マエの死
次の日、湖に浮かぶロジを近くの家の者が発見し、ロジの家族に悲報が届いた、その手には薬草の花が握られたままだった。
近所の者達は「悪魔付きが死んだ、いずれそうなっただろう」と口々に言い合った。
ロジの埋葬は家族のみで行われた。この国では葬儀などはなく、家族や親戚が協力して埋葬するだけだった。ロジとマエがよく薬草を詰みに行った山奥までカルダーがロジの冷たい体を背負い埋葬された。
「ロジ…どうして…」
マエはただうなだれるだけだった。どんな姿になっても、どんなに怒鳴られても、ロジはマエの最愛の夫だった。
「母さん、俺が父さんを殺したの?」
カルダーは涙を流す事もできなかった。マエは力ない声で
「何を言ってるの、父さんは秘薬の実で体が弱ってた。泳ぎたかったけど、泳ぎきれなかったのね…」
そう言うとロジの体で盛り上がった土の前で、マエは大声で泣き出した。
工房で激しくカネを打ち鳴らす音が聞こえる。
カルダーは父の代わりに剣を作り始めた。生きていく為には父を殺した剣を作ることでしかやり方が無かった。
カルダーは来る日も来る日も剣を作り続けた。
「カルダー、そんな事では父さんの二の前になってしまう、どうか体を休めておくれ」
マエはそう懇願したが、その問いに対してカルダーは出せない声の代わりに苦しげに眉をひそめるたけだった。
「父さんはあなたが殺したんじゃない。父さんは秘薬の実とお酒に殺されたんだよ、どうか分かって。」
工房へ向かうカルダーの腕にすがって問いかけるが、それでもカルダーは毎日毎日剣を作り続けた。
いつしかカルダーの剣は王室も認めるものとなり、カルダーとマエは王室御用達の刀鍛冶となった。
王室の刀鍛冶は何人も務めていたが、ついにカルダーの剣に及ぶものが無くなり王はカルダーを残した刀鍛冶を全て処刑するよう命じた。
その残忍さと重圧が純粋なままのカルダーの胸に刺さり、カルダーは逃げるように工房へと向かい殊更根を詰めて剣を作り続けた。父の死はカルダーにとっての呪縛となりカルダーは父と同じように悪魔に取り憑かれたように剣を作り続けた。
そして29になった頃、カルダーは自らの剣の中でも一番納得がいく最高傑作を作り上げた。神々しい輝きと切れ味の鋭さはどの作品より抜きん出ていた。
「やった!父さんやったよ!俺は父さんがやりたかった事をやり遂げたんだ!見てるか父さん!父さん!」
父への手向けを作り上げられた。それだけで身体中から力が溢れるようだった。
「母さん!見てくれ!」
マエの元へ行き剣の素晴らしさを共に喜ぼうとしてカルダーは唖然とした。
目の前に立っていた女性は年齢より白髪が多く、背中は曲がり、手はガサガサに荒れ果て、顔にはシワが幾つも重なている、笑顔だけがカルダーの見覚えのある母の優しい笑い方だ、それがカルダーの心をズタズタに切り裂いた。
マエはその夜、台所の父の席に座り笑顔を浮かべたまま眠るように冷たくなっていた。




