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カルダーの約束  作者: アヤ
10/11

村の女達

カルダーが村に着くまで1つ夜半かかった。それでも死の村に行くまでの道のりに比べたら楽だった。

女が1人立っていた、カルダーが着くことを伝えたので待っていたのだろう。体は痩せていたが力仕事をしているらしく筋肉質で陽の光にたくさん照らされたように髪は赤茶けて肌は染み込む様な白さだった。


「やっと来たね。待ってたよ!あんたがカルダーだろ!?」


弾けるような笑顔で駆け寄り、すぐさまカルダーにまとわりつくロープを束ねて片手に持ち、腰に手を添えて誘導した。


「こっちだよ、疲れたろ?休める場所を作ったからね」


「え、あ、ああ…」


確認する間もなく女はシャキシャキと動いた。人違いだったらどうするつもりだったのだろう。しかしそれすら言えないほどのスピードで「そこ危ないから気をつけな」と足元の補佐をする。


村へ入ると健康そうな女達が次々に出てきてカルダーを品定めするように見つめた。


「あら、今度はまた若い男が来たねぇ。サエ可愛がってやんなよ?こんな色男なら私がお世話をしたかったねぇ」


テントの中で準備をしていた年のいった女は2人を見ると元気よく言った。

(可愛い…色男…?)

言われ慣れない言葉に戸惑った。


「はは!キョトンとしちまって可愛いったらないよ!」


大ぶりの腰に手を当てて嬉しそうに言う


「シーナ、この人疲れてるんだからあまり失礼な事いうんじゃないよ」


「はいはい、私はだんな様達の元へ戻るよ。私が居なくて寂しいだろうからさ。じーさんだけど私には愛しいだんな様達だ」


そういうと年には見えない足取りでテントを出ていった。


「ここは旦那を複数持っても罰されないのか?」


カルダーが聞くと女は床の準備をしていた手をとめて高らかに笑った。少しムッとする。ここの女達はどうにも王国の従順な女達と女違って調子が狂う。


「悪い悪い。このではね、お世話する人達を旦那に見立てるんだよ。男達は嫁と呼んでもらっても名前で呼んで貰っても自由なんだ。さっきのシーナは一番人気でね、他のだんなも嫁がいる癖にシーナに声をかけてもらうとだらしない笑顔になる男達が多いよ。女達は時々嫉妬するけど、自分のだんな達が一番だって言ってる、ここではね、男の病気を世話する村じゃなくて、女が男の世話をさせて貰いながら夫婦ごっこする村なんだよ」


いたずらっぽく話しながらよく仕事が出来る女らしく、準備する手を一度も止めなかった。


「つまり今日からあんたは私のだんな様だ。前に2人居たんだけどもう年老いて亡くなったから寂しかったんだよ。私はサエ、よろしきね」


女はまっすぐカルダーの目を覗き込んで言った。カルダーは思わず目を伏せた、胸が熱いようなざわざわと不安なような気持ちになって目が見れなかった。

女は少し見つめていたが肩を二度優しく叩くと何も言わずに布団をかけやすいようにしてそこにカルダーを座らせた。

腕は根元から切られていたので肩の部分は小さくなっており、首を優しく触る形になった。

サエは少し汗の混じった花の香りがしてカルダーは感じたことのない気持ちに戸惑うばかりだった。しかし疲れが酷い、カルダーは座らせてもらった床に倒れ込んでそのまま眠った。


「おはよう!いい天気だから陽の光を浴びた方がいいよ、牢屋は光が入ってこなかったって聞いたからね。1つ夜中には絶対浴びようね。食べ物も大事だけど光と風と土に勝るものはないからね」


朝になると眠ってる所に声をかけられてビクッと体が跳ねたが、サエは気にする事なく喋り続け換えの服を置いて、足に付ける布を床の側に置くと、光が少しでも入るように入り口の布を結んでとめた。

ポカンとしたまま体を起こそうとして、自分に腕がないのを思い出した。勢いよく起き上がろうとしたのでバランスを崩して横に転がる形で倒れ込んだ。(かっこ悪い…) 顔が赤くなるのが自分でも分かった。


「あらあら、無理しちゃダメだよ。負傷した兵はね、体の一部がないことに戸惑ってしまうけど私が力になるから大丈夫だよ」


体を支え、慣れた手つきで起こすとまた目を覗き込んでニッコリと笑った。

カルダーはまた目を逸らす(近いんだよ…) 母以外の女にこんな扱いを受けたことがなく、どうしていいのか分からなかった。


「さて、出れそうかい?まだ疲れが残っててキツいだろうけど少しだけ出よう」


サエはそれに気付いたのかすっと視線を外して柔らかい声で言った。

カルダーが頷くと、足に丁寧に薄く布を巻いた。


「旅人や兵は固くて厚い鎧で手足を守るけど、本来は素足で土に触れた方がいいんだよ。傷が増えないように薄く巻いとくね」


両方の足に布を巻き終えると、背中に両手を回し抱きつく形になって立たせた。

あの男も似た形でよく立たせてくれたが男と女では全然違う感触だ。不安になるほど心臓の音が早まるのを感じた。サエはそれを感じたろうが気を遣ったのか全く動揺せず慣れた手つきで足元を気遣いながらテントの外に連れて行ってくれた。光は眩しく思わず目をつぶった。


「大丈夫かい?光は目に強いから無理せず行こう、少ししたら木の下で魚を食べよう。シーナがたくさん捕ってきてくれたんだよ、私達にまで分けてくれて、本当にいい女だ」


サエも光り輝く空を見上げ、少し目を細めて笑っていた。木の下へ行くと魚を調理して練ったものをカルダーに食べさせながら自分も口に運んだ。

その間にも、花の咲き方や、雨の利用方法、土の固め方などを楽しそうに話していた。


「牢屋の男がここの女達は愛情深いと言っていたがみんなお前みたいなのか」


サエは目をまん丸にしてカルダーを見た。


「びっくりした…。突然声を出すんだもん。あんたは声を出さずに話す人かと思ったよ」


そんな素っ頓狂な事を言い出した。つい微笑んでしまった。サエは子供のような女なのだろうか。


「え?声を出さずに会話する??」


ふふ、と微笑みながら質問するとサエは更に勢いを付けて話し出した。


「ああ!子供の時にそんな不思議な男の子が居てね!凄く人気だったんだよ、男の子も女の子もその子に夢中でね私も大好きだったんだ!」


目をキラキラさせている、よほど楽しい思い出だったらしい。カルダーは先ほどの緊張が一気に解けて子供と話してるような穏やかな気分になった。


「へぇ、楽しそうだな、もっと聞かせてくれるかい?」


「いいよ!あ…さっきの話だけどね、私なんかまだまだだよシーナなんかには絶対適わないし、他の女達の方がずっと上手に世話をするんだよ、私は喋り過ぎてうるさいし、ガサツだからシーナにたくさん怒られたもんさ、今以上に喋ってたんだよ?すごいだろ?」


サエは恥ずかしそうに笑った。


「ああ。すごいな…」


(こんな女達が存在するなんて知らなかった。すごいよ)

今度はサエから目を逸らさなかった。サエは話を戻し、嬉しそうに身振り手振りで子供の頃の話を始めた。


「りん…」左の耳に鈴の音がしたが、カルダーはサエの話に夢中になって気付かなかった。

淡い桃色の光がふわふわと踊るとゆっくり空へ昇って行った。そして柔らかく空に溶けるように散った。

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