ロジ
カルダーが18になってもロジは王室には入れずに居た。自分への重圧を軽減する為か秘薬の実に手を出していたが、それは多量に食べると幻覚や過覚醒が起こるという危険な実として名高かった。
まともに食事もせず工房に入り浸っていた為に、体は痩せ劣り、土気色の顔をしていた。
マエは既に止める術を無くしており、ただ心配しかできない自分を呪って何度も涙を流した。
カルダーは多くを語るでもなく、父を諭すでもなく、ただ静かにその光景を見つめていた。
ある日、ロジは軽い風邪を引いたが、秘薬の実でボロボロになった体にそれは大きく響き、何日も寝込む日が続いた。
「あなた、もう辞めましょう、お願いだから。私達は今の生活で充分満たされてるのよ、お願い分かって。」
声もほぼ出せなくなったロジの側でマエは懇願してした。
カルダーはその姿を見つめた後で、工房へと向かった。
「カルダー、何をするの?そこはお父さんしか入っちゃいけないのよ?」
「母さん、俺できると思うんだ。工房の窓からずっと父さんがする事見てた。やってみたいんだ。」
そう言い残すと、工房へ1人入ってしまった。
ロジは目が離せない状態だった為、マエはカルダーを心配しながらもロジの側を離れられないでいた。
カルダーは3日3晩工房から出てこなかった。
4日目に入る頃にはロジも喋れるようになり、マエはカルダーが食事もせず倒れてはいないか工房へと向かった。
工房を覗くと身体中小さな火傷だらけのカルダーがちょうど出てくる所だった。
その手には銀色に光る剣が美しく輝いていた。
汗を光らせ、上半身の服も脱ぎ捨て、傷だらけで剣を持つ姿はマエが見た事もない「男」の姿だった。
「カルダー…」
「母さん、出来たよ、父さんに見せてくる。」
水もろくに飲んでいなかったのか、カサカサにかすれた声だった。
驚くマエをすり抜け、カルダーはロジの所へ向かった。
「父さん、俺が作ったんだ。少しは出来ただろ?」
ロジは半身をなんとか起こし、カルダーと剣を驚いた顔で眺めていた。
「お前、お前が作ったのか…この美しい剣を…」
「そうだよ父さん、これで俺も父さんを手伝える。1人で苦しまなくていいんだ。父さん頼むよ、少し食事をして、母さんの心配も考えてくれ。俺頑張るから。」
ロジはカルダーの持つ剣に軽く手をし添えたまま、黙ってしまった。
その剣はロジの作った剣と共に品評会に出された、そして、その会に出された最も素晴らしい剣として讃えられた。
「くそ、なんで、なんでこれだけの時間をかけた俺でなくカルダーが讃えられるンだ…」
ロジはその夜、酒を煽り秘薬の実を食べて池の畔で1人ゴチでいた。
「なぜ…俺は選ばれなかったんだ…」
次から次へと涙が流れてきた。愛する妻の為、息子の為、文字通り身を削り魂を捧げてきた。それを18の息子に簡単に追い抜かれた事にどうしても納得が出来ていなかった。
「才能の差とはこの事なのか…」
実の影響で目の前の物が全て光り出す幻覚を既に見ていた。
「カルダー、お前の剣のような美しさがあるぞ…」
そう言って、自分が息子と会話を交わしたのがいつだったのか思い出せない事に気付いた。
「俺…なんの為に戦ってたって…?」
美しい妻が綺麗な洋服に腕を通す所を見るのが夢だった。ボロボロの服を何度も繕って着る自分達の生活を見て、この様な生活では妻の美しさが活かせない。
彼女はもっと裕福になってたくさんいい物を食べてふくよかであって欲しい。そして自分の子供を産んでくれた最愛の妻にいい思いをさせたい。その一心だった。
それがいつの間にか妻を怒鳴り、会話もろくに出来てない男へと成り下がっていた。ロジはようやくその事に気が付いたのだった。
「帰ろう。そしてカルダーを思い切り褒めてやろう。あんな美しい剣を作るだなんて、なんて誇らしい息子なんだ…。」
足元にマエがよく詰んでくる薬草が生えていた。
2人で薬草を取りに行っていた頃、咲く花が白くて小さくて自分の様で好きだと言っていた花だった。
「マエ…」
妻の美しい笑顔を思い出した。
「俺、いつからあいつの顔まともに見てないだろう…」
また涙が零れた。今度は前と違い、嫌に熱い涙でその温かさにロジは更に涙した。
「俺いつから人じゃなくなってた、最悪じゃないか…。」
「帰ろう、帰ってあいつらを抱きしめてやるんだ…」
手から酒瓶がずり落ちた、それをそのままにして薬草の花を詰んで立ち上がった。
その時、弱っていた体に酒と秘薬の実を摂取していた為、ロジは酷い目眩を起こした。
そして冷たい湖に落ちてしまった。
「うわ!」
叫ぶのが先か落ちたのが先か、ロジは必死に泳ごうとしたが弱った体は上手く動かない、湖の藻が手足に絡み、更にパニックになった。
「助け、誰か助けてくれ!!」
家々が近くにあったので叫んだが、思うように声が出ない。
「マエ!カルダー!」
まだ死ねない。ここで死ぬ訳にはいかない。せめてどれだけ2人を大事にしているか、そして自分が間違っていたと伝えたい。
ロジは必死で手足を動かし泳ごうとした。
「カルダー!カルダー!すまなかった!カルダー!」
どうにか浮き上がりながらロジは愛しい息子の名を叫んだ。




