[ 第四章 遭遇、襲撃] 2
静寂に包まれていた深夜の路地は、DMOの車と消火活動を行う消防車が封鎖し、消防車の赤色のライトが辺りを照らしていた。照明が照らす先はまだ赤々と炎が上がっており、放水が待たれる状態だった。慌ただしい怒声が飛び交うその中を悠々と、長い獣尾を揺らして歩く男が一人。
「ったく、確認がすむまで放水するなって言ってるだけなのに、なんであーも突っかかるかね……」
DMO捜査官のヴィヴィアンは通報を受け、騒然とする現場で一人ぼやいた。よどみなく足を進める先は通報者の元、開け放たれた救急車の後ろの搬入口に腰掛けている少年の元だった。
「やあ、ボク。昨日も会ったね?」
優しげに声を掛けられた少年は、辺りを見回した後ヴィヴィアンの方を見てあからさまに顔を顰めた。
「ノアです。それに、ボクって歳でもないです……多分」
不満げな声を上げたノアは、肩にかけられた薄い毛布を引き上げながら小さく身を竦めた。小さく震える肩を見つけ事件に巻き込まれ、恐ろしい思いをしたのだろうと思ったヴィヴィアンは、その頼りない肩に手を置く。
「テメー、ガキに手ぇ出してんじゃねぇぞ。通報してやろうか」
哀れっぽい様子の少年を慰めようと、手を置いた細い肩を優しく撫でていると、低い声が掛けられ急に後ろ方力強く肩を掴まれ引き離される。己の肩を掴んだ人物を確認することもなく、ヴィヴィアンはだらしのない笑みを唇に浮かべた。
「ヨハンちゃーん、災難だったねぇ」
眉間に深々寄せられた皺は、ヨハンがどれほど不機嫌なのかを物語る。
「……奴に接触したとかすると、ヤベェのは間違いないみてぇだ」
「ふぅん、直接の接触はあった訳か」
手を顎の下にやり、ヨハンからの報告を興味深そうに聞くヴィヴィアンは、品定めするような視線をヨハンに向ける。その視線に気づいたヨハンの宝石のような青色の瞳に、嫌悪感の色が混ざるが、嫌そうに報告を続ける。
「ああ、ベルフェゴールに銃撃は効かねえみたいだが、動きは緩慢で、爆発の熱には過剰に反応した」
「なるほどな、だからヨハンちゃんのお部屋が爆発した、と……今夜宿のあてはあるのか?無いんだったら、家に泊まると良い。宿代はそのカラダで支払ってくれるなら、何泊してもかまわな……」
「ぶっ殺すぞテメェ、こっちはいま腹の虫が悪いんだよ」
「虫の居所が悪い、ね」
「ウルセェ!知ってんだよ!ハゲ!」
腰にそっと腕を回しながら、甘やかな言葉を耳元にかけられる。そんな言葉を聞き終わる前にその腕を振り解き、悪態をついたヨハンは、意味深に笑みを深めるヴィヴィアンをきつく睨みつけた。
不意に封鎖された路地の入口が騒がしくなり、ヨハンが何事かとそちらに視線を向けると、腰にしがみつく消防隊員を引きずって、足早に向かってくる男の姿があった。
「立ち入り禁止です!入らないでください!」
「うるせぇな、関係者だ!……っ、ヨハン!無事か!?」
息を切らせて駆けつけたダンテはヨハンの姿を見て、完全に消防隊員を振り解きヨハンとヴィヴィアンの元に走ってくる。その額には玉のような汗が浮かび、何時もはしっかり整えられている髪は乱れており、ジャケットもよれていて、急いで駆け付けたことが誰の目にもわかった。
ダンテは目を丸くしているヨハンの両肩を掴み、怪我がないかとあちこちを服の上から触るが、思い切り眉を顰めたヨハンにその手を払われ、安心した様子で相方を見つめた。
「わかったから、やめろ」
安心からくる柔らかい視線に耐え兼ねて、ヨハンは視線を逸らして別の方向を見る。その視線の先に怪我も無さそうな少年を見つけて、ダンテはほっと安堵の息を漏らした。
「ノアも無事だったか……良かった」
「あーもう、ヴィヴィアンさん、こんなとこに居た」
二人の無事を確認し、ようやく汗をハンカチでぬぐったダンテの後ろから、まだ少年っぽさの残る男性の声が聞こえて、ヴィヴィアンは笑みを浮かべ手をひらひらと振った。
「おー、シンザくん、ご苦労」
小走りに近寄ってきたのは、頭に生えたふかふかとした三角の耳を、アッシュベージュの髪と一緒に揺らす青年だった。アンバーの瞳は意志の強そうな光が宿り、首の詰まった黒のノースリーブに、赤と黒のチェックのキルトスカート、黒のスキニ―に同色のゆったりとしたブーツ。腰のベルトにはチェーンが、発展途上の筋肉がついた腕には、右の二の腕と左の手首に黒のバンドを付けている。
如何にも若者らしいその青年は、三人の前まで来ると人懐っこい笑みを浮かべた。
「あ、どもイスラフィルの人っすよね。オレ、ライカンスロープのシンザって言います。DMOから要請あって、今回ベルフェゴールの追跡……を……」
「……?何だよ」
笑顔で自己紹介したシンザは、その途中、ヨハンの顔を見て言葉を途切れさせた。不審そうに眉を顰めたヨハンが首を傾げると、シンザは赤面して慌てたように両手を顔の前で振った。
「ぅあ、いや、何でもねー…ない、です」
しどろもどろになりあたふたしているシンザを不審そうに見つめた後、ヨハンは興味なさ気にシンザから視線を外してダンテに視線を上げる。見上げられたダンテは初め目頭を押さえていたが、、目をに三度瞬かせて
「あ、え、えと……それで、追跡するにあたって聞きたかったんですけど、何か気付いた事なんかはなかったですか」
「あー、いや。追うのに役立ちそうな事は特に……いや、そう言えば」
問いかけに対し首を振りかけたヨハンだったが、頭に引っかかる心当たりを、瞳を閉じて思案する。ベルフェゴールの動きを一つずつ思い返し、そうして思い当たったのか、頬を上気させたままのシンザに向き直る。
「あいつを部屋で迎撃しようと、玄関の前で待ち構えてたら、急に風呂場の方から現れやがった。其れの動きは遅かったくせに……何でそんな芸当ができたのかはわからねぇが……役に立つか?」
「はい!すごく!」
首を傾けたヨハンの言葉に、シンザは少し前のめりに頷いた。そして腰に手を当てて、「とすると……」と、何かを呟きながら踵を返す。
「そいつ、やっぱり逃げてますね」
「何でわかるんだよ」
「ニオイっすよ、アパート中で嗅いだ奴のやべー臭いが、ヨハンさんのお部屋の、排水溝の所で急に途切れてた。おそらくそいつ、下水から逃げてます」
「……でもあの巨体だぞ?」
「そこはわからないんすけどね……」
次々投げかけられる疑問に、ヨハンを見ないまま答えたシンザは、足元にあったマンホールの前にしゃがみ込む。少しの間そこに座って、マンホールの取手に手を掛けたまま止まっているシンザが、何をしたいのか察したのか、ダンテはマンホールに近づき、素手でマンホールを持ち上げる。
横から不満そうな顔でダンテを見上げたが、ダンテと視線が合った瞬間、獣尾が一回りほどふわりと大きくなり、慌てたようにダンテから視線を逸らして、深く暗い穴を覗き込む。
「ココから、焦げ臭いにおいが上がって来てる……こっから、追跡することになりそ……」
「おーん、じゃあ頼むわ」
シンザの言葉を最後まで待たずに、ダンテがシンザの首根を掴み、マンホールの上へと吊り上げる。そのときのダンテの顔は、ヨハンからは確認できない。
「いってこーい」
「え、あ、うわあああああああぁぁぁ……!」
無情にも首根を掴む手は離され、手足を縮こまらせ目を瞬かせていたシンザは深い穴へと消えた。無言のダンテによってマンホールが閉じられる直前、その隙間からキャイン!と犬のような哀れっぽい悲鳴が聞こえた。
「アンタ、鬼か……」
目の前で起こった一連の出来事を呆然と見つめていたヨハンは、いつもと変わらぬ様子で振り返った相棒に力なく言うと、ダンテはいつもと変わらぬ様子で目を瞬かせ、首を傾けたのだった。
「……ところでお前は何で俺の尻を触ってるんだ」
首を傾けていたのも束の間、ダンテが額に青筋を立てて振り返った先には、厭らしく笑うヴィヴィアンが居た。
「折角どっちもそろったんだ、堪能しない手はないだろ?」
「うん?……よくわかんねぇけど、ヨハンに手出すのはやめろよ。繊細だから。」
尻に回された手を掴みあげて離させた後、憮然とした様子でヴィヴィアンに言葉を返すと、ダンテは踵を返してノアのいる救急車へと歩いて行った。
「……怖いなー、そんな顔しなくても、そこまで嫌なら手出さないって」
「チッ……、これ以上報告することはねぇよ、あのビスティアのガキに、追跡の結果はイスラフィル本部で聞くから、明日来てくれって伝えといてくれ。じゃあ帰れ、淫獣」
「それはまあ伝えておくが。ヨハンちゃん俺の扱いひどくないか?」
そう呟いたヴィヴィアンの声は、言い終わる前に踵を返し、ダンテの背を追ったヨハンに届くことは無く、騒がしくなる現場の声に溶けて消えた。
◆
「さあ二人とも上がって、自分の家だと思って楽にしてくれていいからな」
ウインクをしながら振り返るダンテに促されるまま、ヨハンとノアは玄関をくぐり部屋の中へと入って行く。玄関を抜けてすぐ左に曲がる廊下を、右手にある二つのドアを見ながら曲がると、大きめのリビングにつながっていた。部屋の中は綺麗に整頓されており、部屋の奥の角に斜めに配置されたテレビの前に広めのローテーブルと、それを囲むようにソファが置かれていた。
「……あの、広いお部屋ですね」
入った瞬間にノアはぎこちない笑みを浮かべ、ダンテを見上げる。ダンテは眉を困らせたまま笑みを浮かべ、二人をソファに座るよう促した。
「春先だけど外寒かったろ、温かい飲み物でも入れるから二人とも座ってな」
二人がソファに座る前に、ダンテはソファの背面にあるシステムキッチンの前に立ち、慣れたようにエプロンをつける。
「あ、ヨハン風呂行く?行くなら寝室の奥」
「あーそうだな、入る……」
「わかった、後で着替え持ってく」
どかりとソファに身を投げ出していたヨハンは、ダンテの言葉を受けてげんなりした表情で立ち上がると、着替えを持っていくという言葉を背中で受け、後ろ手に手を振り廊下の奥の扉へと姿を消した。
「ノア、お湯吹きこぼれそうなら止めておいてくれ」
ヨハンが浴室へ向かってしばらくした後、水を入れたケトルを火にかけたダンテはそう言って、俯いたまだ小さな背中を見やったが、返事はなかった。ダンテは肩を竦めてガスコンロの火を弱め、ヨハンのいる浴室へと向かった。
ダンテが寝室から適当に自分の服を手に取り、浴室のドアに近づくと、すでに中からは水音が聞こえていた。棚に服とタオルを置きながら、浴室内に居るヨハンへと声を掛ける。
「ヨハン、ここに服とタオル置いておくから、使ってくれ」
「おう、わかった」
そのままダンテが洗濯籠の中に突っ込まれたヨハンの服を回収していると、シャワーの音が止まり、控えめな水音が聞こえてくる。
「あいつ、どうだった」
「何の反応もなしだったけど……気になるか?」
ダンテの言葉に、ヨハンからの返答はない。再び聞こえてきたシャワーの音を聞いて、ダンテは肩を竦めて浴室を後にした。
洗濯物をランドリールームに置き、リビングに戻ったダンテは、俯いたままのノアの様子を横目に見ながら、火にかけたケトルの様子を確認する。湯が沸いている事を確認すると火を止め、息を吐き出してノアを見る。
「……」
「……、ノア」
静かな声で呼びかけられたノアは、キッチンのある方を振り返る。ダンテは調理台に体重を預けて腕を組み、真摯な瞳をノアに向けていた。
「ハグしようか」
「……へ?」
真面目な顔で告げられた言葉に、ノアはぽかんと口をあけ、そこから気の抜けた声がもれる。
「……あ、はは……、励まそうとしてくれてるんですよね、すみません。僕、大丈夫ですから……」
真顔で見つめてくるダンテに向かって、ノアは笑うのに失敗したような表情を浮かべた。振り返ったまま俯こうとしたノアの視界に何かが動くのが見えて、そちらに視線を向けるとダンテの胸板が目の前にあった。そのまま力強い腕で抱き寄せられ、その腕の中にすっぽりと納まる形で抱き上げられると、ノアは抗議の声を上げる。
「うわ近っ……何ですかやめ」
「何があった」
表情は伺えなかったが、静かでどこか怒っているような、強制力のある低い声だった。怒っているようでもあるのに、どこか心地よさすら感じさせるその声に、ノアの胸中に渦巻く後悔が関を切ってあふれ出す。
「逃げて、って言ったんです。【助けて】じゃなくて、【逃げて】って」
「……」
そう言ったノアに、ダンテは答えない。
「僕は……僕はもしかして……」
シャノンの事を言っているのだろうと、ダンテはなんとなく予想した。嗚咽に変わっていく声を、その背を優しく撫でて天井を仰ぐと、大きく息を吐き出す。
「別にいいんじゃないか?」
「え……」
予想だにしない言葉に、ノアは反論しようと顔を上げる。困ったような笑みが向けられていて、
「だから、シャノンの事だ。お前がそこまで気にする必要なんてないだろ」
「でも、シャノンさんは僕に……!」
ノアの頭の中にフラッシュバックしたシャノンの優しげな笑みが、最後に自分を逃がしてくれた時の恐ろしい姿にすり替わる。固く目を閉じるノアの耳に、深いため息が落ちてくる。
「お前に、優しく話しかけてくれた、か?……それで?」
「何を……」
言うんですか、と続くはずだった言葉は、口に出すことができなかった。
「顔と名前しか知らない女の為に、そこまで思いつめる必要なんて無いだろ」
短い付き合いのなかで、ノアが彼に抱いたイメージとはかけ離れた、まったくの無表情で見つめてくるダンテの顔が、ノアの目の前にあった。日の光の下で宝石の様に輝いたはずの瞳に、昼間の陽気な彼の様子はない。底の見えぬ巨大な湖の真ん中に一人取り残されるような、そんな体の奥が冷えるような感覚が、ノアの身体に震えを起こさせ、自然と視線を外させる。
「……お前がするべきことは、悔やんで自責の念に囚われる事じゃない。彼女の勇気に感謝して、思う存分泣いたら、優しくしてくれたシャノンの事を、ずっと覚えておいてやることだ」
俯いたノアの頭に、ダンテの優しげな声が降ってきて、ノアは合わせられなかった視線を上げる。そこにあったのは、近い距離からノアを見つめてくる優しげな瞳で、そこに涙は浮かんでいないが眉を困らせた表情は、なんだか泣いているようだとノアは思った。
そんな表情を見て、胸中に渦巻いた嫌な予感と胸騒ぎはどこかへと霧散し、ノアの顔には笑みがこぼれる。
「そんな顔で、そんなことを言うんですね……ちょっとだけ、意外でした」
「あのなぁ、俺を優しい人間だと勘違いするのは勝手だが、この街に手放しの善人なんて……」
「違いますよ。僕より泣きそうな顔で、何を言ってんですか」
ノアの言葉でおもいきり眉を顰めたダンテに、思わず笑みを零してその逞しい肩に顔を埋めると、ダンテは片腕で軽々とノアを抱えたまま、左手で後頭部を掻いた。
「おい!ダンテ!テメェ、フザケてんのか!」
もう聞きなれてしまった怒声が、寝室の奥からリビングまで響いて来たと思ったら、荒々しくドアが開かれる。そこに立っていたのは、ダンテの物であろうゆとりのあるTシャツに、だぼついたハーフパンツを着て、頭から滴を垂らすヨハンだった。
「うわ、どうしたんだヨハン。ちゃんと頭拭かないと、風邪ひくぞ?」
腕の中に納まったノアを赤子でもあやすように、ポンポンと背を叩きながら揺れているダンテを見たヨハンは、一瞬勢いをそがれた様子で立ち止まった。
しかし、ダンテの困ったような優しげな笑みが、だんだんとその性質を変えるのを見て、顔を赤らめながら憤慨して小さな布をダンテに向かって突きつけた。
「何なんだよこの下着!ヒモじゃねえか!……ヒモじゃねぇか!!」
突きつけた布を広げ、その形を改めて確認したヨハンが、ダンテに向かって声を荒げる。臀部部分が二本の紐で、下部を支えるような形になった、布面積が明らかに少ない下着だった。
「あのなぁヨハン、それはジョックストラップっていってごく一般的な下着の一種……」
「そんな訳ねぇだろ、テメェ俺が何も知らねぇと思って!」
ノアにはヨハンの顔を見ることはできなかったが、彼がものすごく憤慨しているのが解る。そして、ダンテのほんのわずかな苛つきも、腕の中に居るからなのか感じ取れてしまった。
「ノア、ちょっと降りてな。あったかい飲み物用意するから」
声はとても優しいのだが、目が笑っていない。ノアは頷いて、床に降ろしてもらうと、そそくさとソファーの上へと避難する。
「おい」
キッチンに向かった相棒の背を追い掛けて、怒っているヨハンをよそに、ダンテは手際よくカップに用意したココアに湯を注いでいく。カップは2つ、ほこほこと湯気をたてるカップから甘い香りが辺りに漂う。
「新品のパンツなんて、そうそうストックしてあるわけないだろ。それに想像つかないだろ?急に相棒が身一つで泊まる事になったから、パンツ貸す日が来るなんて」
呆れたように、静かな声で言ったダンテに、ヨハンは言葉を詰まらせる。そんなヨハンに手に持ったカップの内一つを手渡すと、もう一つをノアの方へと持って行って手渡した。
ダンテはヨハンを振り返ると、言葉を詰まらせたまま自分を見つめてくるヨハンの手の中で、小さくなった下着が目に入る。悔しそうな表情のヨハンを見ていたダンテだったが、ふと何かに気が付いた様子で首を傾ける。
「……待て、ヨハンお前それ手に持ってるってことは、もしかして今ノーパンな訳か?」
初めはきょとんとして言ったダンテだったが、言葉の最後に意地悪い笑みを浮かべた姿に、ヨハンの顔は見る見るうちに赤くなる。思わず、といった様子で握りしめていた下着をダンテに投げつけるのを、ダンテは声を上げて笑い、投げられた下着をキャッチすると、ヨハンの所まで持っていき、笑顔のままノアにも聞こえる声で言う。
「明日にはお前の服も乾いてると思うから、それまでノーパンでも俺は構わないぜ」
「バッ……!お前な!」
すぐに自分の手の中に戻ってきた紐のような下着で、背を向けたダンテの背中をはたく。心底楽しそうに笑うダンテは、様子を窺っているノアにウインクをして、「俺も風呂~」と寝室の扉へと姿を消した。その背を見送った二人は、ドアが閉まった後に自然と顔を見合わせる。
「何だよ」
眉間に皺を寄せて睨むヨハンだったが、それに不思議と怖さはなく、ノアは少し意地悪気に微笑んだ。
「……履いてきてください、パンツ」
「何なんだお前はよぉ」
照れ隠しに拳でノアの頭をぐりぐりと押さえた後、ヨハンは慣れたように別の部屋へと入って行った。おそらくそこがトイレなのだろうとぼんやり思ってから、ノアは手の中で湯気を立てるココアに口を付けた。
「……あまい」
やけに甘く作られたココアで、ノアは自分の身体がじわりじわりと温められるのを感じた。




