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カルダーの約束  作者: アヤ
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幽閉の塔

憎しみすら残っていなかった。体の両側から血と共に命が流れ出しているのが分かった。


少しでも長く生かそうとしたのか、雑に縫わては居たが動脈の血の流れは取れられなかった。


カルダーの体はショックで痛みすら感じていない。


「やっと死ねるのか…」


突如左腕の付け根に激しい痛みが襲った。


「ぐああぁぁ!!」


火が押し付けられたのはすぐに分かった、肉の焦げる匂いがする。


「おい、獣みたいな声だな。叫んだ方が楽だが王が聞きつけたら更に残酷な事をされるぞ。これを噛んで耐えろ。」


そう言って木をカルダーの口に無理やり押し込んだ。針の鉄球を入れられた傷がまだ癒えてなかった。力任せに噛み締めたので歯が数本欠けた。


男はガタイのいい兵士だった。


「ここまでしてもまだ生かして苦しめたいのか、もうほっといてくれ、俺は疲れきったんだ」


そう言うと男は険しい表情になった。


「バカか、本当に死にたい奴なんているのかよ。本当は生きたいから懸命に生きてて疲れるんだろう。あの冷酷な王に立ち向かった時のお前見てたよ、死なせないからな」


男は両腕の傷を焼いて止血した。


「変な腐り方するとそれこそ地獄の苦しみだ。痛みはあるが長く続くよりいい、熱も出るが俺が見てるから安心しろ、ここの見張りを仰せ仕った」


「詳しいな、医師の勉強をしたのか」


「今は喋るな、体力が奪われる。知りたい事は回復してから教えてやる。」


カルダーの目から涙が流れた。赤いかと思ったが男がそれを拭った布に赤いものはなかった。


「リン…」


あの音がした、透き通って囁かなのに温かみがある、あの音だ。


「いつから鳴ってなかっただろうか…」


「あ?だから喋るなって」


男の声を最後に深い眠りに落ちた。


目が覚めると少し回復したのか、意識がハッキリしていた。その分の痛みと苦しみがありありと感じられ、目をきつく閉じて耐えるしかなかった。


「今が1番辛いだろうが大丈夫だ。7つ日が落ちれば落ち着く」


「ああ、声が聴けるだけで助かるよ。ずっと無音の中だったからな…」


「知ってる。裁判の時にお前の旅の話を聞いた」


「居たのか、あの場所に」


「ああ、だからここを任された時に俺とお前の何かを感じたよ。他のやつだったら喜んでなぶり殺しにするだろう、あいつらにはもう希望が無いんだ、悪い奴らじゃない、植えてるだけなんだ、奴らも辛いんだよ」


「分かるよ、俺はそれを言葉じゃなく体で感じていたから、酷く痛かった」


「そうだったな、お前には不思議な力がある。だから尚更生きろ、お前はここで死ぬべきじゃない」


カルダーの目からまた熱い雫が流れた。


「何だよ、お前泣き虫だな」


言葉とは裏腹に涙を拭う手はゆっくりと労るようだった。


「はは、俺にも涙があるって思い出したよ」


気が抜けたのかカルダーは笑ってしまった。


「人の笑顔なんて久しぶりに見たよ」


「俺も久しぶりに笑った。ありがとう」


熱の苦しみと痛みはそのままなのに、心は温かかった。


「これだけ喋れるなら喰えるだろう。水に栄養価の高い木の実を混ぜた、美味いもんじゃないが飲んどけ、たくさん血が流れた、水分と栄養が必要だ」


カルダーの後ろ頭に手を添えると少し持ち上げ、木の実をくり抜いた器の水を飲ませた。


木の実は苦くカルダーは眉を潜めた。


「本当に不味いな」


「素直じゃねーな、全部飲んだ癖によ」


「ああ、不味かったけどお前が飲ませてくれたから美味かったよ」


「げ、気持ち悪ぃこと言うなぁ。喰ったら寝ろ、また持ってきてやる。」


男はガバッと勢いよく立ち上がったが、その前にカルダーの体に布団替わりの布をかける事を忘れなかった。


ふふっと笑った後に涙が流れそうになったがぐっと堪えた。


「あいつに拭いて貰わなきゃな…」


そんな気持ちは母に甘えて以来だった。

まだ幼い頃に少しでも長く甘えたくてわざと自分で傷を付けた事がある。


「母さん…」


母の笑顔を思い出して堪えきれず涙が溢れた。


「リン…リン…リン…」


鈴の音が鳴った。ふわりと白い光がカルダーと冷たい天井の間に現れた。


「慰めてくれるのか、ありがとう、温かかいよ…」


そう言うと今度は別に桃色の光が現れた。黄色、水色とどんどん溢れてくる。

光は次々と現れ、天井を覆い尽くすほどになり小さな鈴の音を鳴らしながらゆっくりと天井いっぱいに揺れた。


「いつかの空のカーテンみたいだ。寒い夜に一度だけ見たことがある。お前達は本当に美しい光をしているなぁ」


光の渦はゆっくりと降りてきてカルダーの体を包み込むように集まった。傷の部分に特に集中している。傷口がふんわりと暖かくなった。


ふっと匂いがした。一瞬だったが記憶が蘇るのには充分だった。これは母の匂いだ、カルダーがまだ小さく、膝に乗せて撫でてくれた時のマエ独特の匂いだった。


「母さん、母さんなのか。ずっと見ててくれたのか」


ひときわ輝く光が頬の雫を暖かく乾かした。


「俺…酷い姿ばかり見せてごめん…」


涙が次から次へと溢れて止まらなかった。

その度に光は丁寧に暖かく涙を乾かして行った。


それを何度も繰り返している内に二度目の眠りについた。



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