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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 変わりゆく年度末
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62 - 雨天決行

 演劇部としての活動、バレー部としての活動、そして一生徒としての活動。

 さらには非日常としての僕達に異常としての僕達が居て、二足どころか五足ほどの草鞋で行動しているとなると、さすがに時間はあっという間に過ぎ去ってゆく。

 そんなこんなで3月7日、火曜日の放課後。

 演劇部による通し練習の二回目にして、新入生向けの先行体験入部実施日。

「あいにくの天候、ってやつっすねえ」

 と、体育館の窓から外を眺めつつ、祭部長がぽつりと呟いた。

 その直後に一瞬空が白く輝き、おくれてぴしゃん、ごろごろごろと雷の音。

 春前の嵐、とでも言うのだろうか。

 三月にしては珍しい、はっきりとした雷雨だった。

「それでも、今日を逃すと次の機会が取れません。そろそろ卒業式関連の行事で抑えられちゃいますし」

「かーくんの言うとおりよ。それに今日しか、先行見学会は無いんでしょう」

「そうなんすよねえ。ま、幸い演劇は体育館の内部で完結するっすから、外の天候はあまり関係もないっすね」

 既に先行見学会と呼ばれているけれど、一応演劇部の体験入部としては今日がメインにあたる。実はこれまでも殺陣の練習だとかにちらほらと見に来ている子は居たらしい、全然気付かなかった。

 尚、この件につついては知ってれば多少の対応ができたのに、と言ったところ、働き過ぎだと窘められてしまった。

「佳苗、セット展開完了したよ」

「サンキュ、洋輔。ということです、祭部長、ナタリア先輩。よろしくお願いします」

「ええ。それじゃあ既定の位置に向かうわね」

「おれもそうするっすよ。舞台装置のチェックはかーくん、頼んだっす」

「はい」

 祭部長とナタリア先輩がローブを脱ぎ、衣装姿で体育館の内側、見学をしにきている新入生や特に関係者である在校生の方へと向かい、挨拶を始める。

 一方で洋輔にはキャットウォークに上がって貰い、巻き取り系の再確認。一方で僕は舞台の上へと飛び乗って、軽くテープの位置やバレエシート、セットを展開する補助レールの確認などをしておく。

 五分ほどで祭部長から合図が来たので、インカムを取り出し装着、電源をオン。

「テステス。佳苗です。通し練習、ゲネプロの開始予定時刻に現時点で変更はありませんが、各種安全の最終確認を既定の通り行います。僕がこれから呼び上げた部門は、あらかじめ配布したインカムを通して体育館内に状況説明を頼みますね」

 そこまで通しで喋ったところで、また雷。

 大分近いなあ……、流石に天候変化は目立つし。諦めるか。

「まず大型セット部門、配置と固定の確認をお願いします」

「こちら大型セット部門。配置に問題なし、固定も三度確認しています。『良し』!」

「次に場面転換部門。人員の位置とシーンロールの重し、及び固定の確認をお願いします」

「こちら場面転換部門。巻き取り機構、固定に支障ありません。『良し』」

「次にセット調整部門。各種小物類の順番などの確認をお願いします」

「こちらセット調整部門。小物類のナンバリング良し、テープとの関連付けもしました。『良し』」

 これでセット系はとりあえず大丈夫と。

「次に音響部門。劇伴の再生タイミング、及び切り替えの手順と、接続の確認をお願いします」

「こちら音響部門。制御用のコンピュータの確認等は済ませました。が、一つ警告を。落雷があまり近くにあった場合、音が飛ぶかもしれません」

「落雷などの停電時はゲネプロを一度停止し、安全確認の後続行可能かどうかを確かめる予定です。問題がありますか?」

「いえ、大丈夫です。改めて、音響部門、『良し』」

「次に照明部門。第一から第四メインライト、フットライトの制御と、各種スポットライト。花道、及び張り出し舞台内の仕込みライトなど、接続と点灯の確認をお願いします」

「こちら照明部門。音響部門と同じく、落雷時の懸念はありますが、それ以外は確認済みです。『良し』」

「分かりました。最終確認、全て良し(オールグリーン)。ゲネプロ開始は予定した時刻に変更・補整無しで行います。各種人員は配置について下さい。また、このゲネプロを見学しにご来場していただいた方に向けて、改めまして僕からも各種説明をさせていただきます。本日の演目は二度目の通しリハ、本番と同等の環境において行われる完全版の演目です。台詞飛びや演技のミス、セット類の不具合などが発生した場合でも、演技を止めることは無く舞台を一度、完結させることが目的となります。公演の録画や録音、撮影はご遠慮下さい。もしそのような行為が発見された場合、その時点で退場していただく他、本番時の映像を記録した記録媒体をお渡ししません」

 まあ、公立の中学校の演劇部だ。

 そんなことをする人はそういないだろうけど、こっちも結構全力で手を入れているだけあって、警告も強めなのだった。

「本日は悪天候で、落雷や停電が発生する可能性があります。この場合、前述の通り一度通し練習を止め、その上で再開の判断を行うことになりますが、まずは安全確保のため、蛍光色の腕章を付けている避難誘導員の指示に従ってください」

 避難もなにも、万が一の罹災時の避難場所がこの体育館だったりするんだけど、まあそれはそれ。うん。

「それでは、間もなくゲネプロを開始します」

 お辞儀を一つ挟んでからインカムを外し、舞台袖へ。

 洋輔側からの感覚も使って、何ら問題が発生していないことは確認済み――うん。

 大丈夫だろう。

 祭部長やナタリア先輩と合流し、最後に三人の手を重ねるようにして、せーので「よろしく!」と声を出す。

 さあ。

 まだゲネプロだけど、お披露目だ。

 台本は全て頭に入れた。

 やるべき理想は、分かっている。

 ならば僕はこの身体をもって、理想としての芝居を見せつける――


「ならばこれは報いですね」

 瞬間、音が消え失せたかのように静かになって。

 ゆっくりと、ただし最速で演技は実行する。

 少しだけ遅れて、効果音として『折れる』音が響き、どたん、と倒れ込む音がして。

「大殿!」

 慌てて飛び込んできた侍姿の響谷先輩は、台本通りにまずは大名を見て、そして僕に向けて言う。

「曲者! 貴様――」

 刀が走り、尼僧姿で近侍(ぼく)は笑う。

 その瞬間だった。

 ピシャン、と言う音がして――舞台上の全ての電源が落ちる。

 『台本通りの消灯』――だけれど、これは。

(ああ。クライマックスもクライマックスで残念だが落雷だ、ブレーカーが落ちたくせえ。止めるか? それともラストシーン、強行するか?)

 ここから先、僕はもう出番が無いから……、ちらりと視線を舞台袖に送ると、祭部長が状況を理解したようで眉間にしわを寄せていた。祭部長は最後の傭兵、浪人としての侍の衣装になっていて、ラストシーンは花道に祭部長が向かうことで始まる……か。

 ならば、強行はできるな。できるけど……。

 あくまでも予定通りの体を装い、響谷先輩も強引に巻き込んで舞台袖へと流れ込む。そしてそのまま祭部長と目を合わせる――祭部長は大丈夫だ、やる気がある。ここまできたんだ、ラストまで通したいと言う事だろう。

(オッケ。まずはこっちで誤魔化す)

 頼んだ。

「明かりは僕と洋輔で誤魔化します。背景音は期待できません、演技力で誤魔化して下さい。ナタリア先輩は、祭部長が出れば理解するはずです」

「了解っす。頼んだっすよ」

「響谷先輩、予定変更です。そのまま音声室に行って、演技強行、間に合うならばラストの音ハメだけ、落雷原因なので無理はしないでオッケー、以上を伝えて下さい」

「分かった」

 尼僧衣装を一気に脱ぎ捨て、下着の上に直接、本来は衣装保護の目的で用意しておいたローブを着込んで誤魔化し、あらかじめ大量に用意しておいた非常灯を何本かとセロファン紙を手に取り、舞台袖から下に降りる。ほぼ同時に、祭部長は花道へと歩み始めていて、その花道の先には全ての電源が落ちているにもかかわらず、スポットライトのように光を浴びているナタリア先輩が分する『町娘』が居た。

 洋輔がキャットウォーク上で複数の非常灯を束ね、鏡に当てて収束、疑似スポットライトとしてでっち上げたらしい。魔法とか使って良いならもっと早いんだけど、流石に目立つしね。

(そういうわけだ。しかしこのままだとスポットライトだけだぞ、明かりの表現は)

 僕がやる。

 本来ならば栄えた街だ、相応の背景音があるはずだけど、今はそれが期待できない。

 だからだろう、祭部長が分した浪人はあっさりと台詞を改変した。

「おやおや。このような田舎……いや失敬、村には勿体ないべっぴんさんよな」

「まあ。お褒めになってくれますの、お侍様」

「はは。いや、失敬。ふむ……君、ここから最寄りの城までどのくらいの時間が掛かるか分かるかな?」

「二刻ほどはかかるでしょう」

 その言葉に併せて、向かい側の花道、セットの上に登った僕は非常灯とセロファン紙で『夕日の明かり』をでっちあげる。もともとは昼下がりという予定だったけど、これで多分……、

「今日はこの村にお泊まりくださいな、お侍様。もう日も暮れてしまいますわ」

「そうさな、そうさせていただこう。時に君は宿のものかね?」

「はい。小さな宿場ではありますが」

「そうか。これはよい巡り合わせだ」

 二人は予定に無い台詞で、予定に無い動きをする。

 それに併せて、洋輔と僕も光を向けて。

「お侍様はどこのお方なのですか?」

「む、某は……ふふ、つい最近まではとある大名様に仕えていたのだがな。その大殿が暗殺され、その後は家督争いにて滅び、このように新たな主を求めて居るのだ」

「さようですか……それは、差し出がましい事をお聞きしました」

「気にするでないよ。ふむ、しかし感謝の白湯程度は貰いたいが」

「かしこまりましたわ」

 二人はそのまま、花道から袖へと入っていく――それに会わせるように、かん、かん、かんかんかんかんかん、と木の叩く音。

 ……なるほど、拍子木で閉めたのか。

(ひょう……しぎ?)

 歌舞伎とかの閉めに使うやつだよ。聞いた事あるでしょ?

(ああ、聞き覚えはあったんだが。……よくそんな音を出せる道具、あったな)

 ちゃんとした拍子木じゃあないだろうけどね……いざという時の補強用に用意しておいた角材を使ったんじゃ無いかな?

 やったのは響谷先輩……、とも思えないけど。

 会場内に拍手が一通りされた後、僕はそのまま壇上に向かってちらりと舞台袖を確認。果たして拍子木のような音をだしていたのは、やはりセットの補強用に用意しておいた予備の角材で、それをやってくれたのは昌くんだったらしい。

 なんか納得。

 ありがとう、とお辞儀を一つしてから、改めて。

「現在、落雷により停電中です。ゲネプロは強行しましたが、予定の演技は完了しました。本来ならばこの後カーテンコールがある予定でしたが、それは端折ります。インカムは暫く使えません、手間ですが返答は演劇部三名の内の誰かに直接して下さい。電気機材を使っている部門は、全ての機材のコンセントを抜いて安全を確保の後、報告をお願いします。明かりは当面、避難誘導用のライトを使って下さい。電気機材を使っていない部門は撤収準備を後回しにして、体育館メインフロアに集合をお願いします。教員の皆さんは、見学者のフォローを主に頼みます。一定間隔で避難誘導用の緊急灯は用意してありますので、ソレで当面の明かりは確保して下さい」

 こんなものだろうか?

「かーくん、ブレーカー復帰出来るって。どうする?」

「少し待って貰って下さい、いきなり通電させると不具合があるかもしれません」

「伝えてくるわ」

 仕切りを入れて居たら事態は進んでいた。

 強行すると決めた直後、ある程度響谷さんが動いてくれていた感じかもな。

 後でお礼言わないと……。

 落雷による停電で見学者達が特に動揺することがなかったのは幸いだ。

 停電のタイミングにはある意味恵まれたのかも知れない……またとない絶妙なタイミングだったもんな。

(言えてる。つってもさっきの雷がラストらしいぜ、晴れ間が覗き始めてる)

 …………。

 本当に絶妙なタイミングだね……。

 もう三十分ほど遅くしてくれれば被害無かったんだけどなあ。

「渡来くん、大丈夫なのかな、この状況」

 緒方先生は心配気味に聞いてくる。そりゃそうだ。

「各部門に災害時マニュアルは配布、徹底してあるので、たぶん大丈夫……だとは思います。落雷による停電とは言っても、ブレーカーが落ちただけみたいですし」

「手際が良いというか、なんというか。その徹底ぶりに助けられたね」

「全くです。もっとも、それを準備することを提案したのは僕では無く茱萸坂さんですので、彼女の功績ですよ」

「ふむ? 作ったのは誰だい?」

「……さて、ライトの確認してこようっと」

「渡来くん。働き過ぎは良くないよ、若い内は楽をしなさい」

「いや逆じゃ無いですかそれ」

「やはり聞こえているようだね」

 最近上手くあしらわれるケースが増えてきたな……。

 結局この日の見学会を含めるゲネプロは落雷の後始末を優先と言うことで、打ち切られた。それでも概ね全ての行動が確認出来たので良しとすることになっている。

 で、見学者の感想の一つとして葵くんの言葉を流用させて貰おう。

「いやあ、落雷までが演出なんじゃないか! って村社と話してたんだよ、オレたち。実際そうだったんじゃないの?」

 天候を操るのは難しいよ、と言っておいた。

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