悲しき知らせ
読んで貰えると嬉しいです。
9月4日午前5時13分。
ゲイルは、けたたましく鳴る電話のベルの音で目を覚ました。
電話に出てみると、掛けてきたのはカルロスで、何やら慌てた様子で早口に話し、今にも泣き出しそうな声で、
「とにかく、今すぐジョーンズ博士の研究所に来てくれ」
と言い、ゲイルが返事をするのも聞かずにがチャリと電話を切ってしまった。
ゲイルは、少しの間受話器を持ったまま立ち尽くしていたが、すぐに受話器を置き急いで着替えてジョーンズ博士の研究所へと向かった。
研究所の前まで来ると、そこには救急車やパトカーが停り、ゲイルはそれらを横目に急いで研究所へ入って行った。
途中、何人かの警官に呼び止められたが、何とか話しをして入れて貰い、急いでカルロスの居る場所を探した。
廊下を早足で歩き、何があったのかと考えていると、昨日来た際ルークと共に通された部屋の前の廊下に差し掛かり、ゲイルが立ち止まって見てみると、カルロスが部屋の前で膝を抱え座り、腕の中に顔を埋める様にして声も出さずに泣いていた。
ゲイルが心配になってカルロスの許に歩いて行くと、それに気付いたカルロスは、一度鼻を啜り涙をぐいっと右手で拭い、顔を上げて少し枯れた声で、
「来てくれたんだな……」
と言った。
「何があったんですか?」
ゲイルがカルロスの隣に寄り添う様に座りそう訊くと、カルロスは深く溜め息を吐き、再び鼻を軽く啜り、思い出す様に話し始めた。
「……今朝、早い時間にジョーンズ博士から突然電話があったんだ。こんな朝早くに掛けてきたもんだから、俺、何かあったんだと思って心配になってすぐに、どうしたんですか?って訊いたんだ。そうしたら、博士が消え入りそうな程の弱々しい声で、私は駄目だ、もうすぐこの命も終わってしまう。きっと、私の妻を殺した者に私も殺されてしまうのだろう。頼む、私が死んだら私の体を調べて必ず死の原因を突き止め、これ以上被害者が出ない様にしてくれって言ったんだ。俺、すぐには博士の言ってる事理解出来なくて、どういう事なんですか?って訊いたんだ。そうしたら、急に、電話の向こうから博士の苦しむ声と、ドサッっていう何かが倒れる音がして、俺、こんな事してられないって、急いでここに駆け付けたんだ。そして、急いで博士を探した。色々な部屋を見て、それでも居なくて、この部屋にだけ明かりが点いている事に気付いて入った。そう……そうしたら……博士が、博士が受話器を握ったまま倒れていたんだ」
「そんな……」
俯き涙を堪える様にしているカルロスから離れ、部屋の中へと行こうとゲイルが立ち上がりゆっくりと歩き出すと、カルロスはゲイルの手を掴んで止め、
「行っちゃダメだ。見ない方が良い」
と、ゲイルの方を見て首を横に振った。
「それに、博士の遺体はもう運ばれてそこには無いんだ」
それなら何故、部屋の中へ入ってはいけないのかとゲイルは訊こうと思ったが、ジョーンズ博士の死因が本人の言う様な事なら当然の事だなと訊くのを止め、再びカルロスの隣に座り、カルロスにハンカチを手渡した。
カルロスは、ハンカチを受け取ると、深く溜め息を吐き、
「俺、博士に何も出来なかった。博士の異変に気付く事も救ける事も出来なかった。いつも傍に居たのに。何も……何も出来なかった……ロイズの時だって……」
と、再び込み上げてきた涙を止める事なく流し、
「くそっ」
と俯いてハンカチで涙を拭った。
「ボクだって何も出来ませんでしたよ」
ゲイルは。そう言いカルロスの方を見ると、少しの間をおいて急にカルロスの頭をポカリと殴り、
「いつまでそうしてるつもりですか、カルロスさんはもう大人なんですからしっかりして下さい!」
と、カルロスを鼓舞する様に叫んだ。
カルロスが驚いた様に顔を上げると、ゲイルは軽く溜め息を吐き、済まなそうに、
「急に殴ったりして済みません」
と謝り、
「でも、ボク、カルロスさんに分かって欲しかったんです。このままイジイジしていたら駄目だって。だって、そうでしょう?このまま何も出来なかったって、ウジウジしていても博士の為にはならないじゃないですか、でも、悲しみを堪えて考えれば、これからでも博士の為に出来る事がある筈なんです。だから……だから、しっかりして下さい」
と訴えた。
涙目になりながら必死になって訴えるゲイルの姿を見ると、カルロスは軽く溜め息を吐き、
「そう言われればそうだな、こうしてウジウジしていても何もならないな。大人の俺がしっかりしないといけないし、それに、博士にも頼まれちまったしな、原因を突き止めてこれ以上被害者が出ない様にしてくれって」
と涙を拭い、
「よしっ!」
と勢い良く立ち上がり、
「お前も手伝ってくれるよな?」
とゲイルの方を向いた。
ゲイルは、当たり前だと言う様に笑って立ち上がり、
「勿論ですよ、頑張りましょう!」
と、カルロスとガッチリ握手を交わした。
それから、ゲイルとカルロスは、ジョーンズ博士の集めた沢山の資料を読み、何か原因になる物は無かったのかを探した。
亡くなった人間に共通していたのは、死因となり得る病原菌が見付からなかった事と、体が何者かによって内側から食い破られていた事。
そして、どの遺体にもその体を食い破った者の痕跡も何も残ってはいなかった。
「そういえば、ジョーンズ博士の死因って何だったんですか?」
大量の資料から目を離し、カルロスの方を見てゲイルが訊くと、カルロスは資料を見たまま、
「まだ分からない。さっき知り合いの検視官に電話で、何か見付かったら連絡をくれる様に頼んでおいたから、その内知らせてくれると思うぞ」
と言った。
「そうですか」
そう呟き、ゲイルが資料の方に視線を戻し考え込んでいると、急に部屋の隅の方に置いてあるファックスが鳴り、紙がスルスルと出てきて、カルロスはそれに気付くと資料を机に置いて、急いでファックスまで駆け寄り、受信を終えて止まった紙を取り、そこに書かれた文字を読み始めた。
「あれ?おかしいぞ……今までと違う物が書かれてる……蜂と思われる虫を体内で一匹発見した?」
「蜂?どういう事ですか?」
ファックスで送られてきた紙を不思議そうに見ているカルロスの許にゲイルが歩み寄ると、カルロスは紙を見たまま、
「それがな、博士の遺体から一匹蜂の様な虫を発見したと書かれているんだ。写真を撮ってファックスで送ると書いてあるんだが、本当にどういう事なんだろうな?」
と呟く様に言い、再び音を鳴らし紙を出し始めたファックスを見詰めた。
ファックスからゆっくりと出てくる紙を見ながら、ゲイルは小首を傾げ、何かを思い付いた様に、
「この虫、見た事ありますよ!」
と叫んだ。
「本当か?」
ファックスから、虫の写真の印刷されて出てきた紙を取りながらカルロスが訊くと、
「本当ですよ。昨日ここの敷地にある花壇で見たのがこれなんです」
と、カルロスの持っている紙を覗き込み、
「でも、それがどうしてジョーンズ博士の遺体から出てきたんでしょうね?」
と考え込んだ。
「そうだな……もしかしたら、こいつなんじゃないか?人の体食い破って殺してるっていうのは……」
「そんな、こんな小さな虫にそんな事出来ませんよ。それに、もしこの虫が本当に博士達の死因だとして、どうやって体内に入ったって言うんですか?」
「そういえばそうだな……ん?でも、待てよ……確か、ロイズが死ぬ数日前、蜂に刺されたとか言っていたな……しかも、その後体の至る所に腫れ物が出来て大変だったんだ」
「腫れ物?どの位の大きさでした?」
「大きさ?……確か、最初は豆粒程度の大きさしかなかったんだけどな、どんどん大きくなって……最終的には親指の先位の大きさになっていたぞ。でも、それがどうしたんだ?」
「もしかしたら、もしかしたらですよ?娘さんは、その時蜂によって体内へ卵を産み付けられていたんじゃないですか?」
「卵……だと?」
「はい。その蜂がこの虫の事で、被害者が卵を産み付けられたのならば、さっきカルロスさんが言っていた、虫が人の体を食い破って殺したという事の説明がつきます」
「……確かに、成虫が体内に入るのは無理でも、卵なら出来るかもしれない……でも、そんな事可能なのか?」
「可能かどうかは実験でもしなければ分かりません。でも、それ以外には考えられないと思うんです。現に、こうして博士の体内からこの虫が発見されているんです、それ以外には何も発見されていませんし、そうとしか考えられないじゃないですか」
「そうだな……何とかして確かめられないだろうか……」
「生きたこの虫さえ見付かれば、実験する事は可能ですよ」
「まさか、誰かを刺させて確かめるって言うのか?」
「違いますよ、牛肉か豚肉を使うんです。牛や豚も被害に遭っているようですから。肉屋に行って塊肉を買って、それを虫と一緒に透明な容器に入れて観察すれば恐らく確かめられます」
「……そ、そうか……そうだな。じゃあ、その方法でやるとして、生きた虫と肉を用意しないとな。……まずは、ここの庭でこいつを探して、それから肉を用意するか……刺されない様に気を付けねぇとな……」
「そうですね。それに、生きたまま捕えないといけませんね」
「あぁ」
カルロスとゲイルは少しの沈黙の後、それぞれ蓋の付いたガラス瓶と虫取り網を手に研究所を庭へと出て行った。
はじめましての方もそうでない方も読んで下さりありがとうございます。
何だか大変な事になってますね。
どうなるんでしょう?(笑)
楽しみです!
では、次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございました。




