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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 変わりゆく年度末
73/111

71 - 完敗は成長への洗礼

 前半はあれこれと準備に追われたこともあり、楽しむどころではなかったけれど、三年生を送る会の後半はお手伝いがメインと言う事もあって、楽しむ余裕も出てくる。

 そんな後半の最初のステージは軽音部のミニライブ。

 用意された楽器はアコースティックギター、エレキギター、エレキベース、ドラム、キーボード、エレキヴァイオリンにパーカッション類。

 そんな彼らの一曲目は、とある女性シンガーの楽曲のカヴァーだった。にしても、上手い。ステージ上の仕掛けを動かす手伝いをしながらも、不思議と聞き入ってしまうほどに。

 劇伴を演奏してくれているのだ、その器量は知っていたつもりだけれど、こうやって真面目なライブという形で紡がれる演奏を聴いたのは二回目か、三回目か……。

 一曲目が終われば、そのまま二曲目へ。さっきと同じ女性シンガーの楽曲、今日はそのシンガーの楽曲で統一してきたのだろう。様々な曲調があるし、ドラマにアニメにタイアップ楽曲も多いから、知っている人も多いからね。

 にしても、だ。優しいバラードからポップス、激しい楽曲も織り交ぜて奏でられるそれに、なんだか、胸を打たれるような気持ちになる。

「……ああ。いいなあ」

 思わず呟けば、隣で一緒に手伝いをしていた洋輔も頷いた。

「お前達がやった演劇のほうが完成度は高えんだよ。けどさ、あれはあまりにも強すぎる。見る側も緊張しちゃうほどに、なにもかもが完璧すぎたんだ。……けど、この演奏は違う。ちゃんと等身大で、なのにただただ上手に、奏でてる。だから感動できるし――」

 だから安らぐ。

 格好いいし、美しい。

 そう見える。

「完璧なものは、強すぎる、か……」

 ん……、なんか口にしてみると、不思議と引っかかるな。

 完璧だと強すぎる。

 等身大、多少のミスが許されるくらいなら、逆に感動できる。

 いや、それが逆か?

 ミスがあるから感情に揺らぎができる。

 そしてその感情の揺らぎが感動だ、とか。

「お前らしい考えではあるが、無粋だな」

「僕もそう思うよ。でもなんか、……いいヒントになりそうでね」

「ヒント?」

 僕達の演目が終わった後、体育館は暫く静まりかえっていた。最初の拍手が鳴るまでは、もはや衣擦れの音さえ聞こえそうな程に。

 それは圧倒した証拠だ。そうであることに疑いは無い。

 疑いは無いけれど、演劇部の方針がそこでいのかが解らない。

「部長達とも、しっかり相談が必要だなあ……」

「……お前も大概、演劇にハマリ始めてるな」

「演技する方は乗り気じゃ無かったんだけどね。実際にやってみて、拍手を受けると、なんだか気分も良くなるよ」

 そんな事を言っていると、吹奏楽部の面々が動き始めた。

 今の曲が終われば、次は吹奏楽部と軽音部の共同楽曲か。

「渡来くん、例のもの、どこにあるかな?」

「この棚に全員分用意してあります」

「ありがとう。助かるわ」

「持ちつ持たれつですよ」

 例のもの。

 と、現吹奏楽部の部長が僕に聞いてきたのは、吹奏楽部用の譜面だ。

 譜面は譜面でもインクに蓄光インクを利用しているため、暗がりでも見やすいという仕掛けつき。

 尚、最初は蛍光インクとブラックライトという組み合わせを考えたんだけど、そうすると演者がめちゃくちゃ光ることに気付いたので没になった。

「目印のテープは指定通りにやってあります。椅子も手はず通り、花道の下に隠してあります。椅子の準備に手間取るようなら僕達側で補助に回るので、その時はこっちに要求をお願いします」

「うん。そうするね」

 他にもいくつかの確認をして、いざ、軽音部単体としての最後の曲がアウトロに入ると、吹奏楽部の面々が静かに素早く配置につく――そして、殆ど曲が終わると同時に、合同曲が始まった。

 それはとあるゲームのメディア展開でアニメ化された時、エンディングに使われた楽曲を軽音部と吹奏楽部によってアレンジと言う名の魔改造が施されたもので、その楽曲の性質上、なんと十四人もの大人数が歌唱に回り、合唱とダンスさえも兼ねている。こうなると楽曲のジャンルは何になるんだろう……、R&Bだろうか? 吹奏楽入ってるけど。

 様々な音と声が、積み重ねてきた練習の成果を発揮するように、美しくそれぞれを引き立て、場を盛り上げながらも、さすがは元がエンディング楽曲なだけあって、一段落を予感させている。

 ステージの上で歌い踊る面々も身振り手振りに表現の幅を広げていて、特別な照明なんて使っていないのに、不思議と輝いて見えるのは――うん。

 これが音楽の、表現力。

「楽しそうだな、佳苗」

「おかげさまでね。こういうの、僕、好きみたい」

「ふうん?」

 そういえば、と洋輔は言う。

「あんまりお前って音楽のライブには興味なかったよな」

「興味が無かったって言うか、興味を向けるきっかけが無かった、かなあ……。でも、こういうステージを見ると、プロのも見てみたくなるよね」

「良い傾向じゃん」

「でしょ。プロのやり方盗んで演劇に生かさないとね」

「前言撤回」

 え、なんで?

「なんで? じゃねえよ。純粋に楽しめよ」

「それは前提でしょ。純粋に楽しみながら、それを上手くフィードバックしていきたいんだよね。……実際、これは僕の勝手な主観にすぎないけれど。僕達、演劇部の演技よりも、このステージのほうがきっと、皆の心に残るんじゃないかな。悔しいけど」

 そう言って、洋輔に視線を移す。

 と、その洋輔のすぐ向こう側には祭部長がいた。

「同感っすね。完敗。うん、完敗っすよ」

 祭部長はスッキリとした様子でそう言った。

 演劇部の演技は完璧だったと思う。

 けれど、それはきっと、演技や作品としての完成度だけだった。

「おれが用意した脚本の時点で、負けが決まってたっすかね……。おれたちは、演劇部は、誰かを楽しませるよりも完成度を追ってしまった。……題材を選ぶ前から、おれがそう考えていた以上、完敗としか言いようがない。……次はきっと」

「そうですね」

 そう。

 次はきっと、このステージのように、誰かを楽しませるための演技をするべきだ。

「……ところで、祭部長。どうしてここに?」

「ああ、そうだった。さゆりんが、このステージが終わり次第、教員席に来て欲しいそうっすよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「どういたしまして。うーん。楽しませる演劇……、やっぱり喜劇っすかね? チャップリンみたいな?」

「なんか急激に難易度が跳ね上がって時代は遡って、というかそれ、演劇なんですか……?」

「それもそうっすね……」

 僕と祭部長のやりとりに洋輔は苦笑を浮かべつつも、ステージの輝きを眺めている。

 ……洋輔にとっても、こちらのほうが印象に残るんだろうなあ。

 合同ステージの最後の一音が消えると、一瞬の静けさの後、どっと沸くような拍手が体育館内を満たしていった。

 ……つくづく、完敗だ。

「洋輔、任せて良いかな」

「オッケ」

「祭部長。この後、吹奏楽部が椅子設置に手間取るようなら、洋輔と一緒に手伝ってあげてくれますか」

「もちろんっすよ。そういうかーくんは、さゆりんの所っすね。また後で」

 また後で、と一旦別れを告げて、少し明るくなった館内の隅を通って教員席の方へと向かう。教員席とはステージを挟んで反対側だったのでかなりの遠回りをする羽目になったけど、まあ、それはそれ。まさかステージを横切るわけにもいかないし。

 そして辿り着いた教員席に緒方先生……が、居ない? あれ?

 小里先生はいたので、

「小里先生、ちょっと宜しいですか」

「ん、渡来? どうした」

「緒方先生が僕を呼んでいると聞いたんですけど……、緒方先生、どこに居るか知りませんか?」

「緒方先生なら演劇部の準備室にさっき行ってたと思う」

 準備室……?

「そうですか、ありがとうございます」

「うん。それでも見つからなければもう一度きてくれ、内線で探して貰うから」

「はい」

 改めて感謝のお辞儀をしてから、またも館内の隅を通って準備室にしている更衣室へと向かう。鍵は……開いている、中に入ると、そこには緒方先生と校長先生が向かい合っていた。

 なんだか剣呑な空気だ。

「緒方先生。祭部長が僕を呼んでいると言ってたんですが……えっと?」

「ああ、良いタイミングで来てくれた。すまないね、折角楽しい舞台がやっていたはずだが、少々急を要する問題が出てしまった」

 問題?

「君が見つけたネジの出所が解ったよ。体育館の舞台の直上照明具のものだった」

「ああ……やっぱりその辺でしたか。でもステージはやってますし、もう直したんですよね?」

「いや」

 うん?

「用務員さんがね、確認はしたんだが、ちょっと『やり方がわからないから業者を呼ばないと』と言ってね……」

「……ってことは、今あのステージの上のライト、あぶないんじゃ?」

「そうなる」

 おい。

 という僕の視線に怯みつつも、口を開いたのは校長先生だった。

「たかがネジの二本だ、そこまで急を要する問題では無いと、用務員側も判断したし、私もそう考えた」

 注意一秒怪我一生の標語は護られていないようだった。

 僕でも無視してたかな……、いや。

「ネジを締め直すの、用務員さんにはできなかったんですよね。特殊な形状のネジというわけでも無いんですけど……えっと、どういう状況だったんですか?」

「話を聞く限りでは、カバーのようなパーツの奥に設置されるはずのネジ、らしい」

 カバーの奥?

 そんな所から、ネジが落ちてくるってのもなんか変な話だな……。

 ネジが緩むにしたってカバーの部分からだろう、だからこそ定期的なメンテナンスで締め直してたのかもしれないけど、だとしたらカバーをどうやって貫通したのか……、いや、カバーがそもそも完全に覆ってるわけじゃなとか?

「で、私はそれを問題視しているのだよ、渡来くん。近頃の一件もあるし、少々過敏になっている部分も有るとは思うがね。君はどう思うかな?」

「問題視というよりかは、単純によく状況が解りませんね。……うーん。用務員さんが大丈夫ってとりあえず判断したならば、まあ、僕達素人が弄ったところで更に悪化させる可能性のほうが高いですからね……」

 手を出さない方が安全だろう。

 僕がそう告げると、緒方先生はゆっくりと頷いた。

「じゃあ、その上で先ほど言った『急を要する問題』に突入させて貰う」

「え。今のネジの話じゃ無いんですか?」

「今のネジの話が前提なのだよ。本題に入るとね、用務員さんが呼んだ業者はあと二十分ほどでここに到着し、即時点検作業をするらしい」

 …………?

 いや、いくら何でも早すぎない?

「早すぎる、と。私たちはそう思っている」

 言ったのは校長先生。

 表情には不信感が僅かに浮かんでいて――僕はどう思うかと、そう問われているようだった。ようだった、と言うより、問われていた。

「別件かも知れませんが、僕も違和感はありますね。とはいえ……、この時期に何かと入り用な体育館の舞台で、今日も送る会をやってるわけですから、事務員さんなり役所が滅茶苦茶頑張って早期の手配をしてくれたとか、そういう性善説もあるかもしれません」

 舞台は今朝もきっちり色別で確認はしていて、その結果は緑色だった。

 そもそも赤があったら全部潰してるし……、だから、そこに何かが仕掛けられているとは考えにくい。考えにくいけど、色別も絶対じゃ無いからな……。

 カバーの裏のネジということは、カバーと本体の隙間とかにこっそり仕掛けられていたら、角度によっては僕の色別から漏れている可能性は十分にある……かな。

(けど、盗聴だとしたらそのカバーごと赤く見えなきゃおかしいよな?)

 盗聴なら赤いだろうね。けれど盗撮ならあるいは緑になるかも。

 だって、僕が確認を行った角度からはその機材が見えない以上、その機材は僕達を映すことが出来ないのだから、『害』は無い。

(あー……いや、割と無理があると思うぜ、その考え方。だって今、こうやって、お前は呼び出されてる。それは実質的な『害』だろ?)

 その通り。

 と言う事は、残る可能性は『敵では無く味方が設置したもの』『僕達以外を標的にしたもの』『本当に何も無い』ってところだと思うんだよね。

 一番最初なら多分、仕掛けたのは竪川日比生さんかクロットさん。たぶん日比生さんだろうな、あるいは日比生さんの指示を受けた響谷先輩か。

(クロットさんって可能性は薄いとみてるのか)

 学校内部に入りにくいからね、あの人目立つし。

 だからといってナタリア先輩にやらせるにも無理がある。技術的にナタリア先輩はそこまで高度な仕掛けが出来ない。

(納得。二番目は?)

 設置されてる場所からして目的は体育館内部の様子を調べる事。部活の偵察用ってのが一番最初に思い浮かぶかな。もちろん、ただの盗撮という線もある。僕にはいまいち理解が及ばないけど、僕達のような子供が運動しているところを盗み見たいという人種も居るらしいし……。けどまあ、ここなら見られて困るようなことも無いし、プールの更衣室とくらべれば被害がゼロに近いから、赤くなかったんじゃないかな。

(まあ、ここなら裸を撮られることはまずねえしな。着替えとかで下着姿になるやつはいるか、男女問わず)

 それが狙いかもね。

 で、三番目。本当に何も無い。

 僕は割とコレがありそうだとみている。

(……じゃあ、動きがあまりにも速すぎるのはどう説明する?)

 わかんない。

 ルイス・フォスターが手を回すにしては早すぎるし、中途半端すぎる。

 何かどうでも良い理由かもね……。

「様子見で良いんじゃ無いですか」

「君がそれで良いというならば、そうする事にしよう」

「しかし渡来くん。折角だ。舞台袖から見学というのはどうだい?」

 穏便に事を治めようとした校長先生に対して、緒方先生が薄ら笑いを浮かべて言う。

 ふむ。そのくらいなら、してもそこまで不自然でも無いか。

「乗ります。セットの片付けをしているとでもしておいてください」

「ああ、そうしよう」

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