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硝煙のエリュシオン  作者: すずなか
― Case1:Belphegor ―
14/39

[第五章 暗闇への誘い] 2

 昨晩シンザがダンテによって落とされたマンホールを見下ろし、三人は顔を見合わせた。

『お二人とも、聞こえていますか』

「ああ、大丈夫だアルマ。頼んだぜ」

 耳に取り付けたイヤホン形の通信機から聞こえるアルマの声に、通信機を軽く指で押さえたダンテが、軽い調子で返事を返すと安堵したような吐息が、ダンテとヨハンの耳元を擽った。

『よかった、そのマンホールから下水に降りられます。下へ降りたら、南へ進んでください』

「了解」

 通信機越しのアルマからは見えないのだが、返事を返したダンテはウインクする。気障な相棒の様子を半眼で見ていたヨハンだったが、そのままやり取りを続けているダンテから視線を逸らすと、顔を強張らせてマンホールを見つめているノアを見た。

心なしか青ざめているノアを、しばらく見つめていたヨハンだったが、ふと顔を上げ、アルマと目的地までの道のりを打ち合わせているダンテを見る。

「ダンテ」

「ん?アルマ、少し待ってくれるか。どうしたヨハン」

 会話していたアルマに断りを入れると、軽く見上げてくるヨハンに向き合い首を傾ける。二人の様子に気が付いたのか、ノアは顔を上げると、二人を見上げた。

「お前のそのピアス、オニキスか?」

 向き合ったダンテの耳をまじまじと眺めていたヨハンは、自分の右耳をとんとんと指で示しながら、首を傾げた。

「ん?ああ、そうだけど」

「それ、貰っていいか」

 あまりにも唐突な言葉に、ノアがヨハンに向かって驚きの視線を向けていると、ダンテは笑顔で頷いた。

「あぁ、いいぞ」

「えっ」

 二つ返事で自分のピアスを渡すことに同意したダンテの言葉に、ノアが思わず声を上げる。すると、ピアスを外しヨハンにそのまま渡したダンテが、不思議そうな顔をする。

「どうしたんだ?」

「いや、そんなに簡単にあげちゃうんですか?」

「ああ、そんな事か」

 眉尻を下げたノアに、ダンテは軽く笑った。

「必要なんだろ」

 それだけ言うと、ダンテはアルマとの打ち合わせを再開させる。腑に落ちない顔をしたノアが、少し離れた所に歩いて行ったヨハンを見ると、受け取ったピアスを、掌を斜めに重ねた両手で挟み、瞳を閉じて佇んでいる姿があった。

 誘われるようにヨハンの側まで近寄ったノアの瞳には、ヨハンの周りで青の光が広がっていき、そこをスパークする赤い閃光が、青の光の中を揺らめいていくのが見えた。

赤の閃光はその数をだんだんと増し、やがてそれらはヨハンの合わせた手の中に吸い込まれるように収束していく。そしてフラッシュのように一度その輝きを強めた赤い閃光は、開かれたヨハンの掌の上に転がった、ダンテのピアスの上に小さく円を描き、そしてふわりと消えた。

「おい、ノア」

 神秘的な光景に見とれていたノアが、ヨハンに呼ばれたことに気が付き、慌てて傍にやってくる。すると手を掴まれ、先ほどまでヨハンの掌の上にあったピアスが握らされる。困惑してヨハンの見上げると、ヨハンは眉を顰めて頭を掻き、手を離して説明を始める。

「ポケットにでも入れとけ。攻撃一回くらいなら大丈夫……だろ」

 ぶっきらぼうにそれだけ伝えると、踵を返しアルマと話すダンテの所へと歩いて行ってしまう。その背を見送りながら、言葉を頭の中で反芻し、その意味を考え理解したノアは、頼もしいお守りとなったそのピアスを大事そうに上着のポケットへとしまった。

ほどなくして、昨夜同様、ダンテがマンホールをこじ開け、ノアを呼ぶ声が届き、ノアは慌てて二人の元へと駆け寄った。


 ◆


 トンネル型の下水道には、左右に通路、そして真ん中に排水が流れている。ひんやりとした空気が漂う下水道内は整備用のライトに照らされて、存外と明るく歩きやすくなっていた。湿気で重い空気が満ちる構内は黴臭く、それだけでなくどこか生臭くもあった。

「うわぁ……」

「最悪」

「い、行きましょう」

 マンホールから下水道に降り立ったダンテ、ヨハン、ノアの三人は、漂う悪臭に顔を顰める。ダンテを先頭にして隊列を組み、ヨハンが最後尾でノアを間に挟む形で道を進んでいく。

『ここから目的地はそう遠くありません。……次の角を右へ』

「おっけー」

 入り組んだ下水道を、会話もなくアルマの指示の通り進んでいく。時折、ダンテが水溜りを靴底で踏みつける音が、作業灯の合間の暗闇に響いていた。

『そのまま30m直進した先が、指定ポイント、です』

「ありがとうアルマ」

『バックアップは任せてーーい、私のーー出来ーーーり』

 二人の耳に届くアルマの声に突然ノイズが走り、ブツリという音を立てたかと思うと、それ以降何も聞こえなくなる。ダンテが振り返り、ヨハンがそれに頷きを返すと、下水道の奥に視線を向ける。辺りをぼんやりと照らしていたライトが、奥から一つずつ消えてゆくのを睨みつけながら、ホルスターから銃を引き抜いた。

「ちっ、奴の言う通りだったってことか」

「ノア、俺の傍を離れるんじゃ……!」

 明かりが消えた暗闇の奥から、水気を含んだ重い何かを引きずるような音がだんだんと近づいて、青ざめたノアの呼吸が早くなる。それをなだめるように、視線はそちらに向けないでノアの手を取ったダンテは、手の中の冷たい手を強く握ってからその掌を離す。

 ダンテが懐から取り出した、ペンの様なものを取り出して折り曲げる。するとそれは、ぼんやりとした光を帯びた。

特に合図もなくダンテが光るそれを暗闇に向かって放り投げると、後ろからヨハンが、青く光る銃身でそのペンの様なものに狙いを定め、正確にそれを打ち抜いた。

ーーーガァン 銃撃の音が、分厚い壁を叩いて跳ねまわり、複雑に入り組んだ下水道を駆け巡る。

 瞬間、辺りを閃光が包み、下水道内が明々と照らされる。そこに照らし出されたのは、ぬらぬらと光る体はもはや人の形をしていないベルフェゴールの姿だった。

「聞いてたのより、えらくグロい見た目じゃねえか!」

「いや、確実に前よりでかくなってやがる。まさかこいつ、まだ変質してるのか……?」

 口端を引き攣らせ、言い放ったダンテに、ヨハンは否定の言葉を返した。3人の前にあらわれたベルフェゴールは、ヨハンが遭遇したときの姿からはかけ離れた姿をしていた。

 ぶよぶよした円筒状の身体はくすんだ灰色をしており、3人の方を向いている体の先端には、人間の頭が埋まっていて、玉虫色の鋭い牙が下顎の代わりに生えていた。

人間の頭、その顔にはぽかりと2つの穴が開いていて、眼球はそこに納まっていない。境目なく続く胸から胴の下部には、体節ごとに3対の手首から指先まで、4対の足首から指先までの人間のものとよく似た部位が生え、そこだけがやけに鮮やかな赤色のぶよぶよとした下腹を引きずり、三人へと向かってきていた。

 ダンテはとっさにジャケットの下のホルスターから銃を引き抜き、黒光りする大型の銃を、ベルフェゴールの頭へと向ける。

「ァだえええェぇ!ぉごおお、ぁだえエえェぇ!」

 一音一音が引き絞られたような、最早人のものではない耳障りな咆哮が、下水道の空気を震わせる。そのとき大きく開いた喉の奥から、クリーム色の液体が、勢いよく噴出した。ふき出した液体が、銃を持ったダンテの左手にせまり、銃身をべったりと汚す。

「っ!」

 液体が銃に触れた瞬間、急速に腐食し始めた銃身を見て、ダンテは銃を取り落す。

「クソ!下がってろダンテ!」

 ヨハンが叫び、ダンテの横をすり抜けて、銃でベルフェゴールの頭に狙いを定めた。

 今までよりも強く、青の光が銃身を走る。銃口に光が収束し、青白く光る魔法陣が銃口の周りに展開される。トリガーに黒の手袋に包まれた指がかかり、まさに引き金を引くその時だった。

今までの緩慢な動きからは考えられないほどの動きで、ベルフェゴールが跳躍した。驚きに目を見開いたヨハンは、咄嗟に真後ろにいたダンテとノアを庇うように手を伸ばす。

 しかし、それよりも早く後ろから伸びたダンテの腕にヨハンの身体は後ろへと引き戻され、ダンテが変わって飛び上がる巨体の前へと自らの身体を投げ出した。

「ッ!」

 無理な態勢で引き戻されたヨハンは、バランスを崩して膝をつく。引き攣ったダンテの声がヨハンの耳に届き、咄嗟に顔を上げると、ダンテの左腕に玉虫色の太い頤が突き刺さっていた。

「ちぃっ!」

 すぐさまベルフェゴールの胴に、空いている方の拳が突き刺さる。深々突き刺さった頤が糸を引いて離れ、後退する巨体を追撃し、頭部に右の拳を叩きつけた。

肉同士がぶつかったのではない様な、まるでハンマーで石でも叩き割ったような音が周囲に鳴り響き、ベルフェゴールの巨体が地面を掻きながら後退する。

「キぃじゃぁァ!ギャぁヲゥなぁァぁ!」

 ベルフェゴールは、割れた額から青色の汁を溢れさせて、咆哮する。

「ダンテ!」

 足元に銃を捨てて、ダンテの腕を掴もうと伸ばした右手は、何もつかめず空を切った。見開いた青い瞳は、身体を急速に這い上がる病魔に侵されていく腕で、ベルフェゴールを抑えながら、打撃を加え前進していくダンテの背を呆然と見つめていた。

「行け!ヨハン!!」

 ダンテが叫ぶその間にも、彼の身体が、皮膚は爛れて変わっていく。頤で噛みつかれた右腕は膿疱に覆われ、すでにいくつかが弾けたのか黄色い膿が流れている。ダンテがベルフェゴールの身体を殴りつけると、いつの間にか足元に出来た血だまりが、ばちゃりと音を立てた。その背中越しに銃を構えるが、うまく照準が定まらず、ヨハンは舌うちする。

「何バカな事言ってんだ!置いて行ける訳……っ!」

 そう叫ぶヨハンを振り返り、すでに頬まで爛れて、皮膚がどろりと溶けだした横顔が、不敵に笑むのを、揺れる青い瞳が捉えた。

そこでヨハンははっとして、自分の後ろに居たノアを振り返った。浅い呼吸を繰り返し、焦点の定まらない瞳で、ベルフェゴールを見つめるノアを見て、ヨハンは音がなるほど歯を噛みしめる。

「っ……!行くぞ!」

 銃をホルスターにしまったヨハンは、がたがたと震えているノアの細い腕を掴み、進んできた方向へと走って引き返す。

「だ、んてさん……ダンテさん!」

 ただ引きずられるままに走りだしたノアは、思い出したかのように、振り返りながら叫んだ。だが、辺りを明々と照らしていた照明が落ち、ベルフェゴールとダンテの姿は闇に包まれ見えなくなっていた。

「行け!!」

 バキンと何かが弾ける音がする、「逃げろ」と背中を叩くような声は、すぐに聞こえてこなくなった。その代わりにぐちゃぐちゃと、人が肉に変わっていく音がいつまでも耳に残り。不快な咆哮が、二人の背を追うように轟々と響いていた。


 ◆


 下水道でベルフェゴールから逃れた二人は、お互いに無言で下水の入口を見下ろし、立ち尽くしていた。ヨハンの眉間には深々と皺が刻まれ、苦痛に歪んでいる。ノアは呆然とぽかりと口を開けているような、深い穴を見下ろしていたが、震える腕を抑えて、踵を返し走り出す。

「おい!お前勝手にどこ行く気だ!」

  急に走り出したノアを追いかけたヨハンは、あっさりと追いきその手を掴んだ。ヨハンには背を向けたノアから、弱々しい声が聞こえてくる。

「そりゃ記憶がないくせに、次元エネルギーのことは1から10までわかっている訳ですよ!記憶がないなんて……っ」

「あ?何言って」

「僕にはこの世界でのバックグラウンドなんて、無かった!」

 ヨハンの言葉を遮って、ノアが悲痛な声を上げる。その声に、ヨハンは険しい顔で押し黙った。

「感じてしまったんです。アレが、あの化け物が、ダンテさんに触れた瞬間、僕の中で力が溢れるのを。あの化け物と自分が共鳴するのを!」

 悲痛な面持ちで訴えるノアの瞳の奥には、絶望が渦を巻いていた。

「わかってたんです本当は、僕はこの世界の人間じゃないんだって。病院でアイツを見たときから」

「どういう意味だ」

 自嘲気味に言うノアに、ヨハンは低く唸るように問いかける。

「病院に入る前、路地の向こうに立っているアイツを見ました。その時はそれが何なのかはっきりわかりませんでしたが、確実に何かを感じたんです。そして病院が襲われた、その後はヨハンさんのお家、そして今度はダンテさんまで……!」

「お前一体……」

 言葉の真意がわからず、眉根を寄せると、ノアは瞳を固く閉じて首を振る。そして再度目を開けると、自嘲的な笑みを浮かべる。

「何言ってるのかわかんねぇがとにかく一回……」

「僕は!……ここにいてはいけなかったんですね」

 ヨハンの言葉を遮った叫びは、小さくなって、最後は絞り出すように紡がれる。

「ごめんなさい」

 力なく笑ったノアは、掴まれた腕を振り解き、細い路地を走って行く。はっとして追いかけようと足を踏み出したヨハンの耳元で、アルマの柔らかい声ではない、苛烈な声が響いた。

『おい!返事をしろ!!聞こえねぇのか、ダンテ!ヨハン!!』

「~っ、うるせぇなババァ!」

 キィンとする耳を押さえながら、ヨハンが怒りで叫ぶと、ドレイクが息を吐くのが聞こえてくる。

「何故通信に出ないんだ。まぁいい、報告しろ」

「っ……情報屋の情報通り、ポイントでベルフェゴールに遭遇した」

 冷静な声で告げると、通信越しでもドレイクがヨハンの次の言葉を待っている気配がする。

「急襲を受け、ダンテが奴を食い止めるために残った。ノアは錯乱してどこかへ走ってった……以上だ」

 そう告げたヨハンの言葉を黙って聞いていたドレイクだったが、しばらく続いた沈黙を破り口を開く。

「そうか。ご苦労だったな、一度本部へ帰還しろ。いいな」

「……ノアは」

「アルマと情報屋に探させる。いいから一度帰ってこい、命令だ」

「了解」

 短く答えると、耳から通信機を外し無造作にポケットへと押し込んだ。ちらりと開いた穴を見やるが、そこからは何も聞こえてこない。

「勝手な事、言いやがって」

 低く呟かれた声は、誰にも届くことなく路地におちた。マンホールの蓋を閉じると、小さくため息をついて踵を返して、イスラフィル本部へと向かった。



「まさかダンテが死んじゃうなんてなぁ」

ヨハンから、ベルフェゴールの足止めをするため、ダンテが下水道に残ったという報告を聞いて、ドレイクの執務机の前に配置されたソファに腰掛けたヴィヴィアンは、あっけらかんとした声をだし、その声がやけに部屋に響いた。その言葉に反応する者は、その場には居ない。ただ言葉もなく俯いたヨハンは、人知れず唇を噛みしめた。

「……それでこの件、ベルフェゴールの危険難度を4に引き上げることになった」

低い声で宣言したヴィヴィアンの言葉にも、腕を組んだヨハンは俯いたままだった。その様子に気が付いているのか居ないのか、ヴィヴィアンは言葉を続ける。

「本来、ランクAのアルスマグナの討伐はポーンのチェイサーにはやらせない事になっているんだが……」

言いかけたヴィヴィアンを鋭く睨むヨハンの視線に、肩を竦めると苦笑いを浮かべる。

「引き下がる訳ないか」

「当り前だろう、ヨハンを外すというならこちらにも考えがある」

口を開きかけたヨハンより先に、執務机に両肘をつき、掌を組んでその上に顎を乗せ、鋭い目つきでヴィヴィアンを見つめるドレイクが言う。その声には、刃向おうという気持ちを一切合財奪うような、身体の芯に震えが来るほどの、怒気が含まれていた。常ならざるドレイクの様子にヨハンは驚いた様子で彼女を見たが、すぐに口端をわずかにあげ、瞳を閉じた。

「キングの貴女に言われてしまってはどうしようもありませんね」

苦笑いを浮かべたヴィヴィアンの獣尾は、毛が逆立って丸くなり、彼が言い様のない緊張に包まれている事が解る。緊張から強張るヴィヴィアンの顔を睥睨していたドレイクだったが、しばらくすると意味深な笑みを浮かべて、それ以上口を開くことはしなかった。そこで追撃を免れた事を理解したヴィヴィアンは小さく息を吐き、ヨハンの方へを視線を向ける。

「それで、あの坊やの行先はわかったのか」

「知らねぇよ……、お前何か知ってんのか?」

「あ~、いや……」

鼻の頭に皺を寄せて、口を尖らせるヨハンに、ヴィヴィアンは頬を掻いて言い淀む。だが、じとりとヨハンに見つめられ、ヴィヴィアンは苦笑いを浮かべて口を開いた。

「実はだな、内の上司から連絡があって、あの少年はうちの上司と一緒に件の公園に居るらしい」

「ロードウェイパークか……何でお前の所の上司と一緒に……」

質問に対して、首を振ることで応えるヴィヴィアンに、ヨハンはそれ以上追及することをせず、口を閉じて頭を振り、鋭い視線で話の続きを促した。

「そして数分前、ロードウェイパーク内で、次元エネルギー値が異常に上昇しているのが観測された」

「あの公園に、居るのか」

ヨハンの言葉に、ヴィヴィアンは頷く。そして、手に持ったタブレット端末を操作して、ヨハンに差し出した。

「そうだ、パーク内のこの位置にシールドを張り、その中で討滅作戦を行う」

パーク地図の広場部分が点滅しているのを見て、ヨハンは2日前、夜の公園で叩きあった軽口を思いだし、細い眉を寄せる。

「そこで、ライカンスロープにも協力を要請して……」

「待て」

告げられた内容を遮ったヨハンは、いつの間にか顔を上げており、鋭い目つきでヴィヴィアンを睨んでいた。

「必要ない、奴は俺一人で潰す」

静かだが、強い意志を感じる声だった。怒りにも似た感情をあらわにするのを見たヴィヴィアンは、目を見開いていたが、しばらくして口元に笑みを浮かべた。

「了解した……と言いたいところだが、お前が失敗したときの為に、ライカンスロープの精鋭にも後詰めとして来てもらう」

「勝手にしろ」

吐き捨てられた言葉に、それまで成り行きを静観していたドレイクが、立ち上がり口を開いた。

「いいや。後詰めは必要ない、ヨハンが失敗するような事になれば、私が出よう」

静かな、しかし否定を許さない声だった。驚いたように振り返ったヨハンは、向けた視線の先で不敵に笑むドレイクと目が合い、苦々しく笑った。そのやり取りを聞き、満足そうな笑みを浮かべたヴィヴィアンはソファから立ち上がると、手を打った。

「了解した。……さて、最終決戦だ」

不敵に笑うヴィヴィアンに、ヨハンは答えない。ただ、自分の手の中で冷たく沈黙する愛銃を、悲痛な面持ちで見つめていた。

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