祖父(おや)の顔を知らない孫(こども)
読んで貰えると嬉しいです。
「おい、研究所封鎖されてるじゃないか!」
カルロスが、閉鎖された建物を指さし怒鳴ると、ゲイルはしゃがみ込んで苦しそうに肩で息をし、
「祖父が亡くなってすぐ、ここはもう使わないからと閉鎖されたんです」
とカルロスの方を見上げ、
「そんな、それじゃあどうすれば良いんだよ」
と頭を抱えるカルロスに、
「大丈夫です。その資料はボクの家に運んであります。ここから近いですし、行きましょう」
と言い、立ち上がって息を整え歩き出した。
「それならそうと早く言え」
ゲイルの横を歩きながらカルロスがそう言うと、ゲイルは、
「ボクは言おうとしました。最後まで人の話しを聞かずに突っ走ったカルロスさんが悪いんですよ」
と言い、深く溜め息を吐いた。
それを聞いたカルロスはムッとした顔をし、
「お前、俺の事嫌いだろう」
とゲイルの顔を見た。
ゲイルは、何も言わずに黙って歩き、家の前まで着くと鍵を出して扉を開け、
「子供みたいな事言わないで下さい」
と呟き、家の中へと入って行った。
カルロスが、ムッとしたままゲイルに付いて入ると、大量に本棚が並ぶ部屋へとカルロスを案内し、
「この中にあります」
と中へ入った。
「この大量の本の中から探すのか?」
カルロスが、驚いた様にキョロキョロと周りを見回すと、ゲイルは、
「そうですよ」
と棚の方へ行き、資料を出して調べ始めた。
「時間が勿体無いんですから、カルロスさんも早く探して下さい」
ゲイルが本を見たまま言うと、カルロスは軽く溜め息を吐き、資料を手に取り調べ始めた。
「そういえば、お前を育ててくれた祖父さんってどんな人だったんだ?」
「……頭の良い人でしたよ」
「そうじゃなくて、どんな顔してたとか、どんな性格してたかって事だよ」
「……とても優しい穏やかな人でしたよ。……ただ、どんな顔していたかは覚えていませんけど」
「どんな顔していたか覚えていない?どういう事だよ。お前、小さい頃から最近まで祖父さんと一緒に居たんだろ?何で覚えてねぇんだよ」
「それは、祖父がボクの二歳の時に目許を火傷してしまって、それ以来ずっとサングラス掛け続け、死ぬまで外す事が無かったからなんです」
「一度も素顔を見た事無いのか?」
「いえ、一度だけ見た事があるんです。でも、とても小さかったので忘れてしまいました」
「とても小さかったって、今も小さいだろう」
「失礼ですね、その時のボクは二歳、もう10年も前の事なんですよ」
「えっ?って事は、お前今12歳って事か!?」
「そうですよ」
「嘘だろ?俺、こんな小さい12歳初めて見た」
「……口を動かしてないで、手を動かして下さい。さっきも言いましたけど、時間が勿体無……」
ゲイルはそう言いかけて急に持っていた資料を落とし、ふらつく様にしゃがみ込んだ。
「どうした?」
持っていた資料を本棚に戻しカルロスがゲイルの許へ駆け付けると、ゲイルは落とした資料を拾い、ふらつく足で立ち上がり、
「何でもありません、ただの立ちくらみですから気にせず作業に戻って下さい」
と、資料に付いた埃を叩き落とした。
資料を叩くのを止め再び見ようとすると、カルロスは急にゲイルの額に手を当て、
「何が何でもないだ!酷い熱じゃねぇか!」
と怒鳴り、ゲイルの持っている資料を取り上げて棚に戻し、
「何するんですか」
と、困惑するゲイルを抱き抱え、部屋を出て廊下を何か探す様に歩き出した。
「何って、お前を休ませるんだ。資料は俺だけで探すから、お前は大人しく休んでろ」
「何言ってるんですか、ボクは休みません。あんな量の中から一人で探すのは無理です……」
「黙れ、もう決めた事だ。具合いの悪い奴に無理して手伝われても却って足でまといだ。文句を言わずに大人しく言う事を聞け!」
カルロスは、ゲイルの寝室を見付け中に入ると、ゲイルをベッドの上へと座らせた。
納得がいかないという顔をしゲイルが何か言おうとすると、カルロスはそれを手で制し、
「いいか、ここで大人しく休んでろ、分かったな」
と念を押す様に言い聞かせ、ゲイルが諦めた様に口を閉じると、
「ちゃんと見付けてくるから心配すんな」
と、ゲイルの頭を撫で優しく微笑み出て行った。
カルロスが手で行った事を見るとゲイルは溜め息を吐き、着ている白衣の袖を二の腕までたくし上げ、両腕を前に伸ばし見詰めた。
ゲイルの両腕には、虫に刺された跡の様な発疹が幾つもあり、ゲイルはそれを見ると、
「やっぱり刺されてたんだ……」
と呟き、力無くベッドに倒れ込み、掌に顔を埋め声を殺して泣き出した。
はじめましての方もそうでない方も読んで下さりありがとうございます。
大変だ(; ・`д・´)ゴクリッ
では、次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございました。