小さな者の悲しき告白
読んで貰えると嬉しいです。
「いらっしゃい」
買い物を終え、ゲイルがカルロスと共に彼の家へ行くと、彼の妻が優しく出迎えてくれた。
カルロスの奥さんは娘によく似て綺麗で優しそうな人で、
「急に押し掛けてしまったようで済みません」
と謝ったゲイルに、
「いえ、良いのよ。うちの主人が誘ったんですもの、気にしないで」
と微笑みゲイルを中へと招き入れた。
「私の名前はエレーナよ」
「ボクはゲイルといいます」
「ゲイル、宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しく御願いします」
廊下を歩き、リビングに着くと、カルロスは荷物を持ったまますぐにキッチンへと歩き出し、
「今から俺が美味いもん作ってやるから、二人は出来るまで休んでろ」
と言った。
「手伝わなくて良いんですか?」
ゲイルが、驚いた様にカルロスの方へ向き訊くと、カルロスはニヤリと笑い、
「お前、お客さんだろ?そんな事しなくて良いんだよ。それより、エレーナと話しでもして待っててくれ。飲み物もすぐ持ってくから」
と言い、いそいそとリビングを出て行った。
ゲイルは、カルロスに予定外な事を言われて言葉を失い、少しの間黙って立ち尽くしていたが、何だ、奥さんの話しを聞かせる為に食事に誘ったのか、結局自分では聞いてやらないんだな、と少し呆れつつソファーに座り、暖炉の上に並べ飾られたカルロスの家族写真に目をやった。
とても楽しそうに写る少女の姿を見て、あんなに小さいのに可哀想だなと思い写真を見詰めていると、ゲイルの向かいのソファーに座ったエレーナは、
「その小さな女の子は、私達の娘なのよ。四日前に死んでしまったのだけれど」
と言い、悲しげに娘の写る写真を見詰めた。
「ここへ来る前に、ご主人にお聞きしました」
「そう……家族を一人失っただけで、どうしてこんなに寂しくなるのかしらね」
「それは……家族にとって、その人の存在がとても大きかったからじゃありませんか?」
「……そうね」
「でも、ボクは、奥様には失礼ですけど、それが……そう思える事が羨ましいです」
「どういう事?」
不思議そうな顔でエレーナがゲイルの方を向くと、ゲイルは首に掛けたネックレスに付いているロケットを握り、
「ボクにはそんな風には思えなかったからです」
と呟いた。
「ボクの祖父は、ボクの事をとても小さな頃から育ててくれた、言わば育ての親だったんです。でも、ボクは、そんな祖父が死んでしまっても、奥様やご主人の様に悲しむ事も寂しく思う事も出来なかったんです」
ゲイルが、深く溜め息を吐き、エレーナが何も言えず黙っていると、
「どういう事だよそれ!」
と、飲み物を持って来たカルロスがゲイルの傍に駆け寄り、納得いかないという顔でゲイルの顔を覗き込んだ。
「さっき、俺と話した時お前言ったじゃないか、俺の気持ちが分かるって。自分の悲しみは、俺の悲しみに比べたらちっぽけだけど、でも、分かるんだって言ったじゃないか!あれは嘘だったのかよ!」
「そうです。嘘を……ボクは嘘をつきました」
「何だよそれ、最悪じゃないか!」
「……」
「悲しむ事も寂しく思う事も出来なかったのは何故?」
俯き黙ってしまったゲイルを見て、エレーナが優しく訊くと、ゲイルは俯いたままピクリとも動かずに、
「血の繋がりの無い人だから」
と呟いた。
「それでも、貴方の事を小さな頃から育ててくれたのでしょう?」
エレーナが優しくそう言うと、カルロスは再び黙ったゲイルの胸ぐらを怒って掴み、
「そうだ、お前の祖父さんはお前を育ててくれた、血は繋がってはいなくても家族だったんだろ、それなのに血が繋がってないだけで、死んでも悲しまないなんてお前最低だ!一瞬でも良い奴だと思った俺がバカだったよ!」
と怒鳴り、ゲイルを突き放しキッチンへ戻る様に歩き出した。
「アナタちょっと待って。そんな風に言ったらこの子が可哀想よ」
エレーナが立ち上がり、宥める様にカルロスの傍へ行くと、ゲイルが急に震えだし、
「ボクだって……ボクだって本当は血の繋がりなんてどうでも良かったんだっ!」
と叫び、しゃくり上げる様に話し出した。
「でも、ボクは知ってしまった。ボクがどうして血の繋がった親にではなく、血の繋がりの無い祖父に育てられたのか……。それが、両親に売られて祖父に引き取られたからだって知ってしまったから……」
「そんな……どうしてそんな事に?」
「父も母も、ボクが……ボクの姿が気味悪いと思ってた。どっちにも似てないし、左右の目の色が違う、だから売ったんだ。こんな子供育てられないって。祖父はそんなボクを、頭の良さだけで買ったんだ。愛情なんて無かった。祖父が欲しかったのはボクでなく、自分の研究を引き継ぐ優秀な人間。ボクの頭脳だけが欲しかったんだ。だから、ボクは祖父が死んでも悲しくなかった……なれなかったんだ!」
そう言った途端、今まで抑えるように泣いていたゲイルが、抑えきれずに突然大きな声で泣き出した。
突然の事で、カルロスもエレーナも言葉を失い、少しの間黙っていたが、泣き続けるゲイルを見ると、エレーナはゆっくりとゲイルに近付き、
「そんな辛い事を一人で抱え込んでいたのね、可哀想に。でも、大丈夫、もう貴方は一人なんかじゃないわ」
と囁き、優しくゲイルを抱きしめた。
すると、ゲイルは落ち着いた様に声を出して泣くのを止め、少しの間ぐすっぐすっと小さく啜り泣き、それも徐々に静かになり、泣き疲れた様にエレーナの腕の中で眠りについた。
「俺、そいつがそんな辛い思いをしていたなんて全く知らなかった……それなのに俺、酷い事言っちまった……」
カルロスが肩を落としてエレーナの方を見ると、エレーナは微笑み、
「そんな風に悪い事をしたと思うなら、この子が目を覚ました時にでも謝れば良いのよ。この子なら、きっと許してくれるわ」
と、ゲイルの頭をそっと撫でた。
「そうだな……そうするよ。エレーナ、俺は料理を作ってくるから、ゲイルを客間のベッドに寝かせてきてくれ、頼んだよ」
カルロスは、持っていた飲み物をソファーの前のテーブルに置き、エレーナの頬に優しくキスをし、そっとゲイルの頭を撫でると静かにリビングを出て行った。
はじめましての方もそうでない方も読んで下さりありがとうございます。
人生色々あるんですね。
うん。
ゲイルには幸せになって貰いたいな。
なんて思いながら書きました。
読まれた貴方はどう思いましたか?
では、次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございました。




