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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第六章 二年生でも中学生
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93 - やっぱり世界は狭いらしい

 部活紹介における演劇部のステージは、十分間で行われた。

 最初に今回は芝居ではなく訳あって稽古風景を見せることになったこと、以前の芝居が見てみたいと思ってくれたならば、仮入部期間中に演劇部の部室に来てくれれば映像を見せられると言うことを告げた上で、今日の稽古の内容を祭部長が説明。

 読み稽古。

 リアルなそれを見せるために、台本を渡したのはつい三十分前であることも含めて説明すると、いざ始まり、十分の内の六分ほどを掛けて読み稽古はとりあえず、一巡した。

 ここまでで残りの持ち時間は三分ほど。

「さて、読み稽古を経て、必要そうな小道具をリストアップっすね。ナタリア」

「ええ。さゆりん、お願いします」

 ナタリア先輩はタブレット端末を操作し、その声に合わせて緒方先生がステージ上のスクリーンにタブレット端末の画面を表示する。

 表示に問題がないことを確認し、僕達は実際に部活で話し合うときのように砕けた態度で小道具の確認をすることになった。

「まず真っ先に、今回の脚本で必要な衣装は『着替えギミック』ですか?」

「それはどういう物かしら、かーくん」

「今回の脚本は三人で回しましたし、実際三人の台詞だけでしたけれど、キャラ的には沢山居ました。徐々に変化してゆく。それを視覚的にも表現してみたいんですよね」

「発想は良いと思うけれど……、つまり、徐々に変えていくって事よね。でも着替えなんてしていたら明示になっちゃわないかしら?」

「気付けない程度の小さな着替えを繰り返すとか。ほら、衣装を簡単に脱げるようなギミックは何度も使ってますから。それの応用です。たとえば僕の場合は長袖のシャツでスタートして、他の発言中にカーディガンを羽織るとか、その程度の小さな変化を繰り返す。で、カーディガンを脱ぐと半袖になってる、とか。そういう感じのは出来ると思うんですよね」

「あとは色や柄っすね。全部が一気に変われば明示っすけど、一つ一つが徐々に変わるならば気付けないかも知れない。かーくん、今度試作品をお願いしてもいいっすか?」

「わかりました」

「じゃあ、着替えギミックを小道具の一つにカウントするわ」

 ナタリア先輩はタブレット端末にペンでさらさらっと入力していく。

 ちなみにナタリア先輩の字は綺麗なんだけど、ちょっとキレのある感じで、ちょっと癖があるので判別しやすかったり。

 一方で祭部長は素でかくと女子っぽい字なんだけどそれはそれ。

「他はどうかしら?」

「少なくともナタリアと自分の役で眼鏡に関する話題を出してるっすから、眼鏡も最低二つ。かーくん、これもギミック化するっすか?」

「いえ、眼鏡にかんしては変に弄るより、単に付け外しで良いかと」

「それもそうっすね」

「レンズに度を入れないで良いならばすぐに作れますよ」

 眼鏡をよっつ、とナタリア先輩が記入。最低で二つは必要だけど、実際、四つほどは必要だろう。

「あとはかーくんは身振り手振りでなんとか誤魔化していたけれど、ステージ向きの大きな扇子も欲しいわね」

「そうですね。あとはハリセンもあったほうがいいかな? 何度かナタリア先輩が祭部長をはたくしーんがありましたから」

「かーくん。採用」

「え。おれハリセンではたかれるっすか?」

「ビンタとどっちが良い?」

「ハリセンで……」

 そもそも脚本を用意したのは祭部長なので自業自得である。

「そうだ、かーくん。ちょっと大物になるっすけど、椅子はどうっすかね?」

「ああ、マッサージチェア的なものですか。ガワだけでいいならそれほど再現には困らないですね。保管場所さえ都合着くなら作っちゃいますよ」

「ならばお願いするっすか」

「いっそ本物のマッサージチェアにして部室に置けないかしら?」

「それはさゆりんが怒るっすよ。さすがに」

「校長室に置かせて貰うというのはどうですか、先輩」

「かーくん。だめっすよー、先生を利用しようとするのは」

「でもナタリア先輩は……」

「その手があったか! って顔をするんじゃねーっす!」

 エアハリセンでツッコミを入れる祭部長をひょいっとナタリア先輩は避け、僕にちょいちょい、と手を向けてきた。

 少し近寄り、ナタリア先輩にハリセンを贈呈。

 ナタリア先輩は手渡されたハリセンでバシッと逆に祭部長を成敗した。

「いやなんで!? なんで今の流れでおれが叩かれるっすか! というかどっから出したっすかそれ!?」

「いやあ。祭部長が音響のチェックしている間にナタリア先輩が、『たぶん使うと思うから急ぎでハリセン用意できる?』って聞いてきたので。その場にあったものでちゃっちゃと作りました」

「かーくん。パーフェクトよ」

「ええい二分かそこらしか目を離してない隙に! 良いっすかナタリア、かーくん。おれたちは演劇部っす。コメディ部とか漫才部じゃな――」

「あ、祭部長。そろそろお時間です」

「そうね。りーりん、説教は後にして頂戴?」

「え? あ、わかったっす……ってまだ二分あるじゃないっすか! そこの二人!」

「閑話休題だけれど、小道具というよりセットになるかしらね、テーブルセットはどう、いけるかしら?」

「背景のセットから展開したり畳んだりできるようにする感じが理想ですね。たぶんいけます」

「無視して話を進めるんじゃねーっすよ!」

「冗談よ、りーりん」

「そもそも台本分が終わってしまった時点で、コメディ路線にでもいかないと時間が持ちませんよ。ほら、演劇部に興味を持ってくれる子は『なるほど、こういう事をするのか』と納得してくれるでしょうけれど、『演劇部? いや見るだけで良いかな』って子は『練習風景なんて見せられても正直つまんない……』って思うでしょ? だからその辺をうまく誤魔化すためにもコメディでちょっとお茶を濁す感じにですね」

「そうそう。そのために私たちはハリセンを内緒で準備していたのよ、偉いでしょう?」

「努力の方向性がちがうっすから!」

 と、ここでナタリア先輩がすっと祭部長にハリセンを渡すと、祭部長はハリセンを僕に叩き込んできた。

 無駄にバック宙で回避すると、おー、と何か感心されるような声が聞こえた。

「は、腹の立つような感心するようなよくわからない避け方っすね……」

「洗練された無駄な動きって感じね……」

「褒め言葉として受け止めさせていただきます」

 感心の声に限らず、以外と受けているらしく、笑い声がちらほらと漏れて聞こえる。

 たとえ準備がほとんどできていなくとも、これはこれで一つの舞台。

 演劇部として最優先するのは、観劇者を退屈をさせないことなのだ。

「小道具とはまた別枠ですけど、背景音はどうしますか?」

「やりたいことはハッキリしていて、日常系の会話をメインとした劇。軽音部と吹奏楽部にまたお願いする形になるわね」

「前回の時代劇のようなハッキリしたコンセプトじゃ無い分、逆に難しいかもしれないっすけど、ね。ああ、コンセプトアートも書かないと……」

「祭部長のデッサンは上手ですからね」

「かーくんほどじゃないっすよ」

「いやあ。僕は見たものを描くのが得意なだけで、見たことの無いものは描けませんから」

 タブレット端末はナタリア先輩から祭部長へ。

 そして祭部長はざくざくと、その場でとても簡単な衣装のラフデザインを作成する。

 ゆったりとしたドレープ構造、それを見て一瞬舞台袖に視線を向けると、あらかじめ待機しておいてもらった洋輔が必要なものをいれた段ボール箱を僕に投げ渡してくれた。

 さんきゅー。

(どういたしまして)

 箱にから取り出したのは裁縫道具と柄入りの布だ。

 裁ち鋏で布を迷わず切ったり、針にざっと糸を通してがつがつと縫い進め、祭部長が概ねのラフデザインを終えたところで僕の裁縫作業もざっくり完了。

「よし、じゃあナタリアの最初の衣装はこんな感じからスタートするっす……って、かーくん、それは?」

「りーりん。信じられないと思うけど、今あなたがここで書き下ろしたそのデザインをぱっと見で、この場でこの子作り始めたの。で、描き終わりとほぼ同時に完成してたわ……」

「ええ……?」

「さすがに仮縫いですよ。舞台用のものはミシン掛けもしないとギミックも仕込めないし、柄も適当ですからね。とりあえずナタリア先輩、これを羽織ってみて下さい。制服の上からで大丈夫です」

「ええ」

 ふわっと羽織るようにして、ナタリア先輩はその場でくるりと回る。ドレープ構造はふんわりと、風に舞うようにナタリア先輩を芸術にした。

「さすがは祭部長のデザインです。ここから洗練させるのが楽しみですね」

「待つっすよ。いやかーくんの仕事が早いのは重々知ってたっすけど、え、そこまで早いものっすか? というか型紙も使わず作れるもんっすか?」

「僕には出来ます」

「かーくんらしいわあ。全く、同世代でつくづく良かったわ。おかげで色々と困らないもの。それとかーくん、この衣装はどうするの?」

「どうもこうも、ブラッシュアップは別のちゃんとした布とミシンでやるので、それはバラしてハンカチにでもするか、あるいはそのまま使いますか? 強度は最低限しかないですけど、部屋着くらいにならばなるかもしれません」

「ならば部室に置かせて貰いましょう。これ、夏のクーラーが掛かった部屋で羽織るのに丁度良さそうだわ」

「羨ましいっすねえ……って、今度こそ本当に時間切れっすね?」

「あ、本当だ」

 十分というのはあっという間だ。

 のこり三十秒を切っている。

「『演劇部』――まあ、今回は前半を『読み稽古』で退屈だったかもしれないっすが、後半はその後のリストアップをしながらの『フルアドリブ劇』として、多少は楽しんで貰えたならば幸いっす。その上で、もしもおれ達と一緒に劇をしてみたい、作ってみたい、そう思ってくれるならば! 男子も女子も、大歓迎っすからね!」

「以上、演劇部からのお知らせでした。まだ決めかねているならば、一度は仮入部期間中、演劇部を訪ねてみてくださいね。しっかりとした劇の映像をおみせできるわ、きっと楽しんで貰える……、うん、私たちはそう、思ってるの。ただ見てみたいってだけでも、ぜひ来て頂戴ね」

 祭部長とナタリア先輩が自然と場を纏める。

 緒方先生がスクリーンへの投影も止めたので、

「それではおうちに帰りましょう!」

 と僕達は舞台袖に向かって歩き始める。

「かーくん。堂々としたサボり宣言はNGよ」

「最後の最後でコメディ部に誤解されるような感じっすねえ……」

 それが舞台で最後の台詞。

 さて、反応や如何に?

 舞台袖に全員入った後、体育館の照明が普段通りの明るさにもどると、わいのわいのと一気に騒がしくなる。

「お疲れ様、かーくん。ナタリア」

「りーりんもね」

「皆さん、お疲れ様です。反応は……」

「上々っすね。いやあ、序盤の読み稽古をしている間は『?』って感じの反応だっただけにどうした物かと思ったっすけど、上手いことナタリアとかーくんが読み取ってくれて助かったっすよ」

「読み取ったと言えばかーくんが色々とグッジョブだったわね。というかあなた、普通にバック宙できたのね」

「奇をてらう意味でも面白かったでしょ?」

「私たちは面白い以上にビクッとしたわ」

 それを表に出さずにきっちり舞台の上で仮面を作っているあたり、流石の演劇部という感じでもある。

「それと、よーくん。あの箱、いつの間に準備したっすか? 助かったっすけど」

「あらかじめ佳苗にいくつかのシチュエーションを相談されていて、その上で必要な時に必要なものをぶん投げろって言われてたんです。それをやっただけですよ」

「だけ……かしら?」

 はい、と洋輔はふてぶてしく頷いた。

 若干納得がいかないようだけれど、これ以上の掘り下げは危険と判断したのか、ナタリア先輩と祭部長は視線を改めて会場内へと向ける。

「ともあれ、これで何人仮入部に来てくれるかっすねえ」

「そうね。去年は散々だったものね」

「そういえば僕も洋輔も『後から』組でしたけれど、仮入部って実際、何人くらい来てたんですか?」

「去年は五人だったわね。で、その五人とも当時のみちそー部長に退散しちゃったの」

 思いがけないところで皆方部長が発火していたらしい。

 退散したのは皆方部長そのものというより、皆方部長がつけた愛称で呼ばれるのが嫌だったとかそのあたりだろうな……。

「一人だけとはいえ男子もいたっすねえ。かーくんはよもりんって知らないっすか?」

「よもりん? ……すみません、愛称からだと判断しかねるんですけど」

「あー。えっと、なんだっけ、ナタリア?」

「えっと……、男の子よね? よもりんって覚えちゃってるのよ、私も。…………。よもぎ? なんかそんな感じじゃなかったかしら?」

「そうそう、よもぎ。漢字に数字が入ってたはずっすね、四って」

 …………。

 初耳だった。

「そうか、四方木くんが……」

「なんだ、知り合いっすか?」

「知り合いも何も、同じ小学校の友達で、猫好き仲間です。今年は同じクラスになっていて、出席番号順だと一個前ですよ」

「それはまた。世界は狭いのねえ」

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