エルマックの村
カルダーが山奥で祈祷を続けた年、豊作となった。子宝に恵まれる夫婦もいた。
その剣はカルダーが使うことによって輝きを増し人を幸せにする力があるのではないかと考え出した。
幸せな報告がカルダーの耳に入る度に剣は透明感を増していった。
いつものように2人が眠る山奥へいつものように行く
「父さん、母さん、俺やっとこの力をいい方向へ使えそうだよ」
そう言うとおもいを込め王国へ向けて剣をひと振りした。そして剣と少ない荷物だけもってそのまま国を出た。
見つかれば死刑は免れなかったが、それよりやっと見つけた小さな希望を消すことの方が恐ろしかった。
「生きたい…」
山を出る時いつの間にかそんな言葉がついて出た、そしてカルダーはまた言葉を失った。
目的は無かった、たどり着く場所は自分で分かるだろう。そんな気がしていた。
それは足を進める度に確かなものに変わった。少しでも目的の道を逸れると体に不調をきたした。
長い長い旅が続き、空腹が限界になった時
剣を使って動物を仕留めようと狙っていると、大きな獣に襲われた。
カルダーは涙も出さず声も出さずに泣いた。
「この剣は俺だけは救ってくれないのか」
そんな絶望感が体を重くし死も考えた。
国の兵からは常に狙われており、逃げることも疲れ果てていた。
いつ兵に襲われるか、獣に襲われるか分からない為眠る事もままならなかったが、その頃から目をつぶると白い小さな花が揺れる草原がありありと瞼の裏に浮かんだ。
そして、数人の子供の声が楽しそうに聞こえた。
「王国の子供でも思い出しているんだろうか…」
カルダーの力を持ってしてもその幻の正体は分からなかった。
体を引きずりなんとか足を進めた。
いつしか目的の道を示すように白くて淡い光が目の前にふわふわと現れ、常にふわふわと舞いながらカルダーを導いた。
時に淡い桃色になり、黄色になり、水色になり、最後に紅色になった。
最後に「リン…」と鈴のような音を一度だけ鳴らした。
その音は微かにしか聞こえなかったが、その後カルダーの耳にずっと残っていた。
たどり着いた村は見た事も無いほど貧しかった。人々は目だけがらんらんと光り、陽の光をまともに遮る場所もない為真っ黒になり皮膚はただれていた。
エルマックの村だった。
つまりここは人喰いの村だ。
カルダーに恐怖は無かった、久しぶりに人間に安堵し、涙を流した。
エルマックの村は知恵を授けられてないらしい。言葉もろくに話せなければ、何かを作ることも出来ないようだった。
時に四足で生きる者もいた。
カルダーは村人から身を守りながら岩の間へ逃げ込んだ。狭い岩の空洞に体を入れると、そこを死に場所に決めた。
ここなら、自分が死んでも剣はここで誰も見つからずに朽ち果てるだろうと思ったからだ。
しかし、空腹になれば木の実が落ちて来たし、水滴で皿のように窪んだ場所には雨水が溜まり、喉を潤した。
「神はまだ俺に生きろというのか…」
その暗い空洞の中で、いつの間にかカルダーは言葉を取り戻していた。
陽の光も入らないので何度夜が明けたのか分からない。
カルダーは何度も、何度も、その空洞で剣を振るった。




