光のカーテン
サエとの日々は本当にどこまでも退屈で幸せだった。カルダーは常に走るように生きてきたので何もしない事に罪の意識も感じたが、それもサエの笑顔を見ると忘れていった。
そんな日々の中、サエの方が目を逸らす事が増えてきた。
「うちのだんな様は黙っていたかと思えば話し出したり、見ないと思ったらじっと見てきたり、面白い人だねぇ」
目を逸らしたまま恥ずかしそう言う、カルダーは応えずに微笑んだ。
なん夜も過ぎた頃、カルダーとサエが木の実と木の実を粉にして練ったを食べていると、サエはこんな話を始めた。
「私が子供の頃ね、親に売られたんだ。私の住む村は貧しくて子供を売ってなんとか生活していた。働く場所もほとんど与えられなくてね、今思うと王がそんな風にしてたんだろうね。私の生まれた村は子供を作る村だったんだよ」
そんな過酷な話をいつもの笑顔混じりで話すのでカルダーは胸が傷んだ。
「そうか…」
そう言うのが精一杯だった。サエはカルダーの表情にも気づかないまま話を進めた。
「うん、そんでね、売られた家も凄く怖くて、たくさん召使いが居たけど気に入らなかったらどんどん殺していくんだ。私もいつ殺されるか分からなくて怖かった。こんな私でもそこの1人息子が気に入ったらしくてね、そいつも怖かったよ、よく殴られたし、なんか女みたいな名前だったな。ラナとか言う」
カルダーは黙って最後まで聞いてやるのが一番だと思い口を挟まず合図地を打つだけだった。
「そんでね。遠くに使いに出されることも多かった。そこであの子達に会ったんだよ。ほら話したろ?不思議な男の子とそこに集まるみんなの話。」
今まで何度も出てきた男の子の話だ、それが話したかったのだろう、また微笑んでしまった。
「私が行く時に絶対みんな集まってんだよ、遠くの村の子もいたのに全員居るんだ。不思議に思って聞いたら「あいつがこの日だって頭に伝えて来るからみんな集まるんだよ。楽しいから遠くても来るのへっちゃらだよ」って言ってた。どんなに遠くても言葉じゃないものが伝わって来るんだって、でもみんなの名前は知らない、名前を言うのも忘れるくらい遊んでたから」
サエはいたずらっ子のように笑った。
「怖いなぁ、どんな遊びしてたんだよ」
カルダーは笑いながらふざけて言った。
「はは!怖いことなんてしてやしないよ。男の子がね、花の時期じゃないのに花を咲かせたり、言葉じゃない言葉で話し合ったりするんだ。空に色んなものを持ち上げちゃってね、私たちも空をとんだんだよ?バレるとお母さんに怒られるからってその子が言うから低い所を飛んだんだ。いつも集まるところには季節問わず白い花が咲いてるんだよ」
カルダーの脳裏に白い花の草原と、子供の笑い声が蘇った。匂いまで分かるほど鮮明に(まさかな…)記憶力には自信がある、覚えてないという事があるだろうか。本当にそこに居たのならサエに会った瞬間思い出して居ただろう。
「ずっと遊んで居たかった。でも最後に集まった1つ前の夜に私殺されかけたんだ、あいつにラナに。なんだか凄く怒ってて、本当に殺されるんだって思ったけど、その前に何でか急に辞めたんだ。だから私は抜け出して草原まで逃げた。そしたらみんな待っててくれてね。たくさんの実と布をひとつの袋に集めて持たせてくれた。そんで男の子が言ったんだ「すぐに追いつくから先に逃げろ、そして絶対戻って来ちゃダメだ」って」
カルダーの体にビリビリと電気が走ったようだった。そう、そんな事があった。脳裏に一気にその時の風景が出てきて目眩を起こした。
目の前に傷だらげで立つ女の子、みんなが心配しながらも彼女の身支度を手伝っていた。女の子は泣いて「1人で行くのは嫌だ」と言ったが「すぐに行く、約束する」と言った。すると涙に濡れた瞳を丸くして「約束?本当に?」と自分を見上げて来た。それを見つめたまま「約束」と女の子の不安が少しでも和らぐようにニッコリ笑った。
彼女は何度も振り返り、足を止めながらも戻ることなく前へ進んだ。それをみんなで見届けた。
(なぜ…忘れていたのか…)
そう思った瞬間また次の風景が脳裏に広がった。女の子を見送った後、それぞれが袋を持ち、家族に別れを告げようと誓いあった時、鎧を着た大人達が瞬く間に押し寄せて自分達を囲んだ。そして1人また1人と髪の毛を掴んで持ち上げ首を跳ねていった。
為す術もなく友が斬り殺されて行くのを見て自分も切られそうになったが命からがら逃げ出すことに成功した。その大人のなかに自分と同じ年頃の男の子を見た気がしたが、自分も瀕死の重症を負い、家でなん夜も意識が戻らなかったのだった。
多分初めて目の前で友達が殺されたショックで記憶を無くしていたのだろう。多分チラリと見えたのがサエの言うラナというと男の子だ。
「その男の子と友達は来てくれたのかい?」
話の先は分かっていたが、自分だと言い出す勇気もなく、話を最後まで聞くことにした。
「ううん、来なかった。」
サエは木の実を食べながらカルダーの口にもゆっくりと食べ物を入れた。
口の中の食べ物は味がしなかった。その時サエがどれだけ傷付いたかを考えると食欲も失せそうだった。
「そいつ、酷いやつだよな…」
堪えられなくて思わず口に出た。いっそその時の自分を憎んでいてくれれば、言い知れぬ不安がざわざわと胸の中を駆け巡った。
サエはムッとしたのか強い口調で
「違うよ、彼らが来なかったのには何か理由があったんだ。私を売られた家から出してくれただけでも意味があった。あそこから逃げてなかったら今は生きてないよ。あんたでもあの子達を悪く言うのは許さない」
と言った。本気で怒ったらしい。無邪気に話していあ子供の姿がなくなり突然「大人の女」が話し出した。一瞬ゾクゾクッとしたがそれもすぐに収まり、許してくれたという安堵の気持ちが暖かく体を包んで行った。
(憎んでるどころか、感謝してたのか…)
不機嫌なまま景色を睨む様にしているサエ、彼女の怒りはカルダーの不安を溶かしていった。拗ねた子供のような横顔。その頭を撫でようとして、自分に両腕がないのを思い出した。両腕が無いことを気付かないほど自由にしていたのは、サエが常にカルダーを補佐してくれたからだお気付いた。
「じゃあ、約束を守らなきゃな」
笑顔でその言葉が言えた。
「ん?なんであんたが守るのさ、それに別にいいんだ。私は今幸せだからさ」
少し気が落ち着いたのか食事の後片付けを始めた。いつまでこの時間が続くのか分からない。それは自分が長い長い旅で学んだことだった。出来ればいつまでもこの時間が続いて欲しい。そう思えたのは二度目だった。
ある夜、シーナがテントへ1人で来た。いつものはつらつとしたものはなく、静かに歩み寄って来る様子に、何か重大なことがあったのだろうかと察した。
「カルダー、あんたがこの村に来てくれてからサエは変わった。この村はね、幸せそうに見えるけど、女は誰か1人のものになっちゃいけないんだ。そして男は幸せそうだけどどこか心の中心にあるものが埋まらない、所詮は真似事なんだよ。私も誰のものにもならず子供が産めない体にまで衰えちまった。他の女には1人でもいいから子供を産んで育てる幸せと苦労を味わって貰いたい、これまでその機会が来ても怖がって受け入れない女が多かった。本物の幸せを求めちゃいけないと思ってるのか、この村から出るのが怖いのか、馬鹿な子達だよ。
サエはね他の旦那を断り出したんだ。受け入れられないんだそうだ。あの子なら出来るかも知れない、カルダー、この村ではしきたりがあって夫婦になるのは難しい。でも隣の山なら実もたくさんあって、私が魚を捕る川もある。お前に覚悟があるなら、あの子を貰っちゃくれないだろうか」
「ありがとうシーナ、俺の方から言おうと思ってたんだ、両腕がなくてもサエとなら生きていけるかも知れない。覚悟なんてないよ、不安だらけだ。でもやらせて貰えるなら俺も全力を尽くす」
カルダーは間をあけずにそう言った。
「いい目をしているね。飛びかかってくる獣のようでいて暖かい。任せたよカルダー、あの子はまだ幼い子供よのうな所があるからね。頑張るんだよ、ここからがあんた達の始まりだ」
「ああ、俺は人を守る事はまだ経験した事がないが、他の戦いならほとんど経験した。サエは俺が守る、飢えたら俺を喰わせてやるよ」
「ふふ…いい意気込みだけど、あんたが死んだらサエも生きていけないだろうね。自分も大事にするんだよ?」
「ああ…そうだな」
その夜、2人は力を合わせて村を出た。
その後の2人の行方とどう生きたかはシーナすら知らなかった。
ただ時折山奥で子供の笑い声が聞こえたと伝えが流れたがそれもすぐに消えた。
山の上では月に一度、淡い光のカーテンが光り輝き、遠くの村や国まで、見上げる人々を楽しませたという。
これは私がした辛い経験を都合よく物語にしたのと、そこで知り合った色んな人達をモデルにして、ベースは亡くなった兄を想いながら書きました。
ファンタジーを書くのは初めてで、それも随分長くなってしまって、小説の勉強もした事がないので拙い文章や荒削りな表現もあり、読みにくい人も居たのではないでしょうか。
このサイトに投稿し始めたばかりで不躾な所もありますが、少しでも興味を持ってくださった方、最後まで目を通してくださった方、本当にありがとうございます。
私の夢がひとつ叶った気持ちです。




