出会い
読んで貰えると嬉しいです。
9月3日午前10時48分。
研究所の敷地にある花壇の傍に、マスクをして白衣を着た、左右の瞳の色が違う不思議な雰囲気の少年が、しゃがみ込んで花壇に咲いている花に止まった虫を見詰めている。
少年は、風になびく金色の髪が視界を軽く遮るのを気にもせず、丸く大きな瞳を更に大きく見開き、虫を一心不乱に観察し素早くスケッチしている。
少年が手を止めスケッチブックを仕舞い、虫をもっと近くで見ようと顔を近付けると、突然その後ろに大きな影が現れ、彼の白衣の後ろ襟を掴み軽々とその体を持ち上げ、影の主の男は少年の顔を自分の方に向けさせ睨み付けた。
「おい、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。分かるか?つ・ま・りだ、ここは餓鬼の遊び場じゃねぇって事。遊ぶなら他所で遊べ!」
少年を持ち上げ睨み付けたまま男がそう言うと、少年は全く気にせず男の着ている白衣に着いた名札に目をやり考え込んだ。
「カルロス・レスティック……ジョーンズ博士の助手ですね……。カルロスさん、これが貴方の初対面の人間に対する挨拶の仕方ですか?全く信じられませんね。大人として……いえ、人として、これはあるまじき行為ですよ」
少年が溜め息混じりにそう言うと、カルロスと呼ばれた男は少年を掴んだまま、
「煩い、風邪引いてる餓鬼は大人しく家で寝てろ!」
と出口の門へと歩き出した。
「風邪なんて引いてません。外の空気が汚れているのが悪いんです」
「どっちにしても、ここは餓鬼の来る所じゃねえんだ、さっさと出て行け」
「……さっきから大人しく聞いてれば、餓鬼餓鬼って、そりゃあボクは子供ですけど、ボクにもちゃんと、ゲイル・R・ハイネストっていう名前が有るんですから、餓鬼って呼ぶのは止めて下さい。それに、いい加減その手を離してくれませんか?自分で歩けるんですから」
ゲイルと名乗った少年が抗議の目でそう言うと、カルロスは、
「ちゃんとここから出て行けよ。出て行くまでここで見張ってるからな」
と言い、ゲイルを下へ降ろした。
ゲイルが尻餅をつく様に下へ落ち、
「もう少し優しく出来ないんですか?本当に乱暴な人ですね」
と言いながら立ち上がり、溜め息を吐いて白衣に付いた汚れを叩き落としていると、
「カルロス君、こんな所で何をしているんですか?」
と後ろから声がし、銀髪で緑の瞳をした白衣姿の優しそうな老人が車椅子に乗り現れた。
カルロスは、その声を聞くと急に緊張した顔になり、ピシッと背筋を伸ばして老人の方へ向き直り、
「じょ……ジョーンズ博士。えーっとその……このが……少年が敷地内で勝手に遊んでおりましたので、ここから出て行く様に注意していたのです。博士はどちらへ行かれるところだったのですか?」
と、ぎこちない笑顔を見せた。
ジョーンズ博士と呼ばれた老人は、鼻の下に整えられた、髪と同じ色の髭を摩り、
「私は、客人をお迎えする為に来たんですよ。そちらに居る、キミが追い出そうとしていたゲイル博士をね。やあ、ゲイル博士、お久しぶりですね、お元気でしたか?」
と、ゲイルの方へ微笑みかけ、右手を差し出した。
ゲイルは、白衣を叩くのを止め、
「お久しぶりです、ジョーンズ博士。又、お逢い出来て光栄です。それに、以前とお変わりない様で安心しました」
と微笑み、右手を白衣の綺麗な部分で拭うと、ジョーンズ博士の手を握り返した。
カルロスが、そんな二人を見て驚きつつ、
「か、彼は博士のお知り合いだったのですか?」
と訊くと、ジョーンズ博士は軽く溜め息を吐きカルロスの方を見て、
「そうですよ」
と答え、ゲイルの方に済まなそうに向き直った。
「私の助手が大変失礼な事をしてしまった様ですね。こちらからお呼び出ししておきながら申し訳ありません」
「いえ、良いんですよ。白衣は汚れてしまいましたが洗えば綺麗になりますし、ケガも左手のかすり傷程度で済みましたから。それに、ボクの方も、すぐにお会いしに行かずに、寄り道をしていたのが悪いんですから。それより、ローリング博士はもう来られているんですか?」
「いえ、先程もう少し遅れて来られると連絡が来ましたので」
「そうですか……でしたら、ボクはもう少しだけ外で色々と見ていたいんで、ローリング博士が来られましたら、呼んで下さい」
「えぇ、分かりました。お好きな様に見て回って下さい」
ゲイルは、ジョーンズ博士の言葉を聞くと、博士に向かって軽くお辞儀をし、花壇の方へと戻って行った。
ジョーンズ博士は、ゲイルが離れたのを見ると、少し厳しい顔でカルロスの方を向き、
「お客様にケガをさせるとはどういう事ですか。いくら彼が子供でも、白衣とそこに着いた名札を見れば、彼がただの子供ではない事位すぐに分かる筈でしょう。それに、もしただの子供だったとしても、優しく扱わなくては。キミも一人の娘を持つ父親なら、それ位分かるはずです。しっかりして下さい。」
と注意し、
「それと、今から恐らく数分後に、ルーク・ローリング博士が来られますが、私は研究所の中に居ますから、彼が来られたらゲイル博士もお連れして私の所へご案内して下さい。呉々も失礼の無い様にお願いしますよ」
と言い、車椅子を動かし研究所へと向かった。
カルロスが、軽く溜め息を吐き花壇の前にしゃがんでいるゲイルの傍へ行き、
「さっきは悪かったな」
と言うと、ゲイルは振り向きもせず、
「分かれば良いんですよ。言い方は別として、謝って頂ければボクは良いですから」
と言い、花壇の花を見ていた。
カルロスは、再び軽く溜め息を吐くと、
「お前すげぇ嫌味言う奴だな」
と呟き、花壇の方を向いた。
「で、お前はこんな所で何やってんだ?」
「さっき、ここで見た事無い虫を見付けたんで、また見に来たんです。でも、もう居なくなっていたんで、何処かに隠れていたりしないかと探しているんですよ」
「ふぅん、で、どんなやつだ?」
「蜂みたいだったんですけど、見た事が無い姿をしていたんです。色は……茶と赤で、大きさは蜜蜂より少し小さい感じでしたが、雀蜂に近い形だったと思います」
「新種の蜂か……しかも赤?気持ち悪ぃ……ま、刺されねぇ様に気を付けるんだぞ」
カルロスは、そう言うと門の方をチラリと見て、
「来たみたいだな」
と呟き、門から入って来た人物の許へと向かった。
そして、その人物の傍へ行き、着ている白衣と名札に目をやり、
「ルーク・ローリング博士ですか?」
と訊き、ルークと呼ばれた男が「はい」と答えると、
「お待ちしてました。ジョーンズ博士は研究所の中におられます。ご案内致しますので、自分に付いていらして下さい」
と言いゲイルを呼び、二人を連れてカルロスを先頭に研究所へと向かった。
はじめましての方もそうでない方も読んで下さりありがとうございます。
長かったですね。
この作品は殆どがこんな感じです。
次からもお付き合い頂けると嬉しいです。
では、次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございました。




