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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 変わりゆく年度末
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67 - 誘い出せたとポジティヴに

 演劇部からの報告というか告発というか、それを受けた校長先生は、

「……しかしだねえ」

 と、色の悪い返事をした。

 ちらりと僕を一瞬見たのは以前にも似たようなことがあったから……というワケでもなさそうだな。

「明日の三年生を送る会を成功させるために何処よりも頑張っているのが演劇部だと言うことは私も重々承知しているのだ。……来賓も来られるし、中止になっては困る」

「主賓は三年生なのではないんですか?」

「いや、それは、そうなのだが……」

 気になる言いようだったので聞き返すと、痛いところを突かれた、といった様子で校長先生は言いよどんだ。

 なんだこの人、突っ込みどころがありすぎて逆に真偽判定が上手く行かないんだけど。

 新手の対策……?

(いや考えすぎだな)

 だよねえ。

 とりあえず現時点では校長先生が黒だ、このまま休み時間に入るようならその間に洋輔、冬華と連動して事務員と教頭先生の方に探り入れておいて。

(オッケー。渡鶴にテキストで状況は入れたんだよな?)

 うん。

「校長先生。演劇部としても、演劇が中止になるのは痛手も良いところです。これまでの練習が水の泡になるわけですから。それを抜きにしても、三年生を送る会が急遽キャンセルとなれば、三年生はとても残念がるでしょう」

「うむ、そうだとも」

「だからこそ報告するべきだと、演劇部は考えたんです。被害は本当に演劇部の部室だけだったのかどうか。他の部室や特別教室に同様の問題は無かったか……。確認をしなければならないことです」

「しかしだね。……特に何も、盗まれてはいないわけだし。急ぐ必要は……」

 ここまであからさまだと一周回って白なんじゃ……?

 と思うけど、まあ、黒だよな。やっぱり。

「校長先生。その言い分は、無理筋です」

「ソレを決めるのは君では無いのだよ、渡来くん。大人が決めるんだ」

「そうですね。そしてその大人とは校長先生でもありません。政治家です。そして既に定められた法律に従って、裁判所と警察が動くんです」

「…………」

 なんとか言いくるめようとしてるな。

 けれど所詮、訓練を受けていないただの大人だ。

 そんな見え透いた手に乗るわけがない。

「……解った、君の言うとおりだ。警察に捜査を依頼する」

 …………。

 あれ?

「教員をフル動員して調べさせるにしたって、盗撮やら盗聴の類いが設置されているかどうかはわかるまいよ。大体、犯人が教員内に居る可能性さえある……前回がそうであったように。証拠隠滅などされては困る、すぐにでも警察に捜査を依頼する――但し」

 そう、但し、と校長先生は続けた。

「あくまでも内密に、秘密裏にだ。抜き打ちの検査だとでも他の教職員には説明させる。……それで明日の放課後まではなんとか、誤魔化す。私の責任でな。三年生を送る会が終わり次第、真相を他の教職員にも説明する……それでいいかね」

 ……表面上は満額回答だな。

 校長先生の性格的に、こんな提案をしてくるとは正直思いもしなかったんだけど……。

(表面上は……な。つまりだ、校長は『渡来佳苗を誤魔化しきれない場合』ってフェーズに移行している、ってことじゃねえのか)

 そうだよねえ……。

 ルイス・フォスター案件だな、これ。

 盗聴と盗撮はできたらラッキー、露見を前提とした仕掛けとなると、じゃあ何が目的だったのか?

(引き算をすりゃいい。盗聴と盗撮はついでにやったことだった。盗難被害もなかった。ならば……目的は『破壊』だよ。トランクケースを破壊すること)

 ソレが目的だとしたら、……いや、意味ある?

(無いな。ただ……破片は完全に揃ってたのか?)

 …………。

 あー。

 つまり、ルイス・フォスターは僕の私物であるトランクケースの部品や破片を調達して、そこから僕達の背後を洗おうとしてる……?

 だとしたらちょっとまずいな。あのトランクケース、錬金術で作ったやつだぞ。材料それ自体は外に出しても大丈夫なように普通の材質になるように指定しておいたけど、機構だとかは既製品のそれとは違うし、史上に流通したことが無いものだということも特定されるよな。

 あれ、ちょっとどころか結構マズイ?

(破片の位置はわかんねえのか?)

 そんな便利機能はつけてないよ。大体破損した時に破片を調べる術なんて……。

 と、思考が及んだところで、

『錬金逆行術と錬金連鎖術、錬金探知術。三重の応用になるけれど、佳苗。あなたにならば恐らく出来るわ』

 と、冬華の声が椋鳥を介して届いてきた。

『状況は渡鶴に入力されたテキストと、佳苗の視覚・聴覚の情報から概ね読み取ったつもりよ。応用のやり方は……今、手元のメモに書いてるから、少し待ちなさい』

 感謝は後で述べるとして、渡鶴を介してありがとうと伝え、さらに視線でも頷くようなそぶりを見せると、冬華が椋鳥の向こう側で笑った。

 助かるな、こういう助言をくれるのは。

(助かる……が、お前にさらに強烈な応用が入るのか……)

 逆行術、連鎖術、探知術。

 それぞれのネーミングからなんとなくできることは見えるのがまたすごいよね。

(全くだ)

 ともあれこっちはこっちで処理をするか。

「僕はそれでいいと思います。先輩達はどうですか?」

「私は構わないわ」

「おれもそれで良いっすけど……」

「もちろん、君たちが良いというならばそれでいいが、本当にいいのかい、渡来くん」

「手放しによしとも言えませんけど、僕達演劇部のためだけに三年生を送る会をやめさせるのはちょっと、問題です」

「……そうだねえ」

 緒方先生は渋々頷く。

 僕も渋々だけど。

 たぶん校長先生が呼ぶ警察って、ルイス・フォスターががっつり関わってる方だし。

 けれどまあ……ならばこそ、こちらにとってもチャンスになり得る。

「悪いが演劇部の君たちには、授業よりこちらを……警察対応を優先して貰うよ。そのくらいは協力して貰わなければ困る。いいね?」

「はい」

 僕が即決で頷くと、少し遅れて祭部長とナタリア先輩も頷いた。

 逆に少し困ったような声を挙げたのは緒方先生。

「自分は授業がありますが?」

「……代役をこちらで建てるよ。優先事項はこちらだ、すまないがね」

「解りました。但し、校長の指示であることを記録していただきたい」

「もちろん」

 ああ、なるほど。そういう事か。

 責任を負うのは構わないけど、欠勤扱いにならないように配慮を求めたと。

「しかしまあ、なんというか。渡来くん、君は抜け目ないな。よくもまあ、色々と気付くものだ」

「色々と観察するような癖が付いてるんですよ」

「観察?」

「何か違う事が無いか、とか。少しでも心がざわつくようなモノを見つけたら、その時は何かを思い出せるかも知れないでしょう?」

「…………。そうだね」

 校長先生はそういって立ち上がり、入れ替わりにソファを勧めてくる。

「私は警察に連絡をしてくる。君たちは暫く校長室の中で待機していてくれ、すぐに戻る」

「はい」

 皆の声が重なり、僕達はそれぞれ、応接セットのソファに着席。

 校長先生は職員室方面に向かって、ぱたん、と扉が閉じたところで『どんっ』、と床を蹴る音が聞こえた。

「うわあ。怒ってる」

「怒らせたのはかーくんっすけどね……」

「けれど、事件は事件ですよ」

「そりゃそうっす。……来年の舞台にミステリもの、ありっすかね?」

「私はやってみたいわね。死体役とか」

「いや殺人事件はやらないっすよ」

「そうなの? 残念……」

 いやナタリア先輩。なぜ死体役をやりたがるのだろう。

「え、だって面白そうじゃない」

「そうですか……?」

 ちょっとセンスが解らない。

『待たせたわね、佳苗』

 と、そんなところに冬華から。

 冬華の視界が見ているメモには、白黒(モノクロ)世界の言語と図形。

 錬金逆行術。錬金術が実行される直前の状態を擬似的に作り上げるという式。

 錬金連鎖術。あらかじめ関連付けされた複数の錬金術あるいは複数のマテリアルもしくは複数の完成品に対して連鎖的に効果を及ぼす式。

 錬金探知術。自身が行使した錬金術が影響した範囲を探知するという式。

『概念は見ての通りの計算式、数式よ。それにやりたいことを当てはめなさい。あなたならば出来るわ、たぶん。で、この三つを組み合わせれば、壊れたトランクケースを完成する直前に遡らせ、連鎖術を曖昧化して強制適応。この全ての段階に探知術を引っかけてやれば、壊れたトランクケースの破片の位置を擬似的に探知できる。ただし、視界の範囲外の場合、座標が概念的に送られてくるだけだから、本来は使い勝手はよくないのだけど……あなたと渡鶴ならば大丈夫でしょう?』

 その通り。

 ていうか錬金術、こんなことも出来たのか。試そうとしたことすら無かったぞ。

『私も出来れば教えたくなかったわ……あなたに教えるとなんか、こう、私が想像するのとは違った現象を引き起こしそうなのよね……』

 …………。

 ノーコメントで。

 ていうか冬華、普通に喋ってるけど大丈夫なの?

『幸い授業中だからね、周囲にピュアキネシスの断層を作って防音中。移動がないからバレないのよ』

 納得。

 とりあえず応用の概略から実際に行使できるように組み立てて……っと。

 ……うん、たぶん行使できる。

 壊れたトランクケースがここからじゃ認識できないから、後でになるけど。

(ま、それはやむを得ねえ……っていうか、認識できてたまるかよ。どんなでたらめだ)

 いやあ、冬華ならあるいは手段を知ってるのかも知れないよ?

『教えるつもりは今のところ無いわ』

 ね?

(…………)

 結局、校長先生が戻ってきたのはそれから更に二十分ほど経ってからだった。

 そして校長先生が戻ってくる五分前にチャイムが鳴っていて、休み時間になっていることもあり、洋輔は副校長、冬華は事務員にそれぞれの方法で探りを入れている。

 で、それぞれの結論は、

(こっちは白だな。少なくとも本人が関わったって感覚はない。つーか、事件が起きてることすら知らねえ)

『白ね。事件の発生すら気付いてない始末よ』

 とのこと。

 単純な引き算で、校長先生がやっぱり黒……かなあ。

 ただ、校長先生から見えるニュアンスがどうも複雑なのだ。

 確かに関わってはいる。そう見える。

 けれど『これほどのことになるとは思っていなかった』……みたいな?

(気付かれないと信じ込んでた感じか?)

 ……いや、ニュアンスが違うね。

 もっとこっそりやると思っていた、もっと上手くやると思っていた、そんな感じ。

(……ふむ。つまり侵入の片棒は担いだが、それは事情があってのことで、その事情を済ませるだけならば『そんな大事にはならないはず』だった……とかか?)

 そうそう、そんな感じ。

 片棒を担いでる時点で黒に違いは無いけど、想定外の要素があったんだろう。

 校長先生にも……ルイス・フォスターにもね。

「ま、僕達が一番か……」

「うん?」

「いや、今回の件で一番悪影響を受けるのは誰かなと考えたんです。で、その原因は誰かなーって連想してたら、どっちも僕達自身なんじゃないかなって思って」

「…………。私はノーコメントだね」

 校長先生はノーコメントという形で肯定を伝えてきた。

 既に僕の機嫌が戻っている、ということは祭部長たちも理解しているようで、軽口の一種として僕のそんな『つい』呟いてしまった独り言に乗ってきた。

「ま、あなたは特に目立つものね。この前のテスト、かなり成績よかったんですって?」

「ああ、それ。おれもひびゃーから聞いたっすけど、学年成績何位だったっすか?」

「基本五教科では三位でしたよ。クラスでは一位。ただ、副教科は全部80点代だったので、全体で見ると十八位とか、そのくらいだったかな?」

「また極端な結果っすねえ」

「けれどそれもまた、かーくんらしいわよ。大体、かーくんの事だもの、実技ではほぼ全部最高成績なんじゃないかしら?」

「体育以外はそのつもりですよ」

 僕は少し困りつつ、けれどそこは指摘しておく。

「体育……って、それこそあなた、無敵じゃないの? そりゃあ、よーくんには負ける所もあるんでしょうけど」

「いえ。…………。僕、いわゆるところのカナヅチなんですよ。泳げない……」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「待って下さい。祭部長とナタリア先輩の反応は解ります。百歩譲って校長先生もまあ解ります。緒方先生は知ってなきゃおかしいでしょう」

「……いや、そういえば、たしかに水泳の項目で随分低い点数だったとは記憶しているが……、そうか、そうだったのか。ふうむ、君、泳げなかったのだね……」

「はい。ビート板の上に立って水上を移動することは出来たんですけど、ビート板を使ってバタ足の二十五メートルが十分くらいかかりました」

「待って? それはそれでどっちの意味でもどうなのかしら?」

 ナタリア先輩が当然の突っ込みを入れてきた。そうだよな。

「へええ。かーくんにも意外な弱点があるっすねえ……」

「そりゃまあ、僕だって人間ですから。それに僕は目立ってるだけで、僕以上に洋輔の方がすごいし」

 なんなら素のスペックなら冬華が一番纏まってるんだろうな。

 そして僕達三人では、

「隣町のあの兄弟には結局敵いませんよ」

「……あの伝説の兄弟ねえ。あの子達の事を知ると、渡来くんたちのやんちゃ具合が『子供の悪戯』に思えるほどだ、なんというか……。というか渡来くん。今の口ぶりだと、例の兄弟と面識があるのかい?」

「いえ、直接はありません。僕と洋輔の母校にあたる小学校に通ってた子が一人、その兄弟の兄がいる中学校に進学してまして。メールとかでちらほらと武勇伝が流れてくる感じですね……。逆に向こうも、僕達の情報は仕入れてる、みたいな話も聞きますが……。ま、お互い探り合いって感じかな?」

 伝説の兄弟。

 あるいは僕や洋輔、冬華でさえも敵わないであろう才能の塊。

 あえて関わる必要は無い――というのが僕達の考え方。

 そして恐らく、向こうも同じなのだろうなあ。

 ま。

 今はそんな兄弟のことよりも、警察を待つか。

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