑顔に戻って、仕事へと向かっていった。玄関のドアが閉まると同時に、深く長いため息を吐いたヨハンが、目を瞬かせているノアの方を振り返ると、ノアは曖昧に笑った。
「あ~はは、ダンテさんなんだか親戚のおじさんみたいですね」
「っ……はは、おじさんか……確かに。よし、飯食うか」
ノアの言葉に軽く笑ったヨハンがそう言うと、ノアは固まってヨハンの顔を見つめる。それにヨハンが訝しむような目を向けると、ノアは慌てたように何度も頷いてリビングへと小走りに向かったのだった。
◆
「は~、おいしかったなぁ」
冷蔵庫の中にあったミルクプリンを食べ終わり、少し膨らんだ腹を摩りながら、ノアは満腹のため息と一緒に食事の感想を天井に向かって投げていると。いつの間にかいなくなっていたヨハンが、廊下の方からリビングへと歩いてくる。
「おい、俺は風呂に行くから、テレビでも見てろ」
「……リモコン、お風呂にあったんですね」
ノアが苦笑いでそう言うと、ヨハンは緩く首を振って黒のボタンのたくさんついたリモコンを、リビングの隅にあるソファへと投げる。ぼすんという音がして、リモコンがソファの上で跳ねた。そのままソファ前に移動したヨハンは、ソファ前のローテーブルの中央に無造作に置いた二丁の拳銃を、隅へと押しやる。
「……あっ!ちょっと、その子のことそんなに乱暴に扱っちゃだめですよ」
「ハァ?……その子ってリモコンか?」
「いえ、その子の事です」
ヨハンの行動を目で追っていたノアが急に声を上げ、ヨハンは眉を顰めて首を傾ける。ノアは小さく首を振って、ローテーブルを指さした。
「……銃かよ。まぁ、そうだな」
ノアが真摯な目で見つめてくるのに、一応は納得した様子で頷くとヨハンは踵を返して廊下の方へと戻って行く。その途中一度キッチンの方を振り返って見ると、ノアがせっせと食器を洗おうとしているのだろうシンクに向かっていた。
ノアの後ろ姿を見つめていたヨハンだったが、何も言わずにバスルームへと入って行った。
◆
「……はぁ、疲れるな」
バスルームで深いため息を吐いたヨハンは、そう独りごちた。掃除されてすっかりきれいになったバスルームで衣服を脱ぎ、洗面台の鏡に映っている自分に向かって眉を顰めると、浴室へと足を踏み入れた。冷やりとしたタイルがまだ春先の気温を思い出させて、ヨハンは軽く身震いする。
シャワーの蛇口のノブを捻ると、熱めに設定したシャワーが湯気を立てながらヨハンの頭へと降り注いだ。温度調節さえしておけば、水が降り注ぐのをしばらく我慢することもなく、温かいお湯がすぐに出るこの浴室システムは、彼のお気に入りのひとつだった。
ヨハンが疲れ切った身体の汚れを落としていると、ふと浴室の天井が目に入って口の端を上げる。
「どこまで綺麗にしてんだあいつは」
汚れ一つない天井を見て、外見からは想像できないが、案外綺麗好きな相棒の顔を思い出しヨハンは小さく笑った。ほどなくして浴槽にお湯が溜まったのを確認すると、その中へと体を沈めて大きく息を吐き出す。
「に、しても……今日のは何か妙だったな」
すべらかな白色の浴槽の縁に後頭部を預けて、肩まで湯に浸しながらヨハンは今日あった出来事に考えを巡らせる。夜の公園で起こった事を思い出して、首を捻る。
魔法次元からこちらの次元に顕現しかけている討伐対象を、何時もの通りに仕留めようとしただけなのに、現れる最中ゲートが割れ、アルスマグナになりそこなったもどきが飛び出しそれを討伐。実際には討伐したはずがDMOによる討伐確認がされず、だが公園からなりそこないが出て行った痕跡もなかったため、結局夜が明けるまで二人は一晩中暗い公園の中をダンテとヨハンは二人で探し回っていたのだった。
疲れ果てる原因となった出来事を思いだし、ヨハンが浴槽の中で腹を立てていると、外からアルスマグナ出現兆候を知らせるサイレンの音が響いているのをぼんやりと聞いた。耳を澄ませて電話のコール音がしないか息を殺すが、その音は聞こえてこず、遠くに聞こえるサイレンが、浴室で反響してヨハンの耳に届くのみだった。招集がないと判断し、ヨハンはようやく警戒を解くと大きなため息を吐いた。
「……まあ、今呼ばれても困るけどな」
ヨハンが浴槽から身を上げ再びシャワーの前に立ってノブを捻ると、設定した温度のお湯が彼の身体に降り注いだ。タイルに弾ける水音がしばらく続き、それが止まるとヨハンが浴室から出てバスタオルともいえない程のサイズのタオルを手に取り、身体から水気を取って行く。一息ついて慣れたように用意されていた―おそらくダンテが掃除したときに出しておいたのであろう、ヨハンには用意した覚えはない―衣服を身に着けていく。頭にタオルをかぶったまま、浴室から出たヨハンは、目を大きく見開いた。
リビングでは腕組みノアが、腕組みをして難しい顔で机の上を眺めていた。机の上には黒色のパーツの様なものが並べられている。黒光りするその何かのパーツは、ヨハンにとってなじみのあるものあった。
「お前っ……!」
解体された第二の相棒とも呼べる愛銃を目の前に、腕を組み唸るノアの肩を掴んだヨハンだったが、少年からでた言葉に、腕の力を抜いた。
「ヴァルハラ社・ワルキューレⅡ型。戦女神の名を冠するに相応しい、繊細でいてこの力強い回路は、その高潔さの象徴のような美しさです。まさにヴァルハラ社の傑作、……ただヨハンさんの使い方が雑なせいで、回路に問題が出ていましたね」
「……は?」
腕の力を抜いたと言うよりは、少年から飛び出た年齢にそぐわない専門的な言葉に、思わず力が抜けたという方が正しいだろう。ヨハンが少年の言葉を聞きながら机上に並べられた愛銃のパーツを見てみると、それは壊してばらばらにしたものではなく、銃のメンテナンスをする際に銃を分解しそのパーツを並べるような、整然とした並びであることに目を見開く。
「このままでは折角の戦乙女が泣いてしまうところでした、いやあ早めに回路の問題が解ってよかったです。一通り調整してみましたが、この金の装飾は、ヨハンさんの色にそぐわない様子でしたので、別の加工を施しておきました。……とは言ってもお部屋の掃除の途中に見つけた工具で行った簡易的な調整なので、言わば応急処置の様なものと思ってください」
言葉で説明している最中にも、ノアの手が止まることは無く、その手の中で、迅速に、正確に、繊細に、ヨハンの愛銃が組み上がって行く。
組み上がった銃の遊底を引き、そのまま何のためらいもなく空撃ちし、一度組み立てたマガジンを落とすと、手の中で器用にくるりと回して、乾いた音を立てながらマガジンをセットする。少年の手にはいささか大きい黒光りする銃の安全装置を立て、そのまま銃をくるりと回して銃身を持ち、持ち手をヨハンの方へ向け差し出した。
「どうぞ、調整の具合を確かめてみてください」
余りにも鮮やかな手際に、口を開けて呆然と眺めていたヨハンだったが、渡された銃を受け取ると、はっとしたように口を開いた。
「……テメェ!触るなって言っただろうが!」
「へっ?あっ、うわ、うわわすみません!」
ヨハンの怒鳴り声に驚き身を竦めたノアは、振り上げられたヨハンの拳骨から頭を護るように、身を丸めて自分の頭を抱える。頭を抱えて小さくなったノアに向かい、振り上げていた拳骨をほどくと、ヨハンは頭に重ねている両手に向かって、軽いチョップを落とす。ノアからは「ふえっ」と、悲鳴のような小さい声が上がった。それから顔を上げて再度謝罪してくるノアを、呆れたように見ていたヨハンだったが、銃が壊れていない事を確認すると、深くため息をついてノアへと向き直った。
「……お前その歳で、銃マニアか?それともマーケットのガキか?」
「えと、マーケットはわかんないです。お店ですか……?」
「ああ、銃のな。そう言う家業の家に生まれたガキは、ナイフをおしゃぶり、銃をおもちゃに育つらしいし、お前くらいの歳のガキでも十分に組み立てや軽いメンテもできるみたいだからな」
「そう、なんですかね……」
じっと自分を見つめてくる、澄んだ青い色の瞳に、居心地が悪そうに身じろぎしたノアは、頬を掻いて視線に感じた擽ったさをごまかした。
「まぁ、それならそれで捜索願の一つも出てるだろ。……お前も風呂行って来い、タオルは洗面所にあるから適当に使え」
「あっ、はい!じゃあ、お言葉に甘えてお風呂いただきます」
急にノアから興味を失ったように視線を逸らし、ソファへと深く腰掛けたヨハンに促され、ノアは洗面所へと小走りに駆けて行った。その背を見送る事はせず、ヨハンは先程まで分解されていた愛銃をしげしげと眺める。自分でノアに伝えた言葉を思い返しながら、ただの《武器屋》などというものであるはずがないと首を振る。
ヨハンの持つ銃は、最悪実弾を籠めなくても、魔力を固めて射出し、銃弾と同じような効果を得ることもできる、特殊な銃である。一般的な弾丸を打ち出す拳銃とは異なり、魔法を使うことのできない種族であるヒューマが、次元エネルギーを利用した魔法を扱うために作り出した、特殊な武器である。そのため、銃の手入れはその仕組みを理解し、魔法にも精通した人間でないと出来ない。下手に解体などすると銃本体に込められた回路と術式が崩壊してしまうため、その修理は専門性が高く、修理期間も一般の拳銃とは比べものにならない程長い。
ヨハンは自分の手の中で冷たく光る黒の銃身を、鋭い視線で見つめながら舌打ちする。いとも簡単にヨハンの銃の問題点を見抜き、さらにはヨハンの家に転がっていた、ただの工具で修繕した。その異様ともいえる出来事が、ヨハンの胸中に嫌なものを渦巻かせる。
(あいつはどこから来た?あの技術は一体……まさか記憶がないなんて言うのは嘘で、誰かに追われている……それとも……)
「……考えても仕方ねぇな、めんどくせ」
次第に曇り出した思考を舌先で悪態をつくことで遮り、ヨハンは手の中で弄んでいた銃に意識を集中させて目を閉じる。すると、先ほどまで黒一色だった銃身に、ぼんやりとした青い光が走り、電子回路のような模様が浮かび上がる。そのラインをなぞるように銃口に向かって光が走り、そして逆向きに戻って行くと光は収束し、元の黒い銃に戻っていた。ヨハンは、それを驚きに見開いた目で見つめていたが、やがて口の端を吊り上げ、銃を座っているソファーの隅へと置いた。
「戦女神ねぇ……、キモチワリ」
あんまりな言葉とは裏腹に少し嬉しそうな声は、誰の耳に届くことは無く部屋に溶けた。




